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英米における警察官の身体装着カメラの使用義務化と苦情の大幅減少効果と実験的犯罪学(Experimental Criminology)の動向

2016-10-08 14:01:00 | 米国等の司法改革・裁判問題

 最近、英国の実験検証に基づく犯罪学の研究者が、警察に対する苦情が警察官の身体にカメラ(身体装着カメラ(body-worn cameras:BWCs))を装填した後に、なんと93パーセントも下げさせ、かつ警察官の法執行行動が適正化されたという実証結果を公表したという記事を読んだ。

Photo:TechCrunch記事から引用

  筆者が強い関心を持ったのは、1)その大規模な実験の結果の内容理解に止まらず、2)米国で常に問題視されている白人警察官による黒人の射殺事件との関係などから米国の研究はどうなっているのか(筆者注1) 、3)ボデイカメラの機能や価格はいかなるものか、4)筆者はもともとは刑法、犯罪学の研究者であったが、ここで出てくる「実験的犯罪学(Experimental criminology)」の正確な理解と、英米などの研究の実態につきケンブリッジ大学やオックスフォード大学の研究機関の概要の理解を試みたいというのが、本ブログをまとめた動機である。なお、わが国でこの種の犯罪学研究は法務省総合研究所であろうが、主要大学や関係学会のレポートをみても本格的な公表レポートは皆無である。 

1.10月3日付けTechCrunch記事「Police complaints drop 93 percent after deploying body cameras」の要旨

 以下のとおり仮訳する。 

 警察部門が身体にカメラを使い始めたとき、ケンブリッジ大学等の研究は警官に対する告訴の大幅な低下をもたらすことを明らかにした。しかし、さらに驚いたことは、検証データによるとカメラが明らかに見えるかどうかにかかわらず、誰でも警察官は彼らのベストなふるまいに関していることを示唆するということであった。 

この実証データは、英国6と米国1の合計7つの警察署で集められて、2014年と2015年で140万時間以上にわたり1,847人の警察官によって記録された。同研究者等は、9月下旬の「刑事司法と行動(Criminal Justice and Behavior)」誌においてそのデータを発表した。 

 警察官は、隔週ごとにカメラを装着するか、しない(およそ半分はいつでもカメラを装着している)につき無作為に割付けされるため、すべての犯罪遭遇にカメラを機能させなければならない。この筆者は、大部分の警察の確立した実務であり、対応が容易であり、問題のある行動につきその発生頻度の向上させる場を与えるため、著者は測定基準として警察に対する苦情件数を使用した。 

 同研究の前年には、1,539の苦情が警察官吏に対して全体で提出された。しかし、身体カメラ装填実験終了後の年は113の苦情を数えるだけに減った。

 2.実証実験論文の原本

(1) 犯罪学の専門雑誌「Criminal Justice and Behavior」DOI:10.1177/0093854816668218 

標題は「伝播性の高い説明責任(Contagious Accountability)

副題は「警察に対する市民の不満軽減にかかる警察官の装備カメラによる影響度を見るための世界的な多数の警察サイトの多数の無作為実証実験結果」である。 

(2) 関係した研究者、英米の協力警察機関

*ケンブリッジ大学 実験結果に基づく犯罪学専攻(Experimental Criminology)の講師兼特別研究員であるバラク・アリエル(Barak Ariel)

*独立系シンクタンクでケンブリッジ・ネットワークの構成団体の1つであるRAND Europe アレックス・サザランド(Alex Sutherland)

*英国ウェストミドランド警察(West Midlands Police)のダレン・ヘンストック(Darre Henstock)

*米国カリフォルニア州ヴァンチュラ警察(Ventura Police Department)のジョッシュ・ヤング(Josh Young)

*英国ウェストミドランド警察のポール・ドローバー(Paul Drover) 

*英国ウェストヨークシャー警察(West Yorkshire Police)のジェイン・サイクス(Jayne Sykes)

*英国ケンブリッジシェヤー・コンスタビュラリィ警察組合(Cambridgeshire Constabulary )のサイモン・メギックス(Simon Megicks)

北アイルランド警察(Police Service of Northern Ireland)のリアン・ヘンダーソン(Ryan Henderson) 

(3) 実験的犯罪学(Experimental Criminology)の定義

 オックスフォード大学の図書目録が”Experimental Criminology”について詳しく論じている。「はじめに」の部分を仮訳する。

 実験的犯罪学は、原因と結果につきコントロール下にある試験を含む研究方法の1分野である。オックスフォード大学は同研究につき、「実験的」および「準実験的」という2つの幅広く研究するクラスを2011年秋にスタートする計画である。

① 主題が処理群とコントロール(比較)グループに無作為に割付けされるならば、その研究(または評価)設計は「実験的(experimental)」といえる。 

②主題が処理や制御条件ではなく原因と結果を研究するのに用いられるというむしろ無作為に割付けされるならば、その研究(または評価)設計は「準実験的(quasi- experimental)」である。 

 実験的犯罪学において、人々、場所、学校、刑務所、警察の巡回(police beats)または他の分析単位のサンプルは、ランダムまたは統計的なマッチングという2つのグループのうちの1つに典型的に割り当てられる。すなわち1つは新しい処置でまたは革新的で交互の干渉条件(コントロール下)におくというものである。 

 一組の「結果判定法(outcome measures)」(例えば犯罪率、自己申告の非行、混乱の知覚)の中の2つのグループの間において見られる観察されかつ計測的な違いは、処置や条件の違いに起因しているということができる。 

 実験的犯罪学の分野の飛躍的成長は1990年代に始まった。そして、21世紀に入り実験的犯罪学の研究分野を大幅に進めたいくつかの重要な機関・団体・出版社(例えばキャンベル・コラボレーション(Campbell Collaboration)実験的犯罪学大学(Academy of Experimental Criminology)、実験的犯罪学ジャーナル(Journal of Experimental Criminology)米国犯罪学会の実験的犯罪学部(Division of Experimental Criminology within the American Society of Criminology)の設立に至った。 

  これらのイニシアティブ団体等は、犯罪の原因と結果について重要な質問に答えるべく実験(準実験的を含むランダム化されたフィールド実験とともに)と犯罪司法機関が犯罪の阻止やコントロールしうるかもしれないベストの方法の使用を広げた。 

 実験法の使用は、犯罪政策担当者のために確たる証拠ベースを造ることにとって非常に重要である。そして、いくつかの支援組織(Coalition for Evidence- Based Policy など)は、科学的に厳格な研究(例えば無作為の対照比較化試験など)を使う自由が政策立案において関連した結果を改善することができるよう犯罪司法プログラムと実行方法を確認するため論議を重ねている。 

(4) 米国のExperimental Criminology研究

 2013年にRand Corporationの研究者が犯罪学専門誌「Journal of Experimental Criminology」に投稿した論文を米国Business news が紹介している。その一部を抜粋引用する。 

*シカゴ警察によるビッグデータ解析、銃器事件の予測には寄与しないことが判明

「シカゴ警察が2013年から開始したビッグデータ解析応用の試みは、実際の殺人事件の件数を減少させる面においては効果を発揮していないことがRand Corporationの研究者が犯罪学専門誌「Journal of Experimental Criminology」に投稿した論文により明らかとなった。 

Rand CorporationのJessica Saundersを中心とする研究チームは、シカゴ警察によるビッグデータ解析のアルゴリズムを用いて、銃器犯罪のリスクが極めて高い人物のリスト(Strategic Subjects List:SSL)を生成。その上で、SSLにリストに含まれている人と、そうでない一般グループの人を比較することで、実際にSSLが当該地域における銃器犯罪の加害者/被害者となる確率が高いかどうかを検証した。 

この結果、SSLとそうでない一般グループの間には、銃器犯罪に関わる有意な差は存在しないことが判った。 

研究チームでは、シカゴ警察が実際にビッグデータ解析をどのように現場に活かしているかは不明としながらも、SSLリストが現場に提供されることで、現場の警官は、SSLリストに掲載されている人物を真っ先に逮捕しようと考えてしまうことが、SSLリストとそうでないグループとの犯罪関与率を変わらないものにしてしまっているのではないかと考えている。」 

3.ボデイカメラの機能や価格

 筆者が独自に調べた。関係者に確認したものではないがほぼ正しいと考える。

メーカーはAXONで 1ユニットあたり399ドル(約41,000円)である。

 

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(筆者注1)米国のメデイアが2013年8月1日付け記事でフォルニア州リトアル警察とケンブリッジ大学のボデイカメラの効果につき共同研究の成果を紹介している。一部記事内容を仮訳する。

「結局、警察官の身体装着ビデオ・カメラがまさにあらゆるアメリカの警官のための標準的な器材になることは、かなりひろく受け入れられるようになった。

法執行官吏(警察官吏)の装着ビデオ・カメラは、警察官や警察に対するとるにたらない訴訟に対して虚偽の不満を減らすことができる。それが実力行使をほぼ60パーセント減らしたため、リアルト(カリフォルニア)警察/ケンブリッジ大学の共同研究は、さらにより深い影響を示した。ビデオ・カメラ存在は、警察内の意思疎通を向上させる一方で、すべての関係者の行動を改善させる。そして、警察の評価について正確にキャプチャ・ビデオにもとづき監督機関は事件を見直すことができて、何が本当であったかについて、確実の判断することができるのである。

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英国は犯罪被害者補償対象を英国内からEU域内の他国に拡大

2010-10-25 16:14:20 | 米国等の司法改革・裁判問題



 英国の刑事事件被害者補償局(Criminal Injuries compensation Authority(CICA):支援チーム(EU Compensation Assistance Team)ロンドンとグラスゴーが本拠)は、2005年7月1日以降、①英国の居住者(resident)であること、②英国外のEU加盟国 での発生事件であること、③暴力的犯罪の被害にあった場合、国内と同様に補償対象とするサービス拡大を開始した。

 詳しくは英国政府の「If you are injured outside Great Britain」(https://www.gov.uk/guidance/criminal-injuries-compensation-a-guide#if-you-are-injured-outside-great-britain)や「Compensation if you're a victim of crime abroad」(Compensation if you're a victim of crime abroad - GOV.UK (www.gov.uk)」を参照されたい。(2021.3.31 追加)

 今回の制度改正の背景には、EU加盟国内における暴力事件の被害者に対し公正かつ適正な補償を行うことを要請した2004年EU指令(European Union Council Directive 2004/80/EC )がある。(注1)(注2)

 わが国では、国による犯罪被害者等給付制度が1955年(昭和55年)4月に「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(昭和五十五年法律第三十六号)が制定され、その後2001年(平成13年)4月等に改正、最新改正は2008年(平成20年)4月である。①遺族給付金、②重傷病給付金、③傷害給付金の3つからなるが、問題は対象となる犯罪被害の範囲である。 日本国内または日本国外にある日本船舶もしくは日本航空機内において行われた人の生命または身体を害する罪に当たる行為(過失を除く。)による死亡、重傷病または障害である(同法2条)。
 また、国の犯罪被害者等給付制度は、補償額は死亡でも1,573万円が限度と、自動車事故などの場合の賠償水準と比較して低くなっており、その補完という観点から損保会社は上乗せ保険をPRしている(これも同法と同様、被害範囲は国内のみである)が、旅行ではない海外での企業活動、NGO等が拡大しつつある昨今、補償額の引き上げだけでない、更なる国際化に向けた検討が必要ではないか。


英国の犯罪被害者補償制度の概要
1.英国の刑事事件被害者補償局の役割(注3)
 イングランド、スコットランドおよびウェールズにおける刑事事件の被害者補償要綱をグラスゴーとロンドンの事務局から運営・管理を行っているが、補償金を凶悪犯罪の犠牲者である人々に支払うことが基本的任務である。

 最初の補償要綱が1964年に準備されて以来、我々が業務を引き継いだ刑事被害者補償審議会(Criminal Injuries Compensation Board)と共に延べ30億ポンド(約6千億円)以上を支払っているが、これは 世界で最も大規模でかつ被害者に寛容な内容といえる。その目的は、被害者に痛みと苦しみの身体的な理解を提供して、社会として彼らに哀悼の意を表するのである。
 その歴史の大部分において、犯罪者に対して犠牲者が民事裁判で勝訴に持ち込んで勝ち得たのと同様な裁定を行ってきた。等級表(scale)、補償額一覧表(tariff)は議会により2001年に改訂されているが、この一覧表は400以上の負傷の個別記述を含んでおり、補償額は25のレベルに区分され1,000ポンド(約20万円)から 25万ポンド(約500万円)からなる。

 多くの場合、被害者は収入や所得能力を失うという財政的な損害を被るし、医療費、その他の治療費も必要となる。また、被害者の家族は殺害された被害者の収入に依存しているので、追加補償(additional compensation)が認められる。

2.CICAの組織
 内務省とスコットランド政府(注4)の両方から集めた約450のスタッフは、凶悪犯罪の犠牲者から補償の適用を採決するためにグラスゴーとロンドンの事務所でCICAによって雇用される。CICAは 毎年、補償に関する約6万5,000件の請求案件を受け取って、各年の補償額の大部分である2億ポンド(約400億円)をそれに当てている。
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(注1)同EU指令は被害者が居住国に対する補償請求をより簡便にすることを意図するだけでなく、他の加盟国において故意的な犯罪により被害にあった場合に、その補償を行うことを狙いとしたものである。すなわち、加盟国の多くは英国とは異なる補償綱領を有しているが、指令は英国と同様に人々が他国から補償を受けるにあたり支援の任に当たる公的機関の設置を要求している。英国では、「CICA」がその機関に該当する。

(注2)CICAの一般人向け解説例URL: https://www.gov.uk/compensation-victim-crime-abroad
なお、cicaのサイトで各種刊行物のURLが紹介されている。

(注3)やや古いが、わが国警察庁の資料で英国の刑事事件の被害者対策の概要を紹介したものがある。
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h10/h100204.html

(注4)英国では英国議会のもとにスコットランドの行政を担う単独省庁としてスコットランド省(Scottish Office)をおいていたが、スコットランド省(Scottish Office)は、1885年に設立された国の省庁の一つであり、その本省は、スコットランドの中心都市であるエディンバラに置かれている。その長は、国務大臣・閣内大臣であるスコットランド大臣(Secretary of State for Scotland)で、スコットランド大臣は、スコットランドでの農業、漁業、環境、教育、産業、地方自治、保健等に関する事項を決定してきた。1999年7月1日、スコットランド議会と自治政府が公式に設立され、「スコットランド政府(Scottish Executive)」となった。(https://www.gov.scot/)

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(今回のブログは2006年1月6日登録分の改訂版である)

Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.





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