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「代ゼミ20校閉鎖」で見えた競争の変化

  • 保坂展人
  • 2014年8月26日

 

これまでにない大きな変化が訪れている、と感じたニュースでした。

 大手予備校の代々木ゼミナールが全国にある27校のうち20校を閉鎖するというものです。400人規模の希望退職者を募り、長年続けてきた全国模擬試験も来年からとりやめるといいます。

 経営判断にかかわる固有の事情もあるようですが、根っこには構造的要因が潜んでいるように思います。

 少子化により18歳人口が減少する一方、大学は増えているので、受験環境も大きく変化してきました。大学志望者が減り続け、かつての「狭き門」はその面影もないほどに広がりました。

 もちろん、こうした傾向は今に始まったことではありません。直近の18歳人口のピークは1994年の205万人で、2013年に123万人になるまでに長い時間をかけて次第に減ってきたのです。

 バブル経済が崩壊に向かい始めた91年、私はほぼ半年をかけて全国の私立高校の現場を歩きました。「高校は18歳人口減少時代をどのように迎えるか」がテーマでした。あれから23年、高校から大学、そして予備校へと影響は広がっています。

 最近、私は「時代の変化」を感じる場面に何度か遭遇しています。7月のはじめに「よい教育ってなんだろう?」というテーマでジャーナリストの猪熊弘子さんとトークセッションを行いました。私は、20年前に取材した早期教育に駆り立てられていた母親たちのインタビューや「自己否定感の世代間連鎖」などについて語りました。

 会場に集まっていたのは、20代後半から30代を中心とした子育て世代でした。私が取材した当時、早期教育を煽(あお)っていた教育産業の論理は単純でした。「よく覚えて、いい成績をとり、いい学校に行けば、幸せになる」。そう繰り返しながら、「手遅れになっていいのですか」と親の不安を揺さぶる手法です。

 私がそれとは別の道を選択したことに触れ、

「人間の価値はつまるところ『学歴』に尽きる、という信仰で、そういう人たちから見れば私は失敗作であり、落第者ということになります」

 と語ると、会場の空気が妙に張りつめていることに気がつきました。

「14歳から15歳、私は自分の前に敷かれたレールを逸脱して、自分の道を探ろうとしました。早い時期に学歴社会とは別方向の我が道を歩み始めたことから、トラウマはほとんどありません」

 公開の場で私自身の生い立ちを話すことは少ないのですが、多くの親たちが熱心に聴き入ってくれました。

 20年前ほど前、私は母親たちの会や講座に呼ばれて頻繁に講演をしていました。当時は、私自身の経験を「特別な人の話」として片づけられてしまいました。「終身雇用を前提とした学歴社会は崩れていく」という言葉も、母親たちにはなかなか届きませんでした。これまで構築された教育システムはそう簡単に変わらない、と直観的にとらえていたのだと思います。そして時代はめぐり、その頃の小・中学生たちが今、親になっています。

 60年代の高度経済成長期から親子2代にわたって続いた安定期は、90年代半ばに終わりました。社会に出ていく若者たちの前にはもう、安心して身を委ねることができる「太いレール」はありません。この間に平均賃金は下がり続け、職場における競争は激化し、スピードと効率、さらには正確な処理も求められ、長時間労働も常態化しました。

 そんな時代を生きてきたのが、いま、20代、30代の子育て世代です。

 時代の変化は、少子化だけではありません。97年の金融危機を引き金とした長期不況の中で、企業にはリストラの嵐が吹き荒れました。全人格を会社に委ねていたような人々は、非情な肩たたきにおびえました。「終身雇用」は名実ともに崩れ始めています。

 いま、盤石に見える企業も10年後には解体・再編の渦中にあるかもしれません。「いい会社に入れば生涯安泰」どころか、会社に入っても競争は続き、「いつ何があるかわからない」状態に転じているのです。

 もはや、20年前のように、「いい学校を出て、いい会社に入るのが人生の幸せです」と言われても、にわかに肯(うなづ)くことのできない現実があります。ステレオタイプの受験競争や偏差値信仰はようやく過去のものとなりつつあります。

 終わりは、始まりです。

 競争意識に振りまわされて孤立するよりも、子育ての楽しさを分かち合おう。そんな芽が少しずつ膨らんできたような気がしています。

「代ゼミ20校閉鎖」に見えた競争の変化 (「太陽のまちから」2014年8月26日)



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