かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

理解することと諒解すること

2010年01月04日 | 手作り本と表現活動

前々回に書いた飯塚先生の本の紹介で「引き出す」教育ではなくて、「受け止める」教育のことを書きましたが、同じような表現で「諒解」という言葉がありまです。

これもまた、1年の半分を上野村で暮らす哲学者、内山節さんのよくつかう表現です。

年末のテレビ番組のなかで、内山さんが書いていたこととまったく同じような場面が放映されていたので、
このテーマだけでちょっと書いておきます。


身近な人の死に接したとき、その死をどのように受け入れるか、
それはまさに人によって様々なものです。

それは決して、今の脳死判定論議で言われているような、心肺停止や脳への血流停止からどの段階に至ったら「人の死」と断定できるのかといったはなしではありません。

かつて太平洋戦争で、夫がインパール作戦に参加して戦死したとの知らせを受けた妻。
遺骨も遺品ない戦死の知らせ。
妻は、あのしぶとい夫がそう簡単に死ぬはずがない。きっとどっか山奥に隠れて生き延びたに違いない。
おそらく現地で妻でもめとってそのまま暮らしているのだろう。
今頃、日本に帰るタイミングも逸してしまい、気まずい思いをして暮らしているのだろう。
そう思って、60年以上たった今も夫の死を認めていないという。

この妻の思いは、もしかしたら勝手な思い込みではなくて、この妻の言うとおり事実なのかもしれない。
なぜなら夫の死を証明するものはなにもないのだから。

他方、まったく同じ状況で証拠はなにもなくても、その知らせをうけたときに
「きっとそうなのだろう」と、夫の死を受け止めて、ずっと位牌に手をあわせている人もいる。

この違いを、他人から見てどちらの方が正しいと言えるでしょうか。
どちらの場合も、生物学的な死はまったく問題になっていません。
それぞれが「死」というものをどう受け止めるかの問題で、そのそれぞれのプロセスこそが「死」というものの、人間社会での意味なのだと思う。

もっと身近なところでも、日常的に家族などの死に接したその瞬間から、わたしたちは似たようなことを体験しています。

葬儀の準備にはじまり、さまざまなその土地のしきたりを面倒だと思いながらも、それにつきあい、追われる時間のなかで、私たちは少しずつ身近な人の「生物学的にはわかりきった死」というものを「受け入れ」て「諒解する」準備をしている。

民族によっては「死」というものを日本人には想像つかないほど、あの世に行けただけのこととしてドライに受け止められるところもあるようですが、多くの人々は、なんらかのかたちで、生物学的なことを論理的に理解するといったこととは別の次元で、その事実を「受け止める」「諒解する」といったことが、不可欠の営みとして持っています。

ところが、この「受け止める」「諒解する」というプロセスを、現代ではことごとく除外し続けてきました。

先の飯塚先生の「受け止める」作文を行っている教育現場でも、日常は「論理的に」「理解する」ことのみが要求される。
試験の問題に対して、その答えがAであるかBであるか、私はそのどちらも「諒解する」「受け止める」などと応えても、ものわかりの良い子どもだと褒められることはなく、確実に落第するのがオチです。

ビジネスの現場などでは、一層「論理的に」「理解すること」が求められ、「受け止める」「諒解する」などと言っていたならば組織は動かせない場合が多い。

にもかかわらず、
良好な人間関係を築こうとするならば、
教育現場においても、
ビジネスにおいても、
家庭においても、
共通して、「理解すること」以上に、「受け止める」こと、「諒解する」ことが極めて有効であると言われだしました。

しかし、このプロセスには、とても時間かかかります。
「論理的」とはいえないかもしれませんが、かなり多くの「言葉」も要するものです。
個人の努力だけでは報われない隣人の助けを要するものです。
時にはお金もないと出来ないこともあります。
教科書にはない、たくさんの知恵を要するものでもあります。

でも、この流れが自分の身の回りに少しでも見えたとき
経済不安がどうであれ、政治不信がどうであれ、
わたしたちはほんの少しだけ、これまでにはなかった暖かい希望を
身近に感じることができるようになるような気がします。

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