年賀状を整理していた息子が、時ならぬ声を出して「マジかよ?」としきりに舌打ちをしていた。
高校時代のクラスの子供たちが、都会で住んでいる住所を知らない為か結構な枚数が実家である我が家に舞い込んで来る。
どうやら、その中の一通のようである。
「あいつ、男になるのかなぁ。
そんな、ホモ系の奴じゃなかったはずだがなぁ」と、ブツブツ言っていた。
「何がだ、どれ、見せて見な」と、その一通を受け取って見た。
「う〜ん、つまり、結婚したいと言うことじゃねぇのか」と、勝手に判断してそう言ってから、「あれっ」と気が付いた。
「なんじゃこりゃ、本当に高校卒業したんかいな、おい?」と、つい息子の顔を見上げてしまった。
「世話ねぇなぁ、あいつも」と、息子も舌打ちをしていた。
「まさか、何通もほかのダッチ(友達)どもに出していたなんてこたぁ〜ねぇだろうな?」。
「そうか、あるかもね、あの恥晒しめが」と、息子も言う。
印刷された、既定の年賀はがきの空スペースを利用してこんな文字が書かれていた。
「お蔭様で、3月には性が変わります」。
つまり、性転換をすると言う解釈になるようだ。
息子本人が言うことには、そんな性同一性障害者やオカマ系でもなかったはずだと言っていた。
私ら夫婦の年賀状を除いて、自分に来た年賀状を携え自室に引き返して行った。
多分、多数の友人にケータイで確認するつもりのようである。
息子が自室に戻ったころに、ハッと気が付いたことがあった。
「性が変わる?・・・・・・・では無く、姓ではあるまいか」と思った。
と言うことは、「結婚して、名字が変わる」と言うことであろうと思った。
日本の漢字のややっこしい部分が、どうやら如実に表れてしまった誤字のようである。
性転換などと言う、大げさな大手術と言うことではあるまい。
それから三十分ぐらいしただろうか、息子がニヤニヤしながら居間に入ってきた。
「おい、しょうがしょうでもあれだろ、性格の性じゃなく姓名の姓の間違いだろ?」と、彼が言う前に問いただした。
「それそれ、びっくりしちゃったよ、B子の奴。
みんな、大笑いしていたよ、もう一度高校を出直せってね」と、息子。
新年を迎えて五日目辺りに、大変なことになってしまったらしい。
B子さんの親族やら、年賀状を出した相手さん方々からお見舞いのハガキやら手術の激励などが殺到したらしい。
本人は勿論だが、B子さんの実家の方も大変だったらしい。
「今まで、B子が男女(おとこおんな・性同一性)だったとは、つゆ気が付かなかった。
どこの病院での、手術になるんだ?」と言う問い合わせがあり、家族はエライ迷惑な恥を掻いてしまったと言う。
たかが誤字とは言うが、受け取った方からすれば年明けだけに早めに手術予定を知らせて来たものだと解釈したらしい。
いずれ家族だけでこっそり始末すれば、後で知られてしまってからではどんな噂や誹謗が飛び出すか知れたものではない。
それだけに、本人自ら告知して寄こしたものなのであろうと言う解釈も手伝(てつだ)った。
その勇気と几帳面さに、みんなは褒め称えたと言う。
田舎の方々は、誤字を鵜呑みにして中々ユーモラスでもあり奥行さも薄くて笑うしかない。
普段からB子さんは、健康的でなんら異常を持った身体でも性格でもない。
いくら「もしや?」と言う気がしたとしても、「まさか?」と言う反語が浮かばなかったことがやはり田舎らしいと言えばそうとも言える。
だがしかし、安易に覚えた漢字の失敗がB子さんの知能数の見方の行方にも今後は影響することであろう。
「誤解産み 年中恥じ入る 年始め」。









