hiyamizu's blog

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東野圭吾『歪笑小説』を読む

2012年08月16日 | 読書2

東野圭吾著『歪笑(わいしょう)小説』集英社文庫ひ15-9、2012年1月集英社発行、を読んだ。

本が売れるためには何でもする編集者と不安と自信に揺れる新人作家の騙し合い。小説業界の内幕を暴露する全12話。東野さんの「笑」シリーズ4巻目。

常識破りのあの手この手を連発する伝説の編集者、TVドラマ化の話に舞い上がる若手作家、ただただ褒め上げるだけの美人編集者担当、閑職への異動をきっかけに小説を書き、新人賞の最終候補に選ばれ会社を辞める決意をする会社員、特異な作品が当りそれにとらわれ書き悩む新人作家などなど、ブラックな笑いが一杯の連作短編集。

同じ登場人物が出てくるので、前作『黒笑小説』を先に読んでから本書を読む方がベターだ。



伝説の男
「読めば感動できるけど売れない本と、中身はスカスカだけど売れる本。どっちが我々出版社にとってありがたいかは、いうまでもないだろう。・・・内容が素晴らしいから売れるってことはある。でも計算はできない。計算できるのは売れる作家の本だ。・・・まず間違いなくある程度の数字は見込める」
そこで、獅子取編集長は作家に取り入ることを第一に、何でもする。

序ノ口
意地悪で傲慢な実在らしいベテラン作家が何人も登場するなか、「天敵」にも出てくるが、やけにやさしい警察小説の玉沢義正の大人物ぶりが目立つ。東野さんは大沢在昌と仲良しなんだろうか。 

小説誌
週刊誌『小説灸英』の編集部の青山は、見学にきた中学生から小説誌の意義を問い詰められる。「売れっ子作家に毎月原稿料を渡すために、単行本化される前の下書き状態の読む人も少ない小説を連載で載せてるんでしょう。資源の無駄だ、メモ用紙として白紙にしたら」と言いたい放題。ついに青山は、「こうでもしないと、作家の奴は書かないんだ。・・・」とキレる。

戦略
売れない作家・熱海圭介を売りださざるを得ないことになった編集長の獅子取は、キャラ作りのため圭介のイメチェンを図る。休日のたびに大型スーパーへ買い物に連れ出されるお父さんのような格好、ポロシャツに膝の出たスラックスで、髪は七三。(悪かったね!)これを、アフロヘアー、髭、禁煙パイプ、赤色のレザージャケット、ヒョウ柄のスラックスで、台本とおりの言葉使いにさせる。

職業、小説家
娘が結婚したいという男が新人作家と聞いて不安になった父親は、小説好きの女性に聞く。
「・・・親戚の子が小説家になりたいなんていってるそうなんだ。といっても、まだ中学生だけどね」・・・「いいじゃないですか。中学生ぐらいなら、その程度の夢があっても。大学生でそんなこといってたら洒落になりませんけど」

1冊1800円で、取り分10%の180円。まだ7000部程なので、180×7000 = 126万円。年2冊で252万円。短編240枚書いて、原稿料400字で4000円、4000×240 = 96万円になる。結局、合計年収は税込、348万円になると彼は言うが。
(作家さんも、よほど売れないとけっこう厳しいですね)

巻末に、架空の灸英社文庫の熱海圭介、唐傘ザンゲなどの本の広告がいかにも本物風に載っていて笑える。

初出:「小説すばる」2011年3月号~2011年11月号。本書は文庫オリジナル。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

癖が強く、売らんがなの編集者と、プライド高いが不安一杯の作家の駆け引きが笑える。ともかく面白いのだが、小説出版界の内情が伺えて、心配になる。
売れる作家、儲かる出版社は激しい競争で選択され、資本主義社会では望ましい形態とも言える。しかし、良質な作家、書物は細々であっても生き残れるのだろうか。心配だ。ネットでの販売、さらには電子出版が助けになれば良いのだが。



東野圭吾の履歴&既読本リスト

コメント
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