ホームメイド・ケフィアを好きな方のために

ホームメイド・ケフィアをこれから始めたい方、すでに始めている方のブログです。ケフィアについての感想や質問をお書き下さい。

ケフィアの話(7)

2006年08月28日 18時24分41秒 | Weblog
   新発売したケフィールがスーパーの棚の最上段に並んで売られていた。
(前回の続き)帰国後、すぐにケフィアの開発に着手しましたが、ヨーグルトメーカーとしてケフィアの製造にあたり、幾つかの問題をクリアしなければなりませんでした。
その1は、酵母の問題です。ケフィアのために醗酵設備を新設できれば問題がありませんが、ヨーグルトの醗酵設備と併用すると、ヨーグルトに酵母が混入するリスクが伴います。つまり醗酵設備の品質管理の管理水準を上げなければなりません。
その2は、醗酵温度と醗酵時間の問題です。ケフィアの発酵温度は25℃ですから、42℃で醗酵させるヨーグルトとは同じ醗酵室で醗酵させることは出来ません。醗酵室だけはケフィアのために新設しなければなりませんでした。その上4~5時間で醗酵するヨーグルトに比べケフィアの醗酵時間が24時間もかかるので生産効率がヨーグルトより悪くなる等々、ヨーグルトメーカーにとってケフィアの製造は必ずしも有利ではありません。
しかし、最も困難な課題は容器包装の問題でした。ケフィアは酵母の発酵によって炭酸ガスを生じますから、醗酵したケフィアを充填すると容器に内圧がかかります。ヨーグルトはプラスチック容器に充填し、アルミの蓋でシール(熱溶着)していますが、ケフィアの場合は酵母による内圧に耐えるように蓋をより強くシールをする必要があります。しかしシールが強すぎると消費者が蓋を開けられない(シールを剥がせない)という矛盾する問題を解決する必要がありました。この内圧制御の課題を残していましたが、賞味期限を短縮すること(つまり酵母の発酵が進まないうちに消費すること)と、容器を紙のパケージで覆って容器膨張を目立たなくすることによって、同業他社に先駆けてケフィールの商品名で発売しました。
参考までにケフィアとケフィールは同義語です。KEFIRを英語読みするとケフィア、ドイツ語読みではケフィールになります。ロシアや東欧諸国ではケフィールと呼んでいます。
ケフィールの発売は大きな反響がありました。これは「のむヨーグルト」に次ぐ大ヒットかと思わせましたが長くは続きませんでした。消費が一巡するとスーパーの棚で容器膨張が目立って来ましたが、日本の消費者は缶詰が膨張すると傷んでいるという常識を持っていましたので、数ヶ月で市場から撤退しなければなりませんでした。
追随してケフィアを発売した同業他社も数社ありましたが、いずれも同じ理由で市場から撤退しなければなりませんでした。(次回へ続く)
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ケフィアの話(6)

2006年08月25日 14時49分13秒 | Weblog
(前回の続き)、さて、ケフィアを開発するにあたり、まずケフィア粒を入手しなければなりません。当時ヨーロッパでは、乳業メーカーの多くは酪農民の共同出資による組合組織か、あるいは酪農業育成のための国策会社でした。従ってヨーグルトを作るためのスターターカルチャー(乳酸菌)やチーズを作るレンネット(酵素)などは専門メーカーから供給されていました。世界各地にはそのような酪農乳業向けの技術開発を専門としている会社は幾つかあり、有名なのはデンマークのクリスチャン・ハンセン社です。スイスのトニー乳業で聞いた通り当時ヨーロッパのヨーグルト市場が飽和状態に達していましたので、それらの専門メーカーは、発酵乳の新製品開発のために新しいスターターカルチャーの探索を行っていました。そこで各社はターゲットをコーカサス地方のケフィアに絞って、ケフィアカルチャー(ケフィア粒、乳酸菌・酵母の複合物)の開発に鎬を削っていて、その成果をアヌーガーの見本市に出展していました。幸い私はその1社であるドイツのウイズビー社に接触し、念願のケフィアカルチャーを入手することができました。(次回に続く)
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ケフィアの話(5)

2006年08月17日 19時29分38秒 | Weblog
          スイスのトニー乳業のケフィア
(前回の続き)ケフィアはコーカサスの伝統的発酵乳であるとお話しましたが、少し話題を転じて、ホームメイド・ケフィア開発の経緯についてお話します。

話は25年も遡りますが、当時私はある中堅の発酵乳メーカーの研究開発部門を主宰していましたが、そこで開発したドリンクヨーグルトが大ヒットしました。当時はヨーグルトと言えばスプーンですくって食べる固形状でしたが、ストローで飲める液状のヨーグルトは、私達が発売した「のむヨーグルト」が日本で最初でした。その会社は自ら開発した新製品を同業他社のPB製品として売り込むことによって、市場規模を形成すると言う営業戦略をとっていましたので、「のむヨーグルト」の委託生産の依頼が殺到しました。一時はわが国で販売されていたドリンクヨーグルトの殆どを私達の工場で製造していたと言っても過言ではないと思います。しかし、ドリンクヨーグルトの人気が定着すると、乳業会社は外注から内製に切り替える可能性があり、生産規模が増大した絶好調の時こそ最大の危機を孕んでいると言えます。

そこで、私はドリンクヨーグルトの次の新製品を開発するためのヒントを探るために、ヨーロッパのヨーグルト市場を視察しました。
最初に訪れたスイスのトニー乳業で、私はケフィアの新発売キャンペーンに遭遇しました。トニー乳業のインストラクターによると、ヨーロッパではヨーグルト市場は飽和状態であり、エキゾチックなオリエンタルムードのあるケフィアによって停滞しているヨーグルト市場を活性化したいとのことでした。試食させていただいた新製品のケフィアは、酵母の作る炭酸ガスの爽やかな刺激を感じ、確かにヨーグルトより新鮮に感じました。

実は、私にはケフィアはまったくの新知見と言うわけではありません。カルピスの創業者三島海雲氏はシルクロードを旅したとき、乳酸菌と酵母で醗酵させた(ケフィアに類似した)発酵乳を飲んだ体験から、これを日本で生産することを試みて開発したのがカルピスであると聞いていました。しかし酵母の作る炭酸ガスをコントロールすることが困難であったために砂糖を加えて加熱殺菌することによって、製品を安定化させたと聞いていましたので、ケフィアは殺菌しなければ製品化できないと思っていました。したがって酵母の生きているケフィアは日本の乳業技術者にとって幻の発酵乳であったわけです。それだけにトニー乳業で試食させていただいた炭酸ガスの刺激のあるケフィア(酵母の生きているケフィア)は驚きでした。

その後、チューリッヒ市内のスーパーマーケットを見て回りましたが、ヨーグルト売り場でケフィアはかなりのスペースを占めていました。
次に、ドイツのケルンで開かれていた世界最大規模といわれる食品見本市「アヌーガ‘81」でも、ケフィアが各社から新製品として出展されていました。
ドイツのスーパーマーケットでも、ケフィアは新製品としてなかなかの評判でありヨーグルトを凌駕する勢いで並んでいました。

それを見て、私はドリンクヨーグルトの次の開発ターゲットはケフィアだと確信をして帰国の途につきました。(次回に続く)
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ケフィアの話(4)

2006年08月09日 16時05分27秒 | Weblog
(前回の続き)さて、今回はコーカサスのケフィアについてお話します。
コーカサス地方とは、西側に黒海、東側にカスピ海、北側にコーカサス山脈に取り囲まれた地域を指しています。この地方はパキスタンのフンザ地方、南エクアドルのビルカバンバと並んで世界の三大長寿地帯と呼ばれていますが、中でもコーカサス地方は昔から戸籍が整備されていましたので信頼度の高い長寿地帯です。

コーカサス地方には100歳を越す元気な老人が多いことで有名ですが、この地方の人々はケフィア粒と呼ばれる種菌で牛乳を醗酵させたケフィアを食べています。
コーカサス地方でいつからケフィア粒で牛乳を醗酵するようになったかははっきりしませんが、アメリカの有名な乳製品学者のコシコフスキーは、このケフィア粒を神様の贈物(The gift of the Gods)と呼んでいます。アゼルバイジャンのトルコ系の回教徒の間では、古くからケフィア粒を「預言者の黍」と呼んでいたと言っています。彼等はまた最初のケフィア粒はアラーの神がもたらしたものと信じています。

ケフィア粒は乾燥すれば上述のように黍状の硬い塊ですから、コーカサスではこの状態で保存していたようです。牛乳に加えると写真のような柔らかい塊になります。この塊はきのこに似ていますので、日本では「ヨーグルトきのこ」と呼ばれて、これで牛乳を醗酵させることが流行ったことがあります。しかしコーカサス山麓地帯の風土と違って温暖多湿の日本の風土では雑菌汚染を防いでケフィア粒を保存することが難しく衛生面の不安のためにブームは終息しました。

ケフィアの健康効果が注目されるようになって、多くの研究者がコーカサスのケフィア粒を取り寄せて研究しました。その結果ケフィア粒は乳酸菌と酵母から構成されていることがわかりましたが、研究者によって分離される乳酸菌や酵母の種類が少しづつ違っています。つまり、コーカサス地方では各家庭毎に秘伝のケフィア粒を秘蔵しており、継承しているケフィア粒に含まれていた乳酸菌や酵母の種類が少しずつ違っているようです。総じてケフィア粒から30数種類の乳酸菌と10数種類の酵母が分離されています。

前回、メチニコフはブルガリアに長寿者が多いのはヨーグルトを食べているためではないかと考えたとお話をしましたが、多くの研究者はコーカサス地方に元気な長寿者が多いことに注目しました。それでロシアから東欧にかけて、ケフィアを食べさせて病気を治そうという療養所や病院がたくさんつくられました。つまりヨーグルトはメチニコフによって西回りに普及しましたが、ケフィアのヨーロッパへの普及はヨーグルトより遅れて北周りに普及することになりました。

ヨーグルトは牛乳を乳酸菌で醗酵させていますが、ケフィアは上述のようにケフィア粒で醗酵させています。ケフィア粒には数種類の乳酸菌と酵母が含まれています。したがって乳酸菌だけで発酵させるヨーグルトと、乳酸菌と酵母で発酵させるケフィアは、同じ発酵乳でも風味や醗酵の仕方が違います。(次回に続きます)
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ケフィアの話(3)

2006年08月07日 17時35分19秒 | Weblog
(前回の続き)ヨーロッパでは牛乳を放置すれば自然にヨーグルトになると言いました。
しかし、風土に根ざす乳酸菌は全て同じではありません。したがって出来てくるヨーグルトも違います。これまではわかりやすく牛乳を醗酵すればヨーグルトになると言いましたが、ヨーグルトはブルガリアやトルコなど、バルカン地方が発祥の地と言われています。ブルガリアやトルコでは牛乳を放置すればヨーグルトになりますが、その他の地方ではそれぞれ違う発酵乳が出来ます。つまりヨーグルトはブルガリアやトルコの発酵乳を指している言葉です。したがって発酵乳と言う言葉はヨーグルトの上位概念です。そして各地域にはそれぞれ固有の名前を持った発酵乳があります。

世界各地には、それぞれの風土に適した乳酸菌が生息していて、牛乳や山羊乳、馬乳などの獣乳を醗酵しています。
北欧では主として低温で醗酵する乳酸球菌が旺盛に生育していて、ラクトコッカス・クレモリスなどの粘質物を作る乳酸菌によって発酵したフィンランドのヴィリやスエーデンのロングミルクなどが有名です。
バルカン地方から中近東にかけては高温性の連鎖球菌(ストレプトコッカス)と乳酸桿菌(ラクトバチルス)による発酵乳が主体になり、ブルガリアやトルコのヨーグルトがその代表です。グルジアにはマッツオーニという発酵乳がありますが、やはり連鎖球菌と乳酸桿菌で醗酵していますので、ヨーグルトに近い風味です。昨今流行っていたカスピ海ヨーグルトは乳酸菌の構成や粘り気のある食感から、グルジアのマッツオーニよりもむしろ北欧のヴィリなどに近いように思います。
コーカサスから中央アジアのモンゴルにかけての発酵乳は、乳酸菌と酵母で醗酵するのが特徴です。コーカサスのケフィア、モンゴルのクーミスなどです。

大まかに分けると、ヴィリやテッテに代表される北欧の発酵乳は乳酸球菌、ヨーグルトに代表されるバルカン地方から中近東にかけては連鎖球菌と乳酸桿菌で発酵しています。
ケフィアやクーミスなどコーカサスから蒙古にいたる中央アジアの発酵乳には乳酸菌の他に酵母で醗酵しています。

ちなみに、ブルガリアではヨーグルトのことをキセロ・ムリャコ(Kislo mliako)と呼んでいたようで、パスツール研究所の客員研究員であったメチニコフがブルガリアを旅行したとき、長寿者が多いことに気がつき、その原因がキセロ・ムリャコを常食しているためであろうと考え、「人生および長寿論」という本を書いたことがきっかけで、ブルガリアの伝統的発酵乳であったヨーグルトがヨーロッパに広がったと言われています。ところがメチニコフが長寿をもたらすと説いたヨーグルトの醗酵菌であるブルガリア菌が腸まで達しないことが判明したこと、メチニコフ自身も70数歳で早死してしまったことにより、ヨーグルト長寿説がすっかり廃れてしまうことになるのですが、その後の発酵乳・乳酸菌研究の契機になった功績は大きいと思います。
メチニコフは「白血球の食菌現象における免疫学」という研究発表によってノーベル生理医学賞を得たロシア人です。(次回に続きます)
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ケフィアの話(2)

2006年08月01日 15時44分29秒 | Weblog
----------------------(パスツールのフラスコ)---------------------
フラスコの中にスープを入れ、下から加熱すると蒸気でサイフォン状のガラス管の中が滅菌され、冷やしたときに外気を吸い込んでもガラス管壁に微生物が付着してスープの中まで入らないので、スープが無菌に保たれ腐敗しない。ガラス管を折ると外気とともに微生物が入ってスープが腐敗する。つまりスープの腐敗は微生物の作用であることを証明した有名な実験です。                   --------------------------------------------------------------

(前回の続きです)ところで、その乳酸菌ですがおそらく人類の起源よりも古く、人類がその恩恵に浴してきたのですが、牛乳が乳酸菌の働きによってヨーグルトになることを理解できるようになるのは、微生物学の父と呼ばれたパスツールを待たなければなりませんでした。

パスツール以前は、生命の自然発生説が信じられていて、ワインやヨーグルトは自然に出来るものだと思われていたのです。しかしパスツールは有名な「白鳥の頸型のフラスコ」によって生命は生命から生まれることを証明したのです。つまり微生物の存在を初めて証明したのです。ワインは酵母の、そしてヨーグルトは乳酸菌の生命現象の結果出来る物であることを初めて明らかにしたのです。そして1857年「乳酸発酵に関する報告」という有名な論文の中で乳酸菌の存在を始めて明らかにしたのです。

皆さんは「低温殺菌牛乳」をご存知ですね。この殺菌方法もまたパスツールの業績に負うものです。パスツールがワインの酸敗の研究をしていた頃、ヨーロッパに結核が蔓延しました。結核を媒介したのが牛乳であったのです。牛乳中に結核菌がいてそれを飲むと結核にかかるわけですから、牛乳を煮沸殺菌すればよいと考えるのが普通でしょう。しかしパスツールはそうしなかった。先ほどヨーロッパでは牛乳を放置すれば自然にヨーグルトになると言いました。牛乳の中の微生物を全部殺菌してしまうとヨーグルトにならなくなるのです。牛乳を保存できなくなるのです。乳酸菌がヨーロッパの食文化を育んできたのですから、牛乳中に乳酸菌がいなくなると言うことは非常に困るのです。
そこでパスツールは牛乳中の結核菌だけを殺菌しようと考えたのです。いろいろ研究した結果、病原菌は熱に弱い。比較的低温で殺菌できることがわかったのです。
牛乳を65℃、30分加熱すると結核菌がいなくなるが、乳酸菌が生き残ることを発見したのです。パスツールが低温殺菌方法を開発したおかげで牛乳の中の乳酸菌が生き残り、相変わらず牛乳を放置しても腐らない、発酵乳の食文化が生き残ることになるのです。

しかし、日本では事情が違います。最初にお話しましたように牛乳を放置すればヨーグルトにならないで腐ります。したがって日本の牛乳は超高温殺菌法(UHT殺菌)といって130℃、2秒の加熱殺菌によって、牛乳中の微生物を全部殺菌する方法をとっています。紙パックで販売されている大手乳業会社の市販牛乳は全てUHT殺菌牛乳です。したがって紙パック牛乳の中にはほとんど雑菌が残っていません。温暖多湿のわが国の気候風土でもホームメイド・ケフィアの醗酵が可能になったのは、UHT殺菌された紙パック牛乳の普及のおかげです。

ところが地方の牧場や牛乳処理場に行きますと、パスと呼ばれる殺菌釜が置いています。パスはパスツールのパスです。地方の中小乳業ではパスツールの開発した低温殺菌方法で牛乳を殺菌して市販しているのです。
パスツールの開発した低温殺菌は病原菌を殺菌しますが、乳酸菌を殺菌しない方法です。牛乳を放置してもヨーグルトになる性質を残すために開発された方法です。ところが最初にお話しましたように、日本では放置するとヨーグルトにならないでほとんどの場合腐敗します。つまり低温殺菌で病原菌が殺菌できても腐敗菌は殺菌できないのです。低温殺菌牛乳は足が速い(腐りやすい)といわれるのはそのためです。特に夏場は搾乳牛舎の環境も悪く、流通過程でも牛乳の温度が上がり、生き残っている雑菌が繁殖しやすいので、ホームメイド・ケフィアを作るとき、低温殺菌牛乳を用いることは危険です。(以下、次回に続きます)
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