「共謀罪」277種、不可解な線引き  

2017-06-20 08:45:09 | 桜ヶ丘9条の会
「共謀罪」277種、不可解な線引き 

2017/6/20 中日新聞

 国民の理解を置き去りにしたまま「共謀罪」法が成立した。取り残された疑問は多いが、とりわけ対象犯罪の「線引き」の不可解さは深刻だ。金融商品取引法などビジネス関連の法律が含まれ、経済界に懸念がひろがる一方、政治資金規正法などは原案から削除された。恣意(しい)的な「線引き」との疑念はぬぐえていない。改めて問う。この法律は本当に必要なのか。

 「なぜ、財界や業界の団体が『共謀罪』法に反対しないのか、理解できない」と企業法務に詳しい武井由起子弁護士(50)は、ため息をついた。「『組織犯罪とは無縁』と考えているのだろうが、解釈一つで企業活動が共謀罪に問われる可能性がある。恣意的な運用をされたら、誰もが犯罪者とされてしまう危険性に気づくべきです」

 商社に勤務経験がある武井さんが問題視するのは、「共謀罪」法にある二百七十七の処罰対象に、会社法、金融商品取引法や法人税法、不正競争防止法など企業活動に直接、関わる法律が含まれていることだ。

 企業は利益の最大化を優先する。もちろん合法活動が大前提だが、悪意なしにうっかりと違法行為を想定してしまうケースはある。例えば、ある企業が新規事業を立ち上げるとする。暫定的にまとめた計画で、製品の輸出先にある国を見込む。ところが、その国には輸出規制があった。違法と気づいて計画を修正しても、その前の計画段階で罪に問われる可能性がある。国境をまたぐ経済取引を管理する外為法も対象となっているためだ。

 新商品の開発でも、計画段階ではさまざまな提案があり、その中には法的に問題のある提案が含まれることもある。法的適否を問わずに、自由な発想から新たな創造は生まれるものだが、これも計画段階で罪になりかねない。

 そもそも、ビジネスの現場で合法、違法の線引きは難しい。投資におけるインサイダー取引にしても、定義は曖昧だ。違法となる関係者とはどこまでなのか、株価に影響する重要情報とはどのレベルまでなのか、それぞれ個別に検討が必要だし、専門家によっても見解は異なる。

 「どの企業も節税はやっているが、脱税との線引きは難しい。海外進出するとして、税制面や管理方法を巡って現地法人をつくるかどうかといった、活発な議論もできなくなる」

 「共謀罪」法の怖さは、運用に、ほとんど歯止めがないことだ。「準備行為」なしには処罰はないとされるが、何が「準備行為」に該当するか不明確。場合によっては、脱税が疑われる税務申告の原案を作成しただけで準備行為とされかねない。

 政府は「通常の経済活動は対象にならない」と説明してきたが、「一般人」を対象外とする説明同様、拡大解釈の懸念はぬぐえていない。

 「いつ、誰が虎の尾を踏むか、分からない怖さがある。当局の気に入らない企業がターゲットになりかねない」

 そうなると、微妙なグレーゾーンに抵触しそうな提案を排除していくのが企業心理だ。「法的に不適切な行為を、何げなく口に出せば罪につながりかねない法が施行されれば、健全な経済活動ができるはずがない。自由な経済活動が萎縮する」と武井さんは懸念する。

◆政治資金規正法、職権乱用…

 税務の現場からも懸念の声が相次いでいる。

 共謀罪法案に反対する意見書を出すべく準備していたのは、国の税理士らでつくる税制の研究団体「税経新人会全国協議会」(東京)。十五日朝に急転直下で成立した経緯に、副理事長の米沢達治税理士は「あまりに早くて驚いた」と絶句する。今後も、何らかの形で反対の意思を政府に伝えることを検討しているという。

 所得税法や法人税法などの違反も対象犯罪に含まれるが、米沢さんは「違法な脱税か法の範囲内の節税かは紙一重。節税の相談を受けることで、税理士が脱税計画の共謀相手ととられかねない」と危ぶむ。

 例えば、企業の役員報酬の解釈は判断が分かれやすい。いくらに設定するか明確な基準はなく、高く設定すれば「経費」が増え利益が減るため、利益にかかる法人税は減少する。節税なのか脱税なのか、これまでは申告後に国税庁などの税務調査を経て判断されてきたのが実情だ。役員報酬に限らず何を経費とみなすかの解釈は非常に難しい。

 税制研究団体「東京税財政研究センター」の副理事長で国税OBの小田川豊作税理士は「共謀罪が導入されれば、脱税捜査はがらりと変わるだろう」と指摘する。「税務署で勤務していた当時、会社をクビになった従業員が根拠もなく、勤務先の脱税をたれ込んでくることがあった。これまでなら、その企業の申告を受け、実際に不審な点がなければ捜査の対象にはならなかったが、計画段階を対象にする共謀罪では通報だけで踏み込むことができる。商売敵をつぶすために通報が悪用されることすら考えられる」と指摘する。加えて「所得税法も含まれているので、企業だけではなくほとんどの国民にとっても無関係ではない」と危ぶむ。

 しかし、これらのどこがテロ対策なのか。

 政府は対象犯罪を原案の六百七十六から二百七十七に絞ったと強調するが、その選び方は不可解だ。

 京都大の高山佳奈子教授(刑事法)は「そもそも原案は過失犯など、共謀できないものも含まれていて論理的に問題は多かった。でも二百七十七にした線引きもおかしい」と指摘する。

 共謀罪導入の理由として、政府は国際組織犯罪防止条約を締結するのが「立法事実」(法を必要とする根拠)と繰り返してきた。だが、この条約はマフィアの資金洗浄など経済犯罪を取り締まるのが目的だ。本来、テロは関係ない。

 高山さんは「条約はマフィア対策として、公権力の腐敗も取り締まり対象にしている。でも、今回成立した法は、公権力の私物化を防ぐような政治資金規正法の犯罪や特別公務員職権乱用罪などを除外している。会社法や金融商品取引法なども対象になっているが、不正に財産利益を得るような商業賄賂罪などは全部除外されている。条約締結のために本当に必要と言うなら賄賂罪が入っていないとおかしい」と説明する。

 税法についても、所得税法などは対象だが、大企業が主に関係する石油石炭税や航空機燃料税などは含まれていない。「個人の犯罪を対象にしておいて、組織的にしか行えないような犯罪を除外するのは筋が通らない」

 実際、野党側からは、条約の趣旨に沿って精査するなら、二百七十七もの犯罪を共謀罪の対象にするまでもなく、組織的人身売買とオレオレ詐欺のような組織的詐欺の予備罪を二つ加えればすむとの対案も出ていた。高山さんは「条約とは、全く別の考え方で作られたからこうなる。自分たちが対象になりたくない政治家が、恣意的に選別したとみられても仕方がない」と批判する。

 多くの疑問を残したまま共謀罪が作られた今、お互いに疑心暗鬼を生じる監視社会を危ぶむ声は高まる。前出の武井さんは訴える。「今、すぐに社会の変化を感じられなくとも、歴史を振り返れば、私たちが『まさか』と思うようなことを権力者はやってきた。それでも萎縮せずに行動し、声を上げ続けることが被害を最小化する。共謀罪の暴走を監視していくしかない」

 (鈴木伸幸、木村留美、中山洋子)
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