Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

米国における最大手前払式携帯電話プロバイダーの誤解を招く広告と連邦取引委員会との民事告訴和解

2015-02-18 10:50:49 | 消費者保護法制



 米国ではその利便性等からプリペイド方式の携帯電話の利用が一般的である。 (注1) 1月28日、連邦取引委員会(FTC)は加入者数が約2,500万人という米国市場の最大手携帯電話会社である”TracFone Wireless”(以下”TracFone”という) (注2)に対し、2009年以降、顧客に月額約45ドルで「通話、テキストやデータ量等につき無制限利用権」をうたう様々なブランド名(Straight Talk Wireless ;Net10 Wireless ;Simple Mobile ;Telcel America )を用いた広告を行う一方で、契約者は一定期間経過後は通信スピードの大幅な減速等を実施するとともに、場合によってはサービス提供の停止をうかがわせる一方的音声メッセージを送りつける等の違法な事実の調査結果に基づき、告訴を行った旨リリースした。

 FTCのカリフォルニア北部地区連邦地裁あて告訴状(complaint to TracFone)
(注3)は、これらの誇大広告文言やサービス約款(policy)違反について、最終的に”TracFone”は利用権の各種制約に関する開示説明を行わず、モバイル携帯データ・サービスにつき無制限の利用権をうたう欺瞞的な広告を行ったことをもってFTC法(Federal Trade Commission Act)第5条(Unfair or Deceptive Acts or Practices)違反を理由としてあげている。 (注4)
 今回、同委員会が賛成5-0で裁決した和解内容は、(1)TracFoneに同データサービスにつき明確かつ明らかなかたちで通信スピードや品質に制約を説明するよう求めた。さらに(2)サービス面で影響を受けた顧客の損害を補填すべく4千万ドル(約42億8千万円)の基金を設置するというもので、同時にFTCは被害者の損害額還元プログラムに関する専門サイトを設置した旨告知した。
 また、FTCとの和解においてTracFoneは、(3)FTC命令の施行の1年後に、彼らは和解内容を遵守する報告書を提出すること、(4)同報告はTracFoneの製品(サービス)を詳述すること、(5)どのようにFTCとの和解内容に従っているかについて明示すること、(6)同報告は、今後10年間毎年FTCに送付すること等厳しい内容である。 他方で、英語力に自信がある読者は前記各ブランド・サイトを丁寧に読んでほしい。そこで浮かび上がる疑問点はいうまでもなく、各社とも今回のFTCの処分内容・法令遵守の理解ができていないと思われる点である。筆者の理解する範囲では、FTCのTracFone告訴の内容のコア部分はなお遵守されていないと思う。

 今回のFTCのプリペイド携帯電話会社に対する告訴は2014年10月28日の”AT&T Mobility LLC”に対する告訴(FTC Says AT&T Has Misled Millions of Consumers with ‘Unlimited’ Data Promises)に続くものである。
(注5)
 筆者が、この問題を取り上げた背景には、わが国でも同様の問題を抱えるサービス・ベンダーがありうるし、この問題は単に一部のプロバイダーに限られないと信じているからである。同時に、過当競争下にあるわが国のモバイルサービス会社等の監督・規制機関は、現状どのような取組を行っているか、正確にフォローする意味でも参考とすべく本ブログをまとめた。

1.FTCの告訴の背景となる違法な広告行為の内容
(1)告訴状によると、TracFoneはそのブランド名を用いてテレビ、ラジオ広告、印刷物、店内ディスプレイその他のメディアを介し「無制限利用権」プランを市場に出した。これらのブランド広告はスペイン語を話す消費者層等に積極的に行った。
 この広告文言とは反対に、TracFoneは消費者の利用開始30日後等一定の期間経過後または大量に使用した後、60%時として90%という大幅なアクセススピードを落としたり(ストリーミング・ビデオ (注6)等オンラインの利用スピード)、完全にデータ送信を遮断するというものであった。
 すなわち、FTCの調査結果によると、TracFoneは制限時の送信制限を変更し一般的に見て1~3ギガバイトを利用したときにスピードの低下が生じた。また、4~5ギガバイトで利用した時はサービスそのものが停止した。

 また、これらの制限はネットワークの混乱を回避するという単に技術的な理由によるものではなく、むしろTracFoneの内部文書によると、同社のデータ処理方針は無制限のサービスを提供することで生じる高いコストを減じる目的で行うことが明記されている。
 2013年9月から始まったTranFoneの顧客による無制限の使用規制を無理やりに抑えるビジネス実務を始めた。しかし、その内容について顧客への説明は明確でなくかつ曖昧な文言であり、多くの場合、極めて小さな文字表示でありまた顧客が見逃して当然といえるパッケージやユーザーカードの裏面等への表示であった。

(2)FTCの他のプリペイド携帯電話サービス・プロバイダーに対する警告内容
 FTCのリリース文は次のような警告を載せている。
①モバイル製品やサービスは「new(ish)」をうたっても、適用する「真実の広告の原則(Truth -in-advertising principle) 」 (注7)に基づくものでなくてはならない。かつ、その主たる教義の1つはFTCは消費者の見方を代表するという点である。すなわち、明らかな例をあげると本当な意味で「制限」であるものを無制限と表現するのは賢明でない。


②FTCは次のような欺瞞広告に対し、次のような警告を鳴らし続ける。
欺瞞的な広告を阻止するため情報の公開が必要である限りこれらの事実の公開は明確かつ目立つ形を取る。
 事業者が引き続き無制限利用権をうたうのなら消費者が見逃さすような小さな文字表示は避けねばならない。具体的にこれら企業が取るべき留意事項についてはFTCのスタッフガイドが作成した解説サイト(How to Make Effective Disclosures in Digital Advertising)等を正しく理解すべきである。


③類似の最近係属している類似の裁判と同様にTracFone還付手続きは係属中のクラスアクションと調整がなされることになろう。これらの裁判はFTCの法執行行為としては個別のものであるが、消費者の利益のため手続きの効率化の観点から関係機関と協働して動くつもりである。

(3)今回の和解に基づき消費者が請求請求するための手続き、内容等
 ”Straight Talk”、”Net10、"Simple Mobile"、"Telcal America"が契約上で取り交わしたが、実際提供されなかったことを事由に利用料金の還付(refund)を求めることを可とする。2015年1月以前に各社と利用契約を結んだ消費者は還付請求手続きのために専門サイト(Straight Talk, Net10, Simple Mobile, and Telcel America Refunds)にアクセスすることになる。この還付は実際にアクセススピードが遅くなったり、利用できなく場合に認められる。すなわち、この点が明らかでない消費者の場合は、改めて還付請求権の手続きを行う必要がある。

2.和解内容の補足
 前述の説明のほか、FTCとTracFoneとの和解内容は次のとおりである。
①TracFoneのFTCに対する報告は今後10年間継続しなくてはならない。
②このレポートは、次の10年の間毎年送られなければなりません。
③TracFoneは、特定の顧客アカウントや個人的な記録を作成しなければならない。
④FTCの命令受信後14日以内に、TracFoneは文書作成や廃棄等により多くのようなもののために、FTCから示されるいかなる要求文書にも応じなければならない。

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(注1)米国のプリペイド携帯電話の普及の実態については2011.8.1「圧倒的に安い米国のプリペイド式携帯電話」を参照されたい。また、docomo USA Wirelessの広告サイトを見てほしい。「使い放題」をうたっているがFTCの警告の対象ともいえよう。

(注2) TracFoneが米国最大の携帯電話会社グループになった経緯は、当然のごとく吸収、合併を重ねてきたことはいうまでもない。

(注3)告訴内容は、恒久的差止めおよびその他衡平法上の救済(complaint for permanent injunction and other equitable relief)である。

(注4) FTCは連邦政府による消費者被害の公的救済public remedy)の所管機関である。詳しくは、神戸大学大学院法学研究科講師 古谷貴之「米国における原状回復、ディスゴージメント、及び民事制裁金制度-SEC及びFTCの場合」等を参照されたい。

(注5) TFCのAT&Tに対する告訴の内容はFTCサイトで解説されている。ただし、FTCとST&T Mobile LLCの間の和解等の問題は現時点では未解決である。

(注6)
「 ストリーミングは、従来のダウンロード再生と違い、まずメタファイルをユーザーのパソコンにダウンロードし、音声・動画ファイルをダウンロードしながら同時に再生するため、再生までの待ち時間がほとんどありません。 再生時間の長い大容量の音声・動画ファイルでも、ユーザーに負担をかけません。」 (php javascript room) から一部抜粋。

(注7) FTCがいう”truth -in -advertising principles”の具体的内容とは、例えばモバイル・アプリ開発業者に対するガイドラインを2012年9月5日に公布している。


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カナダのラジオ・テレビ・通信委員会は電話名簿業者と迷惑電話規制規則に基づき約2,444万円の罰金刑の和解

2015-02-09 18:32:03 | 違法なマーケテイング規制

Last Updated:June 14 ,2020


 1月20日付けのカナダのラジオ・テレビ・通信委員会(Canadian Radio-Television and Telecommunications Commission:CRTC)は、カナダの電話情報業者(telelisting co.)(telephone directory services)である”Hamel System d’Information2000 Inc.” (注1)に対し、カナダの「受信者が希望しない迷惑電話(一方的電話勧誘拒否登録)制度の規制に関する連邦規則(Unsolicited Telecommunications Rules)(以下「規則」という)」に違反したことを理由に和解の一部となる26万カナダドル(約2,444万円)の罰金刑の支払いに同意した旨を通知した。さらに、CRTCは不動産仲介業者やブローカーに対し、法令遵守の警告通達を行っている。(注1-2)

 ここで取り上げた”Telelisting business”すなわち”Online Lead Generation ”についてわが国では定まった訳語さえないが、米国等海外ではかなり以前から
(注2)ビジネスとして定着している。簡単にいうと「見込み客獲得のためのマーケテイング手法」をいい、アフィリエイト広告との違いは、自社サイト以外から見込み客情報を取得することが出来るという点である。
 Internet業界で大きな影響力をもつTechCrunchの創業者 Michael Arringtonが2009年10月末に、Facebook、Zyngaおよび一部の広告会社等のソーシャルゲームに関係する会社を、悪質な詐欺広告(Lead-Generation Scam)で消費者に多大な被害を与えているとして告発するなど問題が起きている。

 カナダにおいてもニュービジネスであることは間違いない。一方、筆者が従来から問題視している迷惑電話の規制に関するわが国における具体的な検討はまったく進んでいない。
 同規則の適用の前提となる米国
(注3)カナダ、オーストラリアなど主要国の迷惑電話規制制度である“Don’t Call Registry”については、2010年10月24日付け筆者ブログ「オーストラリアの連邦ブロードバンド・通信・デジタル経済省(DBCDE)サイトに見る詐欺電話被害の急増」本文中で主要国の“Don’t Call Registry”の実施状況について簡単にまとめておいた。また、カナダは2014年6月25日、プライバシー保護強化の観点からそれまで登録希望者は一定期間ごとに再登録義務があった制度を見直し、恒久的登録制度に改正した。

 他方、最近の電話セールスは単に強引な売込みではない、いわゆる個人情報収集型の電話が増えている。最後にそれへの対策のヒントを筆者の経験をもとに紹介する。


1.CRTCの消費者からの苦情に基づく調査と違反事由の特定 
 CRTCの1月30日のリリースによるとカナダ国民からの苦情に基づき、CRTCが調査した結果、Telelisting会社である”Hamel System D7Information 2000 Inc.が自社の顧客のために「規則」に違反し、”National Do Not Call List”(DNCL)の違法に内容を明かした事実が明らかとなった。
 すなわち、2012年7月10日から2014年7月10日の間、Telelistingは自社内ではない外部の者(彼らはDNCLのオペレーターに年額加入料の支払い義務を実行していないか加入自体行っていない)とDNCLの登録内容を共有した。
 今回のCRTCの告発によりTelelistingは上記罰金に加え、今後自発的に包括的な法令遵守プログラムを実行するとともに不動産業界における規則の理解向上に貢献することを公約した。

 第三者の電話情報業者の利用はDNCL加入の代替ではない、すなわち、不動産業者や不動産ブローカーを含むすべてマーケテイングを行う者はDNCLに加入しなければならない。規則に従わないマーケテイングを行わない限り、マーケテイングを行う者は電話を希望しない消費者のリストと更新情報を得るため、DNCLに加入しなければならない。

 日頃からCRTCはマーケテイングに従事する個人、会社や団体に対しその内容の修正を指摘すべく議論を重ね、また行政罰金やその他の業務改善措置を含む和解などを行っている。
 さらにCRTCは法令違反警告、出頭命令、査察や違反通知を発布する。

 これまでCRTCの法執行行為において計570万豪ドル(約5億3,500万円)の罰金刑を得た(2013年から2014年間だけ見ても罰金刑の総額は約100万ドル(約9,400万円))。なお、同リスト登録者数は1,270万人以上である。

2.カナダにおける恒久的一方的電話勧誘拒否登録制度への改正 
 2014年6月25日、CRTCは”DNCL”の恒久的登録制度の実施:Compliance and Enforcement Regulatory Policy CRTC  2014-341」を公表した。1,200万人以上のDNCL登録者があり、平均して毎日1,200人が新規に登録している。
 2008年の全カナダベースでの違反行為に対する行政罰金の調査では約1,200件の調査を行い、行政罰金額合計は約400万ドル)(約3億7,600万円)である。
 それまで、登録希望者は一定の登録期間の後に再度登録しなおす義務があった。また、登録希望者はいつでもDNCLの登録先を削除することができる。

 同委員会における恒久的登録制の実施のほか関係業界に対し、その運用の透明性を強化するため、業者が行っている電話番号の遮断やDNCLからの登録番号の削除システムにつき、定期的に再検査すべく委員会内の「相互運用検査員会(CRTC Interconnection Steering)」において継続的に働き続けることを明確化した。
 今回の改正の背景、関係業者・消費者団体等との検討経緯等については同委員会サイト「法遵守および法執行における監督規制にかかる政策-2014-341」を参照されたい。

3.最近の電話セールスは単に強引な売込みではない、いわゆる個人情報収集型の電話が増えている。最後にそれへの対策のヒント
 わが国におけるDNCLの導入時期はまったく未定である。従って、消費者としてはワン切電話は別としても、次のような対応が有効かと思う。
①かかってきた電話に一切答えないこと、②録音すること、③すぐに電話を切らないで無言のままでいること、そのうち相手は電話代が無駄になるので自ら切る。

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(注1)北米のtelisting会社(telelisting.net)の利用企業(マーケッター)向けのPR文言仮訳する。
「北米で展開する企業Telelisting社の任務は、北アメリカ中で人々と企業が最高のオンライン売上を提供することによる彼らの完全な売上と収益可能性が生成ソフトウェアを導くと理解するのを可能にすることにつながる。 また遠隔リストは、あなたがより多くの収益をかせぐのに役立つ総合的リードする世代と管理ツールを提供する。
毎日、当社は不動産仲介業者とブローカーや保険会社、投資ブローカー、金融サービス・アドバイザー、コールセンター等企業やプロは活動のすべてのセクター収益機会を増やす。当社の製品は、カナダとアメリカ合衆国で20,000人以上の満足するマーケテイングを業務とする顧客に利用されている。」

 なお、同社は米国やカナダのマーケッターに対し、①Do not Call Registryのリストとの統合済の電話帳を提供すること、②通話記録のサポート、③迅速な検索機能、④Google地図に基づく近隣検索機能等をうたっている。

(注1-2) CRTCの警告内容は年度ごとに「Notices of Violation」で確認できる。ちなみに2015年の場合のURLは”https://crtc.gc.ca/eng/DNCL/dnclc_2015.htm”である。

(注2) Lead-Generation Advertisementから派生した詐欺広告である。Lead-Generation Advertisementとは
•Lead(見込み客)を獲得(generation)するための広告
•アフィリエイト広告との違いは、自社サイト以外から見込み客情報を取得することが出来るという点である。具体的には以下の通り
インターネット上で(1)見積依頼や(2)セールスの連絡を受けることに同意している人の連絡先情報などを、その取得した実数に応じて、広告主から広告会社に支払われる広告費用で、(自社サイト経由だけではなく)、クレジットカード等の申込フォーム記入時や、アンケートサイトや、懸賞サイト、会員登録サイト等、(自社のサイト以外の場所から)取得する場合もある (2008年「CNET 米国で急成長する「Lead Generation 広告」とは」から一部抜粋)

(注3)米国の電話勧誘拒否登録制度である”Do Not Call”に関して最近ニュージャージー州はモバイル電話(Cell Phones)によるテレマーケテイングにおける規制緩和を即時施行する一部法改正を行った。米国のローファーム”Jackson Lewis P.C”の解説ブログ記事「ニュージャジー州はモバイル電話によるテレマーケテイングの一部法改正」、Davis Wright Tremaine LLPの記事内容を統合して仮訳する。

○ニュージャージー州のクリス・クリステイ知事(共和党)は顧客の携帯電話に対し、既取引のある顧客に対する場合、および顧客から書面による求めに応じる場合に限り、テレマーケテイングのモバイルあてに電話(telemarketing sales call)をかけることを認めるとする法案(S.1382)に署名した。
 改正前の”Do Not Call”に関する規制州法(N.J.Stat.§56:8-130)では、携帯電話会社による顧客向けのセールス電話で自社のモバイルサービスに関するものでかつ顧客に電話代が発生しない場合以外のセールス電話は禁止されていた。このように従来の”telemarketing sales call”の定義は広く、特定のセールス電話(例えば、アカウントの収集または契約上の責務のフォローアップ等の目的のみ)以外の例外は認められていなかった。 ,
○なお、同州の法改正後においても、テレマーケテイング会社は連邦電話消費者保護法(Telephone Consumer Protection Act of 1991)に準拠する義務があり、すなわち、自働ダイヤルシステムや事前にメッセージを録音したような携帯電話に対するセールスコールには事前の明白な本人の同意ルールやオプトアウトルールは適用されるのである。

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カナダ政府の国民をテロから守るための具体的対策を盛り込んだ「2015年反テロ法(案)」の内容とその意義(その1)

2015-02-05 18:00:01 | 国家安全保障・テロ対策



 Last Updated:May 15.2021

 1月30日、カナダのハーパー首相(Prime Minister Stephen Harper)は拡大するテロの脅威と国民や社会の安全を守るため警察等法執行機関や国防省等国家のセキュリティ機関の権限強化を内容とする新たな立法措置の概要を発表し(注1)これに引き続き連邦議会では同法案の具体的審議(注2)が始まった。

Stephen Harper首相


 わが国では、日本人2人の人質がイラクとシリアで活動しているスンニ派イスラーム教原理主義組織であるISIS(ISIL)の残虐な行為に対し激しい憤りを覚えるとともに、世界中で活躍するNGO・NPOやビジネスマンやその家族等に危害が及ばないよう迅速な対応を取る必要が改めて指摘されよう。また、同時にわが国内で仮に2014年10月にカナダで起きた戦没者記念碑、カナダ連邦議会でのISISシンパシーのテロ事件問題の扱いの対応が問題となろう。

 従来からISIS等イスラム教原理主義グループに対する武力攻撃等を行っている米国やテロの被害にあったフランス等EU主要国等が極めて厳しい警戒態勢を敷くとともに、例えば、オーストラリアは反テロ立法を成立、または英国では最終法案審議を行うなど国内テロ阻止に向けた立法措置を行っていることはいうまでもない。
(注3)(注4)

このような状況下で、同首相はカナダ国内におけるテロ支援、擁護者を決して許さないとすることを2014年10月の連邦議会等へのテロ攻撃の直後に明言した。

 このカナダのテロ対策立法の概要につき、わが国のメデイアでも言及しているものがあるが
(注5)、その指摘は立法論および人権擁護問題として参考になる内容ではない。
 しかし、一方でイスラム国を名乗るテロ集団を厳しく糾弾すると言うのみのわが国政府の姿勢も「無責任」である。また、外務省の海外安全情報サイトのテロ情報の不徹底さも極めて問題視すべきと考える。

 わが国の現実は、各種民間NGO,JICAボランティア
(注6)や、現地派遣ビジネスマンやその家族、旅行者、自衛隊員等多くの日本人が仮に標的なるとしたら、さらには国内においてsympathyを感じたり、心情的に支援する者がいたとすれば、どのような結果が起きると考えるべきか。

 筆者が海外の主要国の取組みにつき情報を持つが故の過剰反応、不安かもしれないが、少なくともテロ阻止だけでなく人権問題と深く関わる問題でもあり、制度論としては今から検討することは決して無駄ではないと考え、本ブログをまとめた。
(注7)(注8)

 なお、本ブログ執筆中にもカナダの王立騎馬警察(RCMP)やその他法執行機関による国家安全保障法執行チームが現行刑法に基づくテロ犯罪容疑3名を逮捕、起訴した旨リリースがなされた。カナダの国家レベルのテロ対策プロジェクトの概要とともに追加して解説する。

  今回は2回に分けて掲載する。

1.ハーパー首相の発言要旨
(1)背景の説明
 筆者なりに、カナダの公式声明や地元記事等に基づき事実関係をまとめると次の点が首相や与党の立法論の背景といえる。

 カナダでは、2014年10月20日に東部モントリオール郊外で兵士2人を車ではねて1人が死亡する事件が起きたが、容疑者はイスラム教に改宗しイスラム過激思想に傾倒していた。また、同22日にケベック州サン ジャン サー リシュリュー(Saint-Jean-sur-Richelieu)の戦没者慰霊碑警護の兵士(ネーサン・シリロ伍長)がテロリスト狙撃・射殺され、その後、連邦議会に侵入、犯人(マイケル・ゼハフビボー(Michael Zehaf-Bibeau)容疑者(32歳))は射殺されるという事件が発生した。
 また、筆者がカナダのメデイアで確認したところでは、ISISに対する有志国連合のなかで唯一軍事攻撃に参加している問題が同国の議会でも大きく取り上げられている。

 このような背景からもカナダが内外のカナダ国民に対するテロリストの攻撃に敏感な事情が読み取れよう。
 なお、英国大手メデイアである「ザ・ガーディアン」は10月22日付け記事が事件の経緯、、またカナダの独立系大学新聞「コンコルデイアン」(注9)等がカナダ国内のイスラム教への改宗者の実態やカナダ軍の中東、東欧、アフリカ等における活動を生々しく解説している。

(2)政府による法案の概要説明
 プレスリリースで明示されている法案の具体的内容を見ておく。これらの法改正や新規立法を含む包括的法案がいわゆる”Anti-Terrorism Act 2015”である。 

①一般的にみたテロ犯罪の擁護や推進行為を犯罪行為とする。
②わが国裁判所にオンラインによるテロリスト教義の削除命令を発する権限を与えることで、テロリストの補充活動を無効化・阻止する。
③裁判所による監視活動を確実化する一方で、カナダ国家安全情報局(Canadian Security Intelligence Service:CSIS)カナダの安全保障に対する脅威に向けた活動権限を強化する。
④法執行機関にテロ犯罪やテロ活動の阻止させる権能の強化する。
⑤テロに関与する目的をもった航空機の利用阻止や安全輸送にかかる脅威を一層減ずるため「顧客保護プログラム(Passenger Protect Program)」を強化する。
⑥法執行機関にテロリストがカナダ国民を傷つける前にテロリスト容疑者を拘留し、また裁判所の命令違反に対し罰則を強化することをより簡便にする。
⑦連邦省庁間でテロの脅威の特定やその取組みにおいて国家の安全保障にかかる情報の効率的かつ責任を踏まえた情報の共有を可能とする。
⑧この法案の一部ではないが、政府は個人が急進的思想を持たんとする兆候を示すときは、地域社会とともに過激化の阻止や介入に向け動く。
⑨国家安全保障機関に、カナダに脅威をもたらす者に対し入国や非市民の地位を拒否するときに、機密情報の保護やそのよりよい使用を保証する。
⑩国家安全保障手続きおよび更なる起訴において証人やその他の参加者を提供する。

 なお、首相サイトでは、前述のとおり、議会の法案審議に資する意味から解説とリンクしている。あえて、①、②について併記・仮訳するとともに、筆者の判断で補足・説明した。
①一般的に見たテロ犯罪の擁護と推進行為の犯罪行為化の内容
 現行カナダ刑法においても他者に特定のテロ犯罪を助長の助言や行動は犯罪である。しかし、現行刑法(Criminal Code)はいかなる特定のテロ行為が該当するか明記されていないため、他者に「カナダ国内におけるテロ攻撃の実行」を説示する行為として必要に応じて刑法を適用することができない。
 今回の法案は、カナダ国民への攻撃を含むテロ行為やその助長行為を犯罪とする新たな刑法規定を新設することで、テロをあおる教唆行為を阻止することに寄与する。新設の刑罰は最高5年の拘禁刑で、この刑罰レベルは不特定のグループに対し大量虐殺を擁護したり推進した犯罪に対する刑罰と同等である。また、刑法に定める教義のプロパガンダ活動を規制する3つの犯罪のもっとも重大な犯罪にあたる。
 法案ではテロの結果がもたらされるか否かにかかわらず、また故意または過失にかかわらず意図的なテロの擁護や助長行為を禁ずるものである。

②テロ教義プロパガンダ・データ・資料等の押収
 カナダ国民の考えを急進主義者化しまたテロのシンパ募集を目的とするテロリスト教義の拡大を狙うテロ団体の能力を制限するため、本法案は刑法にインターネットを含むテロリストの教義手段を押収し、頒布による拡大を排除させる命令の新たな発行権を裁判所に与えることを意図している。これらの押収はすべて司法命令(judicial order)を要することとなる。
 この新たな手段は英国、オーストラリアやその他の同盟国にすでにある法律と類似する。例えば、英国法のモデルで見ると(注10)テロを賛美または賞賛するソーシャルメデイやウェブサイトの分解や手段への当局の規制を認める「2006年テロ法」を制定、厳しい運用を行っている。(注11)
 また、オーストラリアの通信・メデイア規制・監督機関であるACMA(通信メデイア庁)はテロ勧奨や暴力、性描写等オンラインの内容に対する利用者の苦情申立サービスを実施している。ACMAは苦情を受け付けた後、ISP等サービスの提供事業者に通知を行い、その命令内容を記録する。

 カナダの現行刑法は裁判所に対し子供ポルノ(child pornography)や憎悪のプロパガンダ(Hate Propaganda)に関する素材の押収(seizure)や没収(forfeiture)を認めている。(注12)しかし、現行法はテロリストに関するプロパガンダについての規定はない。
 法案はテロリストのかかるプロパガンダに適用すべく2つの押収令状を作成する。テロ犯罪の実行を命じたり一般的なテロ犯罪の実行の支援、擁護を進める素材はテロのプロパガンダ素材とみなされる。

2.Anti-Terrorism Act 2015法案の正確な内容
 連邦議会では同法案C-5につき、第一読会での審議が始められている。連邦議会の全法案審議を追跡できる公式サイトが”LEGISinfo”である。また民間ベースでの追跡サイトが”OpenParliament”である。

 今後の審議状況を追いながら、問題点を改めて整理したい。なお、カナダの人権擁護団体やプラバシー問題の研究者の意見等についてはまだ本格的なレポートは見当たらない。別途調査したい。 

 このような中で、オーストラリア人で2007年にテロリストに物資を提供したとする裁判で有罪答弁を行い、ガンタナモ軍基地収容キャンプ(注13)に収容されていたデイビッド・ヒックス氏(David Hicks)につき無実とすることに米国政府が同意したという記事が1月23日付けのABC news に掲載されている。同記事によると、有罪答弁は法執行機関の強要に基づくものであり、現在控訴中であると記されている。

3.カナダの王立騎馬警察やその他法執行機関による国家安全保障法執行チームが現行刑法に基づくテロ犯罪容疑で逮捕、起訴した旨のリリースの内容
(カナダの国家レベルのテロ対策プロジェクトの具体的成果例)

(1)カナダでは前述の議会での立法作業に優先したかたちで、警察組織横断的な安全保障特別捜査チーム「SERVANT Project」が2012年12月に立ち上がり、2013年1月にはアルバータ州・エドモンドにk division「統合国家安全法執行チーム(INSET)」(注14)を第5番目のものを立ち上げている。

 今回のテログループの逮捕は、これらチームの連携活動の成果であるとカナダのメディアは報じている。
○ 2月3日付けのCBCの記事「ISISとの緊密な財政、過激な思想面等関係に基づきオタワ住民の男性3人がRCMPにより逮捕、起訴」の要旨を仮訳する。
 

容疑者アウソ・ペジャダエリー(Awso Peshdary:25歳)
カナダ刑法第83.18条(テログループの活動への参加)および第83.19条(テロ活動の支援)(注15)が起訴事由である。

ジョン・マクガイヤー(John (Yahya) Maguire:24歳)
起訴事由は刑法第83.19条。である。

カダール・カリーブ(Khadar Khalib:23歳)
カリーブの起訴事由は刑法第83.181条および第83.18条である。

 これら3人に対し共通して刑法第465(1)(c)(共謀罪)が適用される。
その起訴容疑は、テロ活動を支援するにつき共謀し、故意にテロ集団の活動に参加および参加にあたり第三者にカウンセリングを行ったことも上げられている。
 ペジャダエリーはオタワ市内で拘束され、マクガイヤーとカリーブは不在のまま起訴された。
○ RCMPは2人(マクガイヤーとカリーブ)の逮捕令状を得て、同時に国際刑事機構の”Red Notice”(国際刑事警察機構が加盟国の申請により発行する通知。その国で逮捕状が出ている被疑者などについて人物を特定し、発見したら手配元の国に引き渡す方向で協力するよう各国に要請するもの)の発行を要請した。

○“Project SERVANT”等が捜査で容疑者の違法な活動情報
 2月3日付けのCBC記事が主犯格のペジャダエリーの共犯者への勧誘行為、さらにはテロ関係の捜査で5年前に一度逮捕されていたが、テロ犯罪では起訴されず釈放された事実等に言及している。今回の起訴に伴い、オタワ住のテロ犯罪で起訴された男性の数はのべ6名となり、カナダ国内で起訴された最大の過激な聖戦主義者の集団となる。

(2)カナダのテロ等重大犯罪の重要性にかんがみた捜査情報の充実度
 前述したような捜査当局が示した容疑者の詳細なプロファイル情報は一挙に収集できるものではない。プライバシー問題に比較的おう揚なわが国の捜査機関ではプロファイル情報が果たしていかほど有しているのか・・・まだまだの感強いが、重要課題であることは間違いない。(注16)

4.わが国「外務省」の海外安全情報の不確実性
 最後に読者は2つの外務省サイトをよく比較してほしい。いずれも2月1日現在で収集した情報である。いったいどちらがわが国民に対するテロ情報として機能するであろうか。
外務省 海外安全ホームページ「テロ・誘拐情報」2014年4月7日
外務省「 危険情報・スポット情報・広域情報」2015年2月1日

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(注1)1月30日の発表時、法務大臣兼司法長官ペーター・マッケイ(Peter Mackay)公安および緊急事態対策担当大臣スティーブン・ブレイニー(Steven Blaney)および国防副大臣ジュリアン・ファンティーノ(Julian Fantino)が同席している。

(注2)連邦議会では同法案の具体的審議(第一読会)が1月30日に始まった。

(注3)オーストラリアは、法案「Counter-Terrorism Legislation Amendment (Foreign Fighters) Bill 2014」を2014年10月30日 連邦議会両院で可決、11月2日国王裁可により成立している。同法案の詳しい内容は司法長官が議会で説明した内容を参照されたい。また、英国議会では「2014-2015年 反テロおよび安全保障法案(Counter-Terrorism and Security Bill 2014-159」が上程、審議されて、現在、第2会期・第三読会で審議されている。同法案の内容は法案説明書(EXPLANATORY NOTES)を参照されたい。

(注4) わが国のメディアではほとんど報じられていないが、1月15日ドイツのメデイア「Deutsche Welle 」は「ベルギーがテロ対策強化:大規模なテロ攻撃を計画していたシリアから帰国していたイスラム教徒グループを急襲し、2名を射殺し1名を拘束した」とするベルギー警察や連邦検事の発表を報じた記事を載せた。ベルギーの警察・司法当局は1月7日のフランスの17人が殺されたテロの前から捜査を進めており、テロの脅威は欧州全体に広がっていることは間違いなかろう。ドイツ連邦警察も2008年11月25日にイスラム急進派を擁護するウェブサイトの責任者を逮捕し、また最近もドイツ国籍を持つシリア国内での反政府グループ(ISISの支持者)2名を逮捕している。

(注5)1月31日の読売新聞は次の記事を載せている。
「カナダのハーパー首相は1月30日、国内でのテロ行為を未然に防ぐため、情報機関や捜査機関の権限を大幅に強化する法案を議会に提出したと発表した。
 昨年10月に国会議事堂などで発生した銃乱射テロなどを受けての措置で、議会は与党が多数を占めるため、成立は確実とみられる。
 政府の発表などによると、法案は〈1〉インターネット上などでテロを呼び掛ける行為を訴追対象とする〈2〉疑わしい人物の渡航や金融取引を阻止できる権限を情報機関に与える――などとする内容。テロを助長するサイトの閉鎖も可能にする。」

(注6) 青年海外協力隊、シニア海外ボランティア、および中南米地域の日系社会への協力を活動内容とした日系社会青年ボランティア、日系社会シニア・ボランティアの4種類がある。

(注7 )テロ問題はカナダのわが国の大使館でも重要課題であり、決して無視し得ない危険な状況にあることは理解しておくべきであろう。

(注8) 2月4日付け時事通信記事は「国内にイスラム国支持者」=山谷国家公安委員長が答弁」を取り上げている。少なくともわ国内にシンパが活動していることは関係機関は情報を持っているとしても、現行のわが国の法体系の中でいかなる法執行が取れ、また対抗策がありうるのか、大いに疑問である。

(注9) 「コンコルデイアン」は、モントリオールのコンコルデイア大学の独立系新聞(週刊)である。わが国のメデイア以上に情報収集力があるように感じた一方で、カナダの若者への過激な思想シンパシーに敏感になっていることも事実であろう。

(注10)カナダ政府の説明では英国やオーストラリアの類似法やその内容までは言及していない。
 筆者なりに調べた範囲で補足する。
英国立法「Terrorism Act 2006:CHAPTER 1」第28条の原文は次のとおり。

28 Search, seizure and forfeiture of terrorist publications
(1) If a justice of the peace is satisfied that there are reasonable grounds for suspecting that articles to which this section applies are likely to be found on any premises, he may issue a warrant authorising a constable—
(a) to enter and search the premises; and
(b) to seize anything found there which the constable has reason to believe
is such an article.
(2) This section applies to an article if—
(a) it is likely to be the subject of conduct falling within subsection (2)(a) to (e) of section 2; and
(b) it would fall for the purposes of that section to be treated, in the context
of the conduct to which it is likely to be subject, as a terrorist
publication
Terrorism Act 2006 (c.11)Part 2 — Miscellaneous provisions 29
(3) A person exercisin g a power conferred by a warrant under this section may use such force as is reasonable in the circumstances for exercising that power.
(4) An article seized under the authority of a warrant issued under this section—
(a) may be removed by a constable to such place as he thinks fit; and
(b) must be retained there in the custody of a constable until returned or
otherwise disposed of in accordance with this Act.
(5) An article to which this section applies which is seized under the authority of a warrant issued under this section on an information laid by or on behalf of the Director of Public Prosecutions or the Director of Public Prosecutions for Northern Ireland—
(a) shall be liable to forfeiture; and
(b) if forfeited, may be destroyed or otherwise disposed of by a constable
in whatever manner he thinks fit.
(6) In Schedule 1 to the Criminal Justice and Police Act 2001 (c. 16) (powers which relate to the seizure of property in bulk)—
(a) in Part 1, at the end insert—
“73H The power of seizure conferred by section 28 of the Terrorism
Act 2006.”
(b) in Part 3, at the end insert—
“113 The power of seizure conferred by section 28 of the Terrorism
Act 2006.”
(7) Nothing in—
(a) the Police (Property) Act 1897 (c. 30) (property seized in the investigation of an offence), or
(b) section 31 of the Police (North ern Ireland) Act 1998 (c. 32) (which
makes similar provision in Northern Ireland),applies to an article seized under the authority of a warrant under this section.
(8) Schedule 2 (which makes provision about the forfeiture of articles to which this section applies) has effect.
(9) In this section—
“article” has the same meaning as in Part 1 of this Act;
“forfeited” means treated or condemned as forfeited under Schedule 2,
and “forfeiture” is to be construed accordingly;
“premises” has the same meaning as in the Police and Criminal Evidence
Act 1984 (c. 60) (see section 23 of that Act).
(10) In the application of this section to Scotland—
(a) in subsection (1), for the words from the beginning to “satisfied”
substitute “If a sheriff, on the application of a procurator fiscal, is
satisfied”;
(b) in subsection (5) omit “on an information laid by or on behalf of the
Director of Public Prosecutions or the Director of Public Prosecutions
for Northern Ireland”;
(c) in subsection (9), for the definition of ‘“premises” substitute—
“‘premises’ has the same meaning as in the Terrorism Act
2000 (c. 11) (see section 121 of that Act).

(注11)英国の言論自由擁護団体(Freedom House)は”Freedom on the Net 2013”サイトで国別の解析を行っている。その英国版では2006年テロ法等関係法について詳しく分析している。

(注12) 現行カナダ刑法は第320条で大量虐殺等「憎悪のプロパガンダ(Hate Propaganda)」に関する素材、データ等、また第163条で子供ポルノに関する素材等に対する押収や差押えを裁判所に与えている。また、裁判所命令でウェブサイトのオーナーやISPに当該素材の削除命令権を与えている。なお、「憎悪のプロパガンダ」について同刑法の該当条文の訳文を一部抜粋引用する。
〔Advocating genocide〕
〔大量虐殺の支持〕
318. (1) Every one who advocates or promotes genocide is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term not exceeding five years.
第318条第1項 大量虐殺を支持もしくは奨励する発言を為したる者は誰でも、起訴犯罪で有罪とし、5年以下の禁固刑に処す。

〔Definition of “genocide”〕
〔「大量虐殺」の定義〕
(2) In this section, “genocide” means any of the following acts committed with intent to destroy in whole or in part any identifiable group, namely,
第2項 本条でいう「大量虐殺」とは、定義可能な集団の全体もしくは一部を破壊する意図で行われる、以下にのべる行為を指す。すなわち、
(a) killing members of the group; or
(a) 集団のメンバーを殺害すること、または、
(b) deliberately infl12icting on the group conditions of life calculated to bring about its physical destruction.
(b) 故意に、集団に肉体的な破壊をもたらすこと。
(以下、略す)

(注13) グアンタナモ米軍基地収容キャンプ(Guantanamo Bay Detention Camp)は、カリブ海のキューバ共和国南東部にあるグタンタナモ米海軍基地の収容キャンプ(収容所)で、2002年よりアフガニスタン、イラクで拘束されたアルケイダ、タリバンなどイスラム過激派テロリスト容疑者が収容されている。

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カナダ政府の国民をテロから守るための具体的対策を盛り込んだ「2015年反テロ法(案)」の内容とその意義(その2完)

2015-02-05 05:10:10 | 国家安全保障・テロ対策

3.カナダの王立騎馬警察やその他法執行機関による国家安全保障法執行チームが現行刑法に基づくテロ犯罪容疑で逮捕、起訴した旨のリリースの内容
(カナダの国家レベルのテロ対策プロジェクトの具体的成果例)

(1)カナダでは前述の議会での立法作業に優先したかたちで、警察組織横断的な安全保障特別捜査チーム「SERVANT Project」が2012年12月に立ち上がり、2013年1月にはアルバータ州・エドモンドにk division「統合国家安全法執行チーム(INSET)」(注14)を第5番目のものを立ち上げている。

 今回のテログループの逮捕は、これらチームの連携活動の成果であるとカナダのメディアは報じている。
○ 2月3日付けのCBCの記事「ISISとの緊密な財政、過激な思想面等関係に基づきオタワ住民の男性3人がRCMPにより逮捕、起訴」の要旨を仮訳する。
 

容疑者アウソ・ペジャダエリー(Awso Peshdary:25歳)
カナダ刑法第83.18条(テログループの活動への参加)および第83.19条(テロ活動の支援)(注15)が起訴事由である。

ジョン・マクガイヤー(John (Yahya) Maguire:24歳)
起訴事由は刑法第83.19条。である。

カダール・カリーブ(Khadar Khalib:23歳)
カリーブの起訴事由は刑法第83.181条および第83.18条である。

 これら3人に対し共通して刑法第465(1)(c)(共謀罪)が適用される。
その起訴容疑は、テロ活動を支援するにつき共謀し、故意にテロ集団の活動に参加および参加にあたり第三者にカウンセリングを行ったことも上げられている。
 ペジャダエリーはオタワ市内で拘束され、マクガイヤーとカリーブは不在のまま起訴された。
○ RCMPは2人(マクガイヤーとカリーブ)の逮捕令状を得て、同時に国際刑事機構の”Red Notice”(国際刑事警察機構が加盟国の申請により発行する通知。その国で逮捕状が出ている被疑者などについて人物を特定し、発見したら手配元の国に引き渡す方向で協力するよう各国に要請するもの)の発行を要請した。

○“Project SERVANT”等が捜査で容疑者の違法な活動情報
 2月3日付けのCBC記事が主犯格のペジャダエリーの共犯者への勧誘行為、さらにはテロ関係の捜査で5年前に一度逮捕されていたが、テロ犯罪では起訴されず釈放された事実等に言及している。今回の起訴に伴い、オタワ住のテロ犯罪で起訴された男性の数はのべ6名となり、カナダ国内で起訴された最大の過激な聖戦主義者の集団となる。

(2)カナダのテロ等重大犯罪の重要性にかんがみた捜査情報の充実度
 前述したような捜査当局が示した容疑者の詳細なプロファイル情報は一挙に収集できるものではない。プライバシー問題に比較的おう揚なわが国の捜査機関ではプロファイル情報が果たしていかほど有しているのか・・・まだまだの感強いが、重要課題であることは間違いない。(注16)

4.わが国「外務省」の海外安全情報の不確実性
 最後に読者は2つの外務省サイトをよく比較してほしい。いずれも2月1日現在で収集した情報である。いったいどちらがわが国民に対するテロ情報として機能するであろうか。
外務省 海外安全ホームページ「テロ・誘拐情報」2014年4月7日
外務省「 危険情報・スポット情報・広域情報」2015年2月1日

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(注14) INSETのこれまでのカナダ国内での組織拡大、能力強化などに関する説明は、解説「RCMPはこのほどエドモントで新分署を立ち上げた」が詳しい。

(注15) 現行カナダ刑法の該当条項の原文を引用しておく。
Participation in activity of terrorist group
83.18 (1) Every one who knowingly participates in or contributes to, directly or indirectly, any activity of a terrorist group for the purpose of enhancing the ability of any terrorist group to facilitate or carry out a terrorist activity is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term not exceeding ten years.

Prosecution

(2) An offence may be committed under subsection (1) whether or not
(a) a terrorist group actually facilitates or carries out a terrorist activity;
(b) the participation or contribution of the accused actually enhances the ability of a terrorist group to facilitate or carry out a terrorist activity; or
(c) the accused knows the specific nature of any terrorist activity that may be facilitated or carried out by a terrorist group.

Meaning of participating or contributing

(3) Participating in or contributing to an activity of a terrorist group includes
(a) providing, receiving or recruiting a person to receive training;
(b) providing or offering to provide a skill or an expertise for the benefit of, at the direction of or in association with a terrorist group;
(c) recruiting a person in order to facilitate or commit
(i) a terrorism offence, or
(ii) an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be a terrorism offence;
(d) entering or remaining in any country for the benefit of, at the direction of or in association with a terrorist group; and
(e) making oneself, in response to instructions from any of the persons who constitute a terrorist group, available to facilitate or commit
(i) a terrorism offence, or
(ii) an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be a terrorism offence.

Factors

(4) In determining whether an accused participates in or contributes to any activity of a terrorist group, the court may consider, among other factors, whether the accused
(a) uses a name, word, symbol or other representation that identifies, or is associated with, the terrorist group;
(b) frequently associates with any of the persons who constitute the terrorist group;
(c) receives any benefit from the terrorist group; or
(d) repeatedly engages in activities at the instruction of any of the persons who constitute the terrorist group.

2001, c. 41, s. 4.

Leaving Canada to participate in activity of terrorist group

83.181 Everyone who leaves or attempts to leave Canada, or goes or attempts to go on board a conveyance with the intent to leave Canada, for the purpose of committing an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be an offence under subsection 83.18(1) is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term of not more than 10 years.

2013, c. 9, s. 6.

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Facilitating terrorist activity

83.19 (1) Every one who knowingly facilitates a terrorist activity is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term not exceeding fourteen years.

Facilitation

(2) For the purposes of this Part, a terrorist activity is facilitated whether or not
(a) the facilitator knows that a particular terrorist activity is facilitated;
(b) any particular terrorist activity was foreseen or planned at the time it was facilitated; or
(c) any terrorist activity was actually carried out.

2001, c. 41, s. 4.

Leaving Canada to facilitate terrorist activity
83.191 Everyone who leaves or attempts to leave Canada, or goes or attempts to go on board a conveyance with the intent to leave Canada, for the purpose of committing an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be an offence under subsection 83.19(1) is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term of not more than 14 years.

2013, c. 9, s. 7.

Commission of offence for terrorist group

83.2 Every one who commits an indictable offence under this or any other Act of Parliament for the benefit of, at the direction of or in association with a terrorist group is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for life.

2001, c. 41, s. 4.

Leaving Canada to commit offence for terrorist group
83.201 Everyone who leaves or attempts to leave Canada, or goes or attempts to go on board a conveyance with the intent to leave Canada, for the purpose of committing an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be an indictable offence under this or any other Act of Parliament for the benefit of, at the direction of or in association with a terrorist group is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term of not more than 14 years.

2013, c. 9, s. 8.

Leaving Canada to commit offence that is terrorist activity

83.202 Everyone who leaves or attempts to leave Canada, or goes or attempts to go on board a conveyance with the intent to leave Canada, for the purpose of committing an act or omission outside Canada that, if committed in Canada, would be an indictable offence under this or any other Act of Parliament if the act or omission constituting the offence also constitutes a terrorist activity is guilty of an indictable offence and liable to imprisonment for a term of not more than 14 years.

2013, c. 9, s. 8.

Instructing to carry out activity for terrorist group

(注16) 2月1日の朝日新聞(朝刊)は「容疑者の映像をツイッター等のソーシャルメデイアを通じて配信し一般人から情報を募る警視庁の公開捜査が効果を上げている」と報じている。これに関し、筆者は従来から英国版FBIとされる国家犯罪対策庁(National Crime Agency)がネットサイトで広く容疑者の写真や捜査に関する動画を公開していることを重要視していた。最近時で見ると2014年12月15日付けの「4.5 tonne drug importation gang jailed」を見てほしい。
 また1月28日の5日新聞(朝刊)は、大阪地裁は同月27日「大阪府警が容疑者らの行動を確認するためにGPS(全地球測位システム)の端末(発信器)」を車両に取り付けた捜査方法をプライバシー侵害は大きくなかったとして適法と判断した」と報じている。時間の関係で筆者としての意見は述べないが、これら犯罪がテロ関連であったとしたらさらに大きな法律論や社会問題となることは当然といえよう。

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Copyright © 2006-2015 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.************************************

 

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