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外務省の出来の悪いベーパーを先に紹介したが、米国弁護士資格も持っている喜田村洋一弁護士に緊急にコメントを寄せていただき、「州法」と「連邦法」の関係をわかりやすく整理していただいた。アメリカ政府が「留保」した論理を忠実になぞれば、日本の刑法原則を尊重しつつ、「国と国をまたぐ犯罪=越境制」を必要とすると条件を付して、日本もまた「留保」すればよいということになる。何でもアメリカになびいてきた日本だが、共謀罪だけは別なのか? ぜひお読みいただきたい。

 11月27日付けで外務省が発表した「米国が国際組織犯罪防止条約の締結に際し付した留保について」という文書を読みました。
 外務省は、この文書の中で、結論として、「米国の留保は本条約の趣旨、目的に反するものではないと理解している」と述べています。しかし、米国自身、一定の場合には、連邦刑法と州刑法ではこの条約に基づく義務を十分満たすとはいえない状況があるので、留保を行うと述べています。つまり、条約が要求している内容をすべて実現することはできないから留保するとしているのです。それにもかかわらず、この留保が「本条約の趣旨、目的に反するものではない」とするのであれば、日本が同様の留保をしても、条約の趣旨、目的に反することにはならないはずです(この点は、最後にもう一度触れます)。

 米国の法制度を考える上で、まず理解しておくべきことは、米国の州はそれ自体が一つの国であり、州ごとに憲法も民法も刑法も備えているということです。連邦政府は、限定された分野の権限しか有していませんので、州政府の固有の権限を侵すことはできません。
この点で、米国における連邦と州の関係は、日本における国と県の関係とは全く異なります。日本では、県は国の定めの中で条例を制定することができるだけですが、米国では、州は、連邦政府に委ねた以外の全てのことについて法律を定め、これを執行することができるのです。

そして、州内の犯罪を取り締まるというのは、州の固有の権限であり、連邦政府は州内部にとどまる犯罪を捜査したり、起訴したりすることはできません。
したがって、米国内における圧倒的多数の犯罪は、連邦犯罪としてではなく、州犯罪として裁かれています。たとえば、2003年に連邦検事が捜査した被疑者数は約13万人であり、このうち殺人、強姦、傷害、強盗などの暴力犯罪で連邦犯罪となるものの被疑者は約4%とされていますので、約5200人ということになります。これに対し、時期は1年ずれますが、2004年に全米で生じた暴力犯罪は約136万件です。年も違いますし、被疑者の数なのか、犯罪数なのかという違いがあるので、正確な比較はできませんが、暴力犯罪の圧倒的多数は州当局が捜査し、起訴していることが判ると思います。

このように、殆ど全ての犯罪は、連邦刑法ではなく州刑法の対象とされています。したがって、外務省の上記文書で述べられた「連邦法には、すべての連邦犯罪を対象とする共謀罪の規定が存在」するということは、現実の犯罪への対処としては殆ど意味がありません。

米国がこの条約を批准するときに生じた問題は、州の中だけで行われる犯罪(たとえば、アラスカ州における爆発物所持罪=日本では3年以上10年以下の懲役)について、条約の義務を果たすために連邦と州の上記のような関係を覆してもこの条約を批准すべきか、一定の範囲では条約の義務を履行しないことができるようにするために留保をするかという選択でした。そして、米国は、後者の途を選んで留保をしたのです。
この留保の内容は、州境を越えない犯罪については州政府の判断を尊重し、共謀罪を広範囲に制定してもよいし、極めて少数のものだけに限定してもよいというものです。

では、日本がこの条約に加入するとすれば、どのような問題があるでしょうか。日本においては、犯罪について、既遂・未遂・予備と分け、原則として犯罪は既遂に達したときに処罰され、未遂罪は処罰規定があるときにだけ犯罪とされ、予備はごく一部の罪についてだけ犯罪とされるという体系が確立しています。共謀罪の新設は、この体系を根底から覆すものです。
したがって、アメリカがこの条約批准の際に直面したように、日本でも、明治以来の法体系を崩しても条約を批准するか、一定の範囲では条約の義務を履行しないために留保をするかという選択がありうるわけです。そして、後者を選択した場合には、米国が州境を超える犯罪についてすべて共謀罪の対象としたように、日本では国境を超える犯罪についてのみ共謀罪の対象とすることも当然に認められるはずです。
外務省がいうように、米国の留保が、条約の趣旨、目的に反するものでないのであれば、日本が越境性を基準とする留保をしても、条約の趣旨、目的に反するものでないことは明らかです。

   2006年11月28日

喜田村 洋一



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