
『聖地への旅』
マイケル・ブレッカー
UCCM-1116
以前にもご紹介しましたが、現代のジャズシーンを牽引し、コルトレーン以降で最も影響力のあるサックス奏者であったマイケル・ブレッカーが今年一月に亡くなりました。白血病だったそうです。まだ57歳で、ジャズミュージシャンとしては一番脂がのりきった時期。これからもっと凄い音楽を創造するであろうと思われていただけに、本当に残念でなりません。
闘病中、マイケル・ブレッカーは演奏活動を休んでいたのですが、実はある時期からレコーディングを開始していたそうで、なんと死のわずか2週間前に完成したのが、今日ご紹介するアルバム、『聖地への旅(PILGRIMAGE)』です。原題のPILGRIMAGEとは、巡礼を意味するようですが、恐らく自らの死が避けがたいことを悟り、病をおして制作したのでしょう。病気を得る前の、最も充実していた時期のブレッカーの演奏とはちょっと趣を異にしますが、非常に感慨深い、感動的なアルバムです。
彼が集めたメンバーは、ピアノにハービー・ハンコック、ギターにパット・メセニー。ドラムにジャック・デジョネット、ベースにジョン・パティトッチ。曲によってはピアノでブラッド・メルドーを起用しています。このメンバーは、おそらく現在ジャズシーンで望みうる最良のメンバーであり、同時にマイケル・ブレッカーが最も信頼する、音楽的な友人と言えるでしょう。
もちろん演奏が素晴らしいことは言うまでもありません。ブレッカーも、メンバーも、おそらく二度と全員揃って演奏することがないだろう、という悲壮な思いがあったはずですが、決して安手のセンチメンタリズムに堕することなく、むしろストイックに、最高の演奏を目指している。
死の直前でなお、彼にしか吹けないような素晴らしいフレーズを繰り出しながら、自分の理想の演奏を追求するマイケル・ブレッカーの姿には、音楽に全生命を捧げた真のジャズマンの崇高な魂を見ることができます。そして、その魂に共振する他のメンバーたちの演奏も、実に素晴らしい。ジャズの醍醐味の「アンサンブル」が最高レベルで実現されています。ただ、ジャズファンとしては、「When Can I Kiss You Again?」と題された美しくやや哀愁を帯びた現代的なバラードを聴くと、彼がこのタイトルを付けた気持ちがあまりに「痛い」。まだまだサックスを吹きたかったのだろう(おそらくそれがKissでは?)…そのことに思いを馳せながら演奏を聴くと、涙が出てきます。
アルバムのアートワークは、空ともあるいは海とも見える青い水彩の抽象的な絵。とても美しく深いブルーに、「PILGRIMAGE」と小さな白い字が書かれています。彼にとっての「巡礼」とは、音楽を共に作った最良の仲間たちとの一期一会の演奏であり、その白鳥の歌を人々に届けることではなかったのでしょうか。(伝承で、白鳥は死の直前にもっとも美しく鳴くと言われているそうです)
ありがとう。マイケル・ブレッカー。そして、これからも僕たちはレコードやCDに鮮やかに残されたあなたの演奏をずっと聴き続けたいと思います。
マイケル・ブレッカーのアルバム『聖地への旅』の情報はこちらにあります。リンク先で試聴が行えます。
マイケル・ブレッカーのディスコ・グラフィーがまとめられています。ぜひ本作以外の作品もお聴きいただきたいと思います。
「おとなを、休む日」の「演奏を、楽しむ日」ではサックスをご紹介しています。サックスの仕組みから設計思想、そしてソプラノ、アルト、テナー、バリトンの各サックスの音もサイト上で聞くことができます。ぜひご覧ください。

マイケル・ブレッカー
UCCM-1116
![]() | 聖地への旅マイケル・ブレッカー, パット・メセニー, ハービー・ハンコック, ブラッド・メルドー, ジョン・パティトゥッチ, ジャック・ディジョネットユニバーサルクラシックこのアイテムの詳細を見る |
以前にもご紹介しましたが、現代のジャズシーンを牽引し、コルトレーン以降で最も影響力のあるサックス奏者であったマイケル・ブレッカーが今年一月に亡くなりました。白血病だったそうです。まだ57歳で、ジャズミュージシャンとしては一番脂がのりきった時期。これからもっと凄い音楽を創造するであろうと思われていただけに、本当に残念でなりません。
闘病中、マイケル・ブレッカーは演奏活動を休んでいたのですが、実はある時期からレコーディングを開始していたそうで、なんと死のわずか2週間前に完成したのが、今日ご紹介するアルバム、『聖地への旅(PILGRIMAGE)』です。原題のPILGRIMAGEとは、巡礼を意味するようですが、恐らく自らの死が避けがたいことを悟り、病をおして制作したのでしょう。病気を得る前の、最も充実していた時期のブレッカーの演奏とはちょっと趣を異にしますが、非常に感慨深い、感動的なアルバムです。
彼が集めたメンバーは、ピアノにハービー・ハンコック、ギターにパット・メセニー。ドラムにジャック・デジョネット、ベースにジョン・パティトッチ。曲によってはピアノでブラッド・メルドーを起用しています。このメンバーは、おそらく現在ジャズシーンで望みうる最良のメンバーであり、同時にマイケル・ブレッカーが最も信頼する、音楽的な友人と言えるでしょう。
もちろん演奏が素晴らしいことは言うまでもありません。ブレッカーも、メンバーも、おそらく二度と全員揃って演奏することがないだろう、という悲壮な思いがあったはずですが、決して安手のセンチメンタリズムに堕することなく、むしろストイックに、最高の演奏を目指している。
死の直前でなお、彼にしか吹けないような素晴らしいフレーズを繰り出しながら、自分の理想の演奏を追求するマイケル・ブレッカーの姿には、音楽に全生命を捧げた真のジャズマンの崇高な魂を見ることができます。そして、その魂に共振する他のメンバーたちの演奏も、実に素晴らしい。ジャズの醍醐味の「アンサンブル」が最高レベルで実現されています。ただ、ジャズファンとしては、「When Can I Kiss You Again?」と題された美しくやや哀愁を帯びた現代的なバラードを聴くと、彼がこのタイトルを付けた気持ちがあまりに「痛い」。まだまだサックスを吹きたかったのだろう(おそらくそれがKissでは?)…そのことに思いを馳せながら演奏を聴くと、涙が出てきます。
アルバムのアートワークは、空ともあるいは海とも見える青い水彩の抽象的な絵。とても美しく深いブルーに、「PILGRIMAGE」と小さな白い字が書かれています。彼にとっての「巡礼」とは、音楽を共に作った最良の仲間たちとの一期一会の演奏であり、その白鳥の歌を人々に届けることではなかったのでしょうか。(伝承で、白鳥は死の直前にもっとも美しく鳴くと言われているそうです)
ありがとう。マイケル・ブレッカー。そして、これからも僕たちはレコードやCDに鮮やかに残されたあなたの演奏をずっと聴き続けたいと思います。
マイケル・ブレッカーのアルバム『聖地への旅』の情報はこちらにあります。リンク先で試聴が行えます。
マイケル・ブレッカーのディスコ・グラフィーがまとめられています。ぜひ本作以外の作品もお聴きいただきたいと思います。
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