庄内映画事情PART15「鶴岡まちなかキネマその2」はこちら。
開巻、その所作から高位の侍であると知れる人物が、いきなり腹切り。下から撮った緊張感あふれるシーンで、しかし不思議だなと思う。
介錯人がいないのだ。
その侍は作法どおり横、縦と腹を切りすすめる。彼が老中邸前でひとり切腹までして訴えたかったのは、藩主の残虐な行ないをとがめてほしいということだった……ってこの人、内野聖陽じゃん!
意外なほどのオールスターキャスト。藩主(稲垣吾郎)が、戯れに凌辱して夫とともに切り捨てる若妻が谷村美月、その舅が松本幸四郎だったりします。かつて工藤栄一(松田優作とのコンビや、必殺シリーズでおなじみかと。画面が“青い”人です)が東映で撮りあげた旧作のリメイク。その旧作では東映の重鎮(重役でもあった)片岡知恵蔵が貫禄たっぷりに演じた刺客のトップ、島田新左衛門を今回は役所広司が端正かつ能動的に演じています。
わたしはもちろんリアルタイムで旧作を観ているわけではなくて(なにしろ47年前の作品ですから)ビデオで鑑賞。ひたすら暗いお話だった記憶がある。
でも今回は、藩主の残虐性をこれでもかと描き(ジャニーズもよく吾郎ちゃんにこんな役を許したよな)、はっきりとテロである暗殺(英語題名は「13人の暗殺者」)の成就を観客が期待するようにつくってある。
旧作が、無邪気な東映チャンバラ時代劇を蹴散らした「七人の侍」を意識していなかったはずがなくて、ラッキーナンバーである7を鼻で笑って不吉な数字である13を選択したのも、旧作で脚本を担当した池上金男(作家の池宮彰一郎)の意図だったと思う。菊千代に相当する人物(伊勢谷友介)もちゃんとでてくるし。
「おれ、試写会で『十三人の刺客』観てきたんだー」
庄内映画事情でお伝えした、松方弘樹と競演した(笑)出入りの業者がうれしそうに。エキストラで出演した人たちを招待して試写会が催されたのだとか。
「松方と役所広司が話してるところに出てたんだけど……前からも撮ってたのに後ろしか映ってなくて。よく見ててね」
わかるわけないって(T_T)
「最後に生き残る人ってさぁ」
「言わないでよっ!」
これまた一種のテロ。そんなことを言うものだから見当がついちゃいました。あ、長くなりそうだ。以下次号。