レーゼ講談 「小伝馬町癲狂養生所」

貧家銭内(平賀源内)の診察記録

レーゼ講談 「小伝馬町癲狂養生所 冗談録」 其三

2017-04-19 | 講 談

        原作 土屋寛文

       イメージ・キャスト(仮)

    貧家銭内(発明家) ルー・大柴
    杉田玄白(蘭方医) 笹野高史
    中川淳庵(蘭方医) 遠藤憲一


          其 三

男が裸で、カラダ中に菜種油を付けて敷布に包(クル)まって居る。


      「ろ組」獄舎面会室

銭内と玄白が話しをしている。

 玄白「最近のう。巷(チマタ)で、銭内に(コレ)を見せたらどうなるんだろうと云う噂を聞いた」

銭内が驚き、小声で、

 銭内「コレ? これとは何んだ?」
 玄白「うん? 今は・・・、言わない。オマエの身体に障(サワ)る」

銭内は少し怒り、

 銭内「ミズクイサな。君は・・・」


       数日後の問診部屋

中川淳庵 が銭内の問診をしている。
淳庵(玄白の後輩)は銭内の病に、非常に「興味」を抱いている。
淳庵は机の上の土産(ミアゲ)のスルメを摘(ツマ)み、・・・噛む。

 淳庵「クチャクチャクチャクチャ・・・。うん、そうらしいな」

銭内は小声でそっと淳庵に、

 銭内「教えてくれ」

淳庵も小声で銭内を見て、

 淳庵「ダ・メ・ダッ」

銭内は淳庵にきつく詰め寄る。

 銭内「? 何故」

淳庵は、また小声で、

 淳庵「部屋を汚す」
 銭内「ヨゴス? ・・・頼む! 君はワタシの性格を知ってるだろう。・・・頼む」

銭内は淳庵に拝む様に更に詰め寄る。
淳庵は噛んだスルメを口から出し、懐から紙片を出す。
スルメを包みながら、

 淳庵「ダ・メ・ダは ダ・メッ!」
 銭内「汚いぞ、君は・・・」
 淳庵「キタナイ? ・・・ああ、これか。これは後でまた噛むのじゃ」
 銭内「その事ではない」

夜、「ろ組」獄舎を抜け出す銭内。
銭内は急いで神田の「うなぎ屋」に走って行く。


       うなぎ屋「弥助」

暖簾をくぐる銭内。
店の中は賑わっている。
ウナギの様な声の「店主」。

 店主「いらっしゃ~~い~」

銭内は四人で盛り上がっている席の「隣」に座る。

 銭内「主(アルジ)、一本つけてくれ!」
 店主「へ~~い~」

銭内は卓(テーブル)の上の竹楊枝を口にくわえる。
暫くして店主が熱燗と摘み(ウナギの肝の佃煮)を持って来る。

 店主「へ~~い~、オ~マ~チ」
 銭内「・・・うん」

銭内はウナギの様な細身の長い身体(カラダ)の店主を見て、

 銭内「主(アルジ)、アカバラを五本焼いてくれ」

当時、ウナギ屋の受け答えは、皆この声を使っていた。

 店主「へ~~い~」

銭内は隣の客の話を聴いている。

 客A「あの絵は墨じゃねえ。墨なんかじゃ絶対あの絵は描(カ)けねえ」
 客B「あれは南蛮人の描(カ)いた絵だ」
 客C「裸の絵だったぞ」

客Bは助兵衛な(イヤラシイ)笑いを浮かべ、囁く様に、

 客B「女のな・・・」
 客D「銭湯で描(カ)いたんだべや」

客Bはイヤラシく、手ぶりで表現して、

 客B「乳が盛り上がっていたぞ」
 客C「ありゃ、墨じゃ描(カ)けねえ。漆喰(シックイ)だ」


       玄白庵(玄白の家) 

灯りが漏れている。

 銭内(M)「・・・起きてるな・・・」

声を殺して銭内が、

 銭内「お~い、玄白ッ! 先生ーッ!」

玄白が厠(カワヤ)の格子窓を開ける。

 玄白「何者じゃ?」
 銭内「銭内だ」
 玄白「銭内? ・・・おお、何処じゃ」
 銭内「此処だ。垣根の椿(ツバキ)の中だ」
 玄白「何ンだ。早く入れ」

銭内は垣根を潜(クグ)って顔を出す。
勝手口を入ると、部屋は山積みの書籍だらけである。

玄白が厠(カワヤ)を出て来て勝手口に立つ、銭内を見る。

 玄白「・・・今、厠(カワヤ)で御主の事を思い浮かべていた」

銭内は正常な声で、

 銭内「偶然かな?」
 玄白「おッ? だいぶ発する(喋る)ように成ったな」
 銭内「ハハハ、あの時は (人体の言葉と尻の音) に興味を持ったのだ。既(スデ)に書に纏(マトメ)めてしまった」
 玄白「それは素晴らしい。後で読ませてくれ。・・・おッ! そうだ。君に見せたい物がある。ちょっと上がれ」

銭内は部屋に上がる。
押し入れを開ける玄白。
中から巻物を取り出す。

 玄白「・・・是じゃ」

玄白は巻物を広げる。
色鮮やかな「女の絵姿」が畳に広がる。 

 玄白「・・・どうじゃ。良沢と骨ヶ原に腑わけに行った際、長崎から解剖書と一緒に送って来たモノじゃ。これを君にやろう」

銭内は驚嘆する。

 銭内「えッ! ・・・な、なんと素晴らしい絵じゃ。・・・どのように描いたのじゃろう」

銭内は顔と眼を、畳に広げられた絵に近付ける。

 玄白「さ~なあ。次はこの塗り物に凝(コ)ってみたらどうじゃ?」
 銭内「う~ん。・・・素晴らしい。・・・しかし、この女は口にアザミを咥えて何を企(クワダテ)てるんじゃろうな」
 玄白「これは、アザミではない。バラと称す花だ」

銭内は眼を丸くして、

 銭内「バラ?」

鼻を近付け絵の匂いを嗅ぐ銭内。

 銭内「匂わないぞ?」
 玄白「君はバカか」
 銭内「? ワタシはバカだから養生所に入れられたのじゃないか?」

玄白は呆れた顔で銭内を見る。

 玄白「・・・法螺面子(ホラメンコ)と称す。舞を踊っている所だ」
 銭内「ホラメン子・・・! ほ~・・・」

銭内は広げた絵巻物をもう一度、舐める様に見回し、今一度ゆっくり臭い嗅ぐ。

 銭内「?・・・? ニカワの臭いがする」

銭内は絵に触る。

 銭内「ツルツルしとるな。・・・菜種油を加えたか? 小刀(コガタナ)を貸してくれンか」
 玄白「良いから早く持って行け。此処で凝(コ)られたら私の勉強にひびく」

銭内は玄白の話をまったく聞いてない。

 銭内「・・・う~ん。おい、燃やしてみるか」
 玄白「これッ! 何を言う。火を出したら獄門磔(ゴクモンハリツケ)じゃぞ」

玄白は急いで巻物を巻き始める。

 銭内「あ~ぁ」

玄白はなだめるように、

 玄白「落ち着け。君の部屋でゆっくり見ろ」
 銭内「この色は何を使ったんだろう? ・・・そうだッ!」

銭内が叫ぶ。

 玄白「うるさい! 夜更けだぞ」
 銭内「・・・笊(ザル)を所望(ショモウ)したい」
 玄白「ザル? 何に使う」
 銭内「椿の花を百個ほど採りたい。それと、菜種油を貸してくれ」
 玄白「菜種油をとな?」 
 銭内「うん。色を作るのじゃ」


        「ろ組」獄舎  

銭内の部屋。
悩んでいる銭内。

 銭内(M)「しかし困った。紙がない。・・・どうしょうかのう・・・」


        朝の癲狂養生所
 
淳庵の総回診の日。
ろ組獄舎「七番札」牢部屋  
淳庵が部屋の中を覗く。


      「七番札」部屋の中

部屋の中がやたら明るい。
淳庵が「覗き窓」から中を覗く。

 淳庵「うん? おッ!」

淳庵は眼を凝らす。
部屋の中が「竜宮城」に変わっている。

 淳庵「あ~ッ」

淳庵は気を落ち着けて更に眼を凝らして部屋の中を見回す。
派手なモノが見える。

 淳庵「・・・おッ!?」

銭内がカラダ中に菜種油を塗り、椿の花弁を付けて裸体を叩いて気合を入れて居る。

 淳庵「・・・何をしておるのじゃ・・・」

お付きの書生達も「覗き窓」を覗き、

 書生「・・・椿の汁を出している様で御座います」
 淳庵「椿の汁・・・何に使うのじゃ・・・」

壁には敷布を破き、吉原の花魁(オイラン)の絵が下がって居る。
まさに、狂人が絵具の研究をしているである。
       
                つづく

*中川淳庵(1739~1786)
名医・本草学者・蘭学者・杉田玄白の後輩にあたり、前野良沢・杉田玄白とともに 「解体新書」 を翻訳する。
「向学心と積極性」 に富み、多くの学者と交わった男である。


この作品は、著作権を放棄したものではありません。

『ドラマ』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« レーゼ講談 「小伝馬町癲狂養... | トップ |   
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL