「改憲ありき」ではなく 憲法審査会が再始動(2016年11月8日中日新聞)

2016-11-08 08:42:52 | 桜ヶ丘9条の会
「改憲ありき」ではなく 憲法審査会が再始動 

2016/11/8 紙面から
 衆院憲法審査会が十日に議論を再開する。自民党は憲法改正を要する項目の絞り込みを急ぎたいようだが、「改憲ありき」で議論を進めてはならない。

 衆院憲法審査会の再開は約一年五カ月ぶりである。昨年六月の参考人質疑で、自民党推薦の憲法学者らが、「集団的自衛権の行使」を可能とする安全保障関連法を「憲法違反」と断じて以来、審議が行われていなかった。

 七月の参院選の結果、憲法改正に前向きな「改憲派」が衆参両院で三分の二以上に達した。安倍政権がいよいよ、自民党が党是としてきた改憲の発議に向けて動きだしたということだろう。

首相が発議案を期待

 衆院憲法審査会は十日に「憲法制定経緯と憲法公布七十年を振り返って」、十七日は「立憲主義、憲法改正の限界、違憲立法審査の在り方について」などをテーマに自由討議を行う。

 参院の憲法審査会も今年二月以降行われていなかった審議を、十六日に再開する、という。

 任期中の改憲を目指す安倍晋三首相は、審査会での議論について「国民に分かりやすい形で発議案をまとめることを期待したい」と自民党の保岡興治憲法改正推進本部長に述べたという。

 安倍氏は「この憲法を尊重し擁護する義務を負う」(憲法九九条)立場の国務大臣であり、内閣の首長たる首相でもある。

 いくら改憲を発議する権限を有する国会議員の一人であり、自民党総裁でもあるとはいえ、首相の立場にある者が憲法審査会での改憲発議案の取りまとめにまで言及するのは行き過ぎではないのか。

 憲法は、国民が政治権力を律するためにある。現行憲法は九六条で改正条項を定めており、憲法に著しい不備があるのなら、国会での議論を経て改憲案を発議し、国民投票で賛否を問えばよい。

改悪への警戒感強く

 しかし、今、改憲しなければ、国民の平穏な暮らしが著しく脅かされるような事態が想定されているのだろうか。国民から改憲を求める意見が澎湃(ほうはい)と湧き上がっているような状況だろうか。

 国民が改憲を必要とする政治状況でないにもかかわらず、政治権力が改憲に突き進む「改憲ありき」の態度は厳に慎むべきである。国民が憲法を通じて政治権力を律する「立憲主義」にも反していると言わざるを得ない。

 自民党は二〇〇五年と一二年に憲法改正草案を作成した。

 一二年草案は、天皇の元首化や国防軍創設など国民主権、平和主義の観点から問題が多く、全国民に憲法尊重義務を課すなど立憲主義に反する内容が盛り込まれている。家族の協力義務を定めるなど復古的で時代にもそぐわない。

 政権復帰を目指す野党時代に、「保守層」の支持を固める狙いがあったのだろう。

 憲法審査会の再開に当たり、自民党は一二年草案を「そのまま提案することは考えていない」(保岡氏)として事実上封印したが、草案に盛り込んだ考えを放棄したかどうかは明確ではない。

 憲法公布七十年に当たり、共同通信社が郵送方式で実施した世論調査結果で、安倍首相の下での改憲反対が55%に達し、賛成の42%を上回ったのも、安倍政権下では憲法が「改悪」されかねない、との警戒感があるからだろう。

 自民党内などには、改憲を必要とする理由として「押し付け憲法論」が根強くある。現行憲法は終戦後、占領軍に押し付けられたものだとして、自主憲法をつくる必要があるとの立場だ。

 現行憲法が占領軍の影響下で制定されたことは事実だが、押し付けられたものを唯々諾々と受け入れたわけではなく、当時の帝国議会で活発に議論され、多岐にわたって修正が加えられている。

 押し付けというよりは、むしろ占領軍の「外圧」を利用して旧弊を一掃し、新生日本にふさわしい憲法を、自らの手で作り上げたといった方がより適切だろう。

 何よりも重要なのは、公布後七十年もの長きにわたり、主権者たる国民が憲法改正という政治選択をしなかった歴史的事実である。

公布70年、血肉と化す

 国民主権、戦争放棄、基本的人権の尊重を三大理念とする現行憲法は、日本国民だけで三百十万人もの犠牲を出した先の大戦への痛切な反省に基づくものであり、戦後の経済発展の土台となった。

 公布後七十年を経て日本国民の血肉と化していることを、今を生きる私たちは忘れてはなるまい。

 再開される憲法審査会で議論を尽くすべきは現行憲法の理念であり、現に果たしている役割だ。

 「改憲ありき」の議論や「改憲のための改憲」は、日本国民が歩んできた歴史に対する冒涜(ぼうとく)にほかならない。

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