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朝日新聞に掲載された保岡興治法務大臣のインタビューで、社民党をはじめとした野党各党から、裁判員制度の「延期」を求める動きがあったことに関して、次のように発言しているのが目についた。「延期など、全く考えていない。司法制度改革の関連法案は20数本ほぼ全会一致で通っており、民主的な議論を尽くして決まった。懸念を払拭するよう全力を傾けるが、基本的には歯を食いしばって実現していく性質のものだ」(朝日新聞8月13日・政治面)と述べている。また、「国民の8割が消極的」ということに関しても、「怖さや煩わしさが先行するが、『遠慮なく言ってくれれば裁判所の責任でまとめる』と説明すれば、参加したい人は増えるはず」と答えている。

何のために「歯を食いしばって実現」するのだろうか。本来は、市民の司法参加のためだろう。その「市民の司法参加」を言うのであれば、啓蒙イベントや模擬裁判は繰り返しても、肝心の「市民の声」を聞いていないことに気づいないないのはどうしたものだろうか。「怖さ煩わしさ」はあるが、自由な意見を出してもらった後は「裁判所の責任でまとめる」という言い方は、現状をよく語っているような気がする。

裁判官と裁判員は制度の上では、上下の差はないことになっている。しかし、プロの裁判官が審理・評議をリードしていかなければ、3日間という超スピードで判決に至ることは出来ないはずだ。私が模擬裁判を見た印象からは、法廷前整理手続きで検察・弁護側双方から提出された論点と証拠を見て、裁判員裁判の開始の前に裁判長の頭の中には「判決文」が出来ていて、細かい「微調整」の部分を裁判員の意見を聞き置くというやり方に見えた。

「調書を読むと、この被告は捜査段階(警察・検察での調べ)では、言うことをコロコロ変えているですよ。そういう人は、一般的に言って『信用性がない』と言うんですけど」と密室の評議で裁判員に語る模擬裁判の裁判長の言葉を聞いて(模擬裁判だから、法廷のスクリーンに映像で見ることが出来るようになっている)、こんなことを裁判長が言ったら、裁判員の心証は「真っ黒」になるなと少々驚いた。衆議院法務委員会として傍聴した東京地方裁判所の模擬裁判の場で、複数の議員が現実に聞いた言葉だ。

精密司法から核心司法へなどという掛け声とともに、「公判廷の直接的なやりとり」が何より重視される。捜査段階の分厚い調書など、裁判員の手元には一切ない。しかし、裁判官はこれを読んでいて、すでに心証を決めてかかっていて、無色透明なはずの裁判員に同調を求める。これでは、粗雑なやっつけ司法ではないかという印象を持った。

公判がすべてと言うのであれば、公判前整理手続きで弁護側から提出されなかった被告人にとって極めて重要な証言が法廷で飛び出した場合はどうするのか。たとえば「現場の一部始終を見ていた人がいて、迷惑をかけまいと今まで言えないできました」などの証言が飛び出した場合には、検察側の有罪立証の根拠が危うくなるはずだが、裁判員裁判の最中に新たな「証人申請」など予定していなかった手続きを取ることがあるのか。私は東京地方裁判所の所長に直接聞いてみたが、「よっぽとの場合には……」と口を濁した。こういう場合、裁判員に選任された人は、後日改めて裁判所に出てこなければならないから、実務上は難しいはずだ。「疑わしくは被告人の利益に」ではなく、「小さな疑いにとらわれないで、素人の感覚で裁いて下さい」という裁判になる危険もある。

裁判員裁判で市民の司法参加を実現するのであれば、法務大臣は国民の不安と懸念にしっかり耳を傾けるべきだ。また、実施直前の疑問点は国会でしっかりご議論いただきたいという姿勢を取るのが当然だが保岡法務大臣は、「やかましいこと言わないでお上を信じて従いなさい」と言っているような気がする。

私たちが提案している「死刑」と「無期懲役」の間に「終身刑」を設置することについても、保岡法務大臣は「賛成できない。人を一生牢につなぐ刑は残酷だし、処遇が難しい。世界でも少数派だ」(前出インタビュー)と切り捨てている。この言い方は、「死刑執行」の残酷さを「終身刑」は上回るという見解で、それこそ世界的には少数派の見解だ。保岡大臣は、近く死刑執行を準備しているのではないかと窺えるが、市民が司法参加する国で、有罪・無罪のみならず量刑に関与している国で死刑制度があるのは、アメリカの一部の州だけだということを指摘しておきたい。しかも、陪審制度は多数決でなく全員一致が原則だ。

裁判員裁判で問題にしなければならない点は数多くある。臨時国会で、これが集中的に議論されないなら、この国の立法府は司法行政(裁判所・法務省)に従属した存在だと自ら認めることになる。

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