堤幸彦監督の「TRICK」(テレビ朝日)の何がすごかったかというと、仲間由紀恵という美貌かつシリアスな女優と、阿部寛という美貌かつシリアス(だった)俳優を起用して、ドラマとバラエティのすき間を狙ったコメディを成立させたこと。
それ以上にすごいのは、視聴者に「あ、これもありだな」と思わせたことだ。劇場版でも大仰に構えることなく、テレビ以上にふざけまくっていたのも「あり」と思わせてくれた。
まさしく「TRICK」の直系であるかのような「神の舌を持つ男」(TBS)。
丸眼鏡をかけてかわいい向井理、笑うとほっぺにキュートなしわが寄る木村文乃、いつもの暴走ボケを封じ、ツッコミに徹した佐藤二朗のトリオが温泉をめぐり……どう考えても水戸黄門をいただいている。さすがTBS。
けっこう笑わせてくれるし、くせになる面白さなのに、このドラマと劇場版は低視聴率と大コケで有名になってしまった。
想像するに、その原因は「お約束が多すぎた」ことだと思う。
・三人を乗せたワゴン車がガス欠
・向井理が絶妙の三助を行うことで温泉に無料で一泊
・謎の温泉芸者を追いかけるがいつも逃げられ
・神がかりの味覚をいかして事件を解決(かなり無理ある)
・佐藤二朗が宮沢賢治を引用し、ガソリンを関係者に満タンにしてもらって次なる温泉へ
……ガチガチの設定。消えゆくジャンルとなってしまった2時間サスペンスへの挽歌(木村文乃がラストで「さぁ♪眠りぃなさいぃ」と岩崎宏美を歌い出すとすぐ「歌うな!」と止められるのがおかしい)。おそらく企画段階ではもっとたくさんのアイデアが出たんでしょう。会議室の熱気が見えるようだ。「その温泉芸者はヒロスエでいこうぜ!」とか。
しかしそれが視聴率や観客動員に結びつかないあたりが客商売のむずかしさということでしょうか。