事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ハンニバル戦争」 佐藤賢一著 中央公論新社

2016-04-16 | 本と雑誌

第二次ポエニ戦役、通称ハンニバル戦争のお話。

普通はカルタゴの英雄ハンニバルの、象を引きつれたアルプス越えなどの血湧き肉躍る天才的戦術を語るところを、彼を迎え撃つとっぽいお兄ちゃん、ローマの貴族スキピオの側から描いている。

語り口はかなりくだけているので、まるで「泣き虫弱虫諸葛孔明」(酒見……あ、こちらも賢一という名だ)を読むような気分。なにしろ彼の初登場は人妻との浮気を父親に叱責される場面という情けなさですから。

ハンニバルはまさしく天才で、ローマは彼に連戦連敗。それどころか、勝敗以上に全軍を殲滅させられる。この恐怖は共和政ローマにとってよほどの悪夢だったに違いなく、「羊たちの沈黙」などの人食いレクターのファーストネームがハンニバルなのも偶然ではないだろう。彼は一種のモンスターとして、ラスト近くまで人間的側面がまったく描かれない。

わたしはプランス革命ものから読んだので佐藤賢一は(郷土の誇りなのに)苦手だったのだけれど、後半、スキピオが自分は凡才であると知り、そのために徹底的にハンニバルの戦術を研究し、みずからの戦略を実現するために兵士を鍛え上げるあたりからむやみに面白くなる。

しかしハンニバルの戦術が独創的だったのに、そのフォロワーであるスキピオがなぜ勝つことができたかというラストは苦い。最後に勝つのは凡庸な人間なのだという結論。スキピオ自身も、そのことを戦役後に思い知らされる。

それでも、このふたりの名は歴史に残り、彼らの戦いは現在でも兵学校で研究されている。以て瞑すべしであろう。少なくとも、凡才の読者はそう総括しなければ歴史小説を読む甲斐がない(笑)。

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