決定稿 「巡査の日記(風防の顔)」 撃たなかった12.5mm

2016-05-01 | エッセー

    イメージ・キャスト(仮)

高木虎三郎(巡 査)  高嶋政宏

エドワード・オヘア  パンツェッタ・ジローラモ


       読み切り

  -警察署の使い込まれた机上-

    昭和20年3月10日

新聞(朝刊)が置いてある。

1面記事

     東京に大規模な空襲

      鬼畜米英!
   怯むな、一億、総火の玉!



      -千葉市内-

    昭和20年5月25日

       午前4時

星の輝いている早朝の空。
サイレンが鳴り渡る。

 音「ウ~~~~~」

 自警団(声)「警戒警報~ 警戒警報~」

数分後、またサイレンが鳴る。

 音「ウ~~~ウ~~~ウ~~~」

 自警団(声)「空襲警報ッ! 空襲警報~ッ!」

館山方面から侵入した重爆撃機(B29)。
夜空を埋め尽くす大編隊が東京方面に飛んで行く。
探照燈(サーチライト)が交差しながら、高高度のB29の編隊を照らす。
B29の大編隊、目的を達成すべく、悠々と帝都の空に向かって飛んで行く。

 エンジン音「グオ~~~~~」

いつものように、高射砲の砲弾が爆撃機の下で破裂する。
防空壕から顔を出し、夜空を見ている市民A。

 市民A 「ア~ア、クッソー・・・、届かねえー・・・」

暫くすると、蛍のような帝国陸軍の夜間戦闘機が数機、果敢に大編隊の突入して行く。
20ミリ砲の曳光弾が、点線のような光跡を描いて敵機に吸い込まれて行く。

 市民B「落ちねえ~・・・クソ~ッ、クソッ」

市民Bが壁を叩く。


  -警察署の使い込まれた机上-

     日記が置いてある。

日記には「高木虎三郎」の名前が。

日記を開く。

達筆な文字である。

昭和20年6月10日 勤務(日番)

千葉市内 初空襲

       被害報告

午前7時45分から午前8時57分 
被害地域  蘇我(日立航空機千葉工場) 新宿町 富士見町 稲毛地区(千葉高等女学校)
死  者  400以上
負傷者  多 数

   *     *     *

昭和20年7月6日 勤務(当直)                

千葉市内 2回目の空襲


       -日 記-

午前1時30分、空襲警報発令。

市内にサイレンが鳴り渡り、急いで署の防空壕へ避難。
この夜、爆弾の着弾音が異常に少ない
奇妙な事に、その音は異常に長いように感じた。
着弾音は止まった。が、警報は中々解除されない。

午前3時30分、警報解除のサイレンが鳴る。

防空壕を出、周囲を見て愕然とす。
着弾数が少ない割りに、建物のほとんどが消滅。
市内のあちこちより煙。

被害状況確認の為、市内を探索。


    -警察署自転車置き場-

高木、焼け残った署の自転車置き場から1台を引き出す。
暫く走る高木。
市内は人気(ヒトケ)がまったく無い。
何処かで犬の鳴き声。

 犬の声 「ワン、ワンワンワン」


       -路 上-

黒く焼け焦げた「木炭」のような物があちこちに転がっている。
高木は自転車を停めて「1つ」を覗く。

炭化した黒焦げの 「ヒト

高木は遠目で周囲を見る。
木炭人」 が無数に転がっている。

 高木「・・・何と言う事だ・・・とにかく、被害状況を見なくては・・・」

高木は省線(現JR)千葉駅の方向に向かう。
自転車を走らせ周囲を見回す高木。
昨日まで沢山の家やビルが在った町が、今、遥か遠くまで見渡せる。
遠くに、いつも通って来る省線の高架橋が見える。
駅の方に、数人の人が呆然と立ち尽くしている姿が見える。
高木は高架橋に向かって必死に走る。


       -高架橋-

高架橋の下に自転車を停める高木。
あまりの悲惨さに目を背ける。
高架橋の下には、吹き溜まりのように折り重なって「ヒト」が死んでいる。

首の離れた屍」 「手足の外れた屍

 高木「・・・避難場所を求めて集まったのだろうなあ・・・」

外側の遺体は全員が黒焦げるである。
内側から黒焦げの腕が何かを掴むように飛び出している。
焦げた躯の山の中から赤ん坊の泣き声がする。

 声「エ~ン・・・エ~ン・・・・」

高木は急いで躯(ムクロ)をかき分る。
中から母に抱かれた「赤ん坊」が出て来る。
母親はすでに息は無い。
高木はその赤ん坊を抱いて自転車に乗る。

 高木「ヨシ、ヨシ、ホーラ もう大丈夫だ。さあ、オジサンと行こう」

高木が赤ん坊を抱いて状況確認に向かう。

省線千葉駅の改札が見えて来る。

何処からか、飛行機の爆音が聞こえて来る。
甲高い音である。

 プロペラ音「キィ~ン」

日本の機とは、あきらかに異なる音。 

高木は振り仰ぐ。

一機のアメリカの艦載機(P51)が高木に向かって飛んで来る。
機関砲の発射音

 音「ドドドドド」

弾が高木の自転車をかすめる。
高木は自転車を捨て赤ん坊を抱いて壁に身を寄せる。
艦載機は一瞬、遠くに去って行く。

が、再び、翼をひるがえし高木に向かって来る。

高木はこれが最後かと、赤ん坊の頭をしっかりと抱いて壁に身体を押しつける。
高木の警察の制帽が足元に転がる。
線路をすれすれに、甲高い爆音を残し艦載機(P51)が飛び去る。
高木は身体が硬直、時間が止まる。

赤ん坊が高木の顔を見て笑う。

そっと頭上を見上げる高木。
艦載機(P51)は視界から消えている。
高木は自転車を起こし署に戻ろうと、もう一度空を見る。

突然、太陽を背にしてあの艦載機が音も無く急降下して来る。

操縦士の視界に高木が入った途端、エンジンが始動する。

 音「グイ~ン、グイ~ン、キ~ン~」

甲高い音を立てて、高木の頭上を周(マワリ)り始める。
パイロットが操縦席から横目に「赤ん坊を抱いた高木の顔」を見る。
高木が「風防の中の」パイロットの顔を見る。
パイロットは高木に何か言ったように見えた。

艦載機(P51)は更に頭上を2度ほど旋回し、翼を上下に数回左右して去って行った。

戦争が「人間」を語って消えて行った。


      被害報告書

昭和20年7月6日 午前1時40分から午前3時5分
被害地域 省線千葉駅 京成千葉駅 椿森・作草部地区(鉄道第一連隊、気球総隊、陸軍高射学校)
死  者  1204以上
負傷者  多  数 



艦載機(P51マスタング)のパイロット

アメリカ海軍 エドワード・オヘア(エース・パイロット)
彼は、パイロットでありながら鷲や鷹等の猛禽類をとても嫌った風変わりな男であった。
それは幼い頃、妹が「黒頭大鷲」に襲われたから、と言っていた。
パイロットに成った彼は、地上の「」や「敵兵」を、1度も殺傷した事は無かったと云われている。
また彼は、「敬虔なカトリック者」でもあった。

日本の都市は、既にその時には全てスクラップであった。

1945年(昭和20年)8月06日 広島に特殊爆弾が1発落とされる。
その3日後8月09日 長崎に2発目の特殊爆弾が落とされる。

8月中にアメリカは更にもう1発 「京都」 に落とすつもりだったと云う。

    昭和20年8月15日
    (ポツダム宣言受諾)

       終  戦

              おわり


この作品は、著作権を放棄したものではありません。 

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四百字の原稿から 「広島 張り付いた頁(ページ)」

2016-04-10 | エッセー

      原作 土屋寛文

中村剛雄(仮)78歳  広島県

 
剛雄は蔵の掃除をしている。
古い「紅い染みの帳面日記」が出てくる。

剛雄が貼り付いた日記をそっと捲(メク)る。

 剛雄「・・・」

頁(ページ)に思い出が現れる。

 剛雄(M)「・・・あの頃の僕は、日本を神国だと思っていた」

*鉛筆の記

昭和19年12月28日(晴れ)
 神国に敵はない。
 神国に歯向かう者はない。
 神国は負けない。
 神国に育ったぼくは、敵の弾丸も跳ね返す。
 神国には天皇様が居らす。

昭和20年1月15日(曇り)
 だからぼくは一生懸命勉強して、立派な兵隊さんに成る。
 兵隊さんに成って手柄をイッパイ立てて、お国の為に尽くす。
 アメリカなんかに負けるものか。

昭和20年3月26日(曇り・雨)
 町内に沢山の「白木の箱」が戻って来た。
 白木の箱には神様が入って居(オ)らすと母様が言われた。

昭和20年8月6日(晴れ)
 朝、空が光った。
 僕  目  顔と背中  立って  いら

そこから先は、紅い染みで貼り付いて読めなかった。

私は間違ってたようだ。 
広島の、「あの日」の日記だった。

             おわり

この思索作品は、著作権を放棄したものではありません。

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