幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

白い猫の話し つづき

2017-05-15 21:49:14 | Weblog

尻尾をぴんと立てて、白い猫は僕の後をついてきた。
猫缶を売っているコンビニに行くには駅前まで出なければならない。だんだん人通りも多くなるし車も走る大通りを歩かなければならない。この白い猫はちゃんとついて来るのかな。
それにしてもこの猫、首輪も付けていないし、白い毛は薄汚れている。野良猫に違いない。それなのに、こんなに馴れ馴れしく僕についてくるなんて、不思議だ。
「よっぽど好かれたんだな」

大通りに出ると、それまで描いていた一本の細い線が急に途切れてしまったように、白い猫は何処かに消えてしまった。

僕はコンビニに入り、ちょっと高級そうな猫缶と玉子のサンドイッチを買った。またそのうちに、あの白い猫は戻ってくるかもしれないと思ったからだ。
コンビニを出て空を見上げると、夢を見ているような快晴の青空。五月の昼下がりは汗ばむ陽気だ。
元来た道に引き返し、住宅街を縫って歩いた。
小さな坂道を下ると、僕がよく来る公園があった。
それこそ猫の額ほどの小さな公園だ。遊具ひとつない。あるのはベンチがひとつと水飲み用の蛇口がひとつ。その横には看板が立っている。「栓を開けたら必ず締めましょう」
僕はその看板を見る度に、いつも少し不思議な気持ちになる。蛇口が開いていて、水が無駄に流れているのを今まで一度も見たことがない。それは皆がこの看板の言うことに従っているからなのだろうか。それとも、自分自身の中にある道徳心に従っているからか?
とにかく、僕はベンチに腰掛けて、コンビニ袋から玉子のサンドイッチを出した。
「ふん。猫にも振られたか」
肩を震わせてハハハと笑った。
白い猫の白い顔を思い出した。丸い両目のわきに乾燥した目やにがぶら下がっていた。
僕は玉子のサンドイッチを二口か三口で平らげた。そして猫缶の蓋を開けてみた。
「こんなもの食えるのかな? 人間が…」
匂いを嗅いだ。そして舌先をつけてみた。臭くて不味い。「こんなものよく食うよな。いくら猫とはいえ…」
僕は立ち上がって、蛇口の栓を開けて水を流した。手の平に水を溜めて、口に運んだ。
少し高い木の葉っぱの間から、太陽の光が漏れて、キラキラと揺れた。
「とらんすみゅ〜と」
え? 何か言った?
「とらんすみゅ〜と」
白い猫が地面に四つ足で立ってる。目やにがついた目で僕を見上げている。

「ハハハ。ちょうど良かった。今、猫缶を開けたところだったんだよ。ここでランチデートしよう。いいところだろ? ここ」
白い猫は、軽い身なりでベンチの上に飛び乗った。僕はその横に座った。ベンチの横には、鮮やかなマゼンタのツツジが誇らしげに咲いていた。














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