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話を広げ過ぎてピントの合っていない男性論

2017-07-18 08:55:01 | 読書ノート
フィリップ・ジンバルドー, ニキータ・クーロン『男子劣化社会:ネットに繋がりっぱなしで繋がれない』高月園子訳, 晶文社, 2017.

  男性論。著者のジンバルドーは、かの有名なスタンフォードの監獄実験の責任者で、『ルシファー・エフェクト』(海と月社, 2015)などを書いている心理学者である。今年で84歳となる。クーロンは彼の弟子となるライターで、ワレン・ファレルとも親交があるとのこと。女性であるが、男性論に興味があるみたい。原書には二つのタイトルがあり、UK版だとMan Disconnected: How technology has sabotaged what it means to be male (2015)、US版だとMan Interrupted: Why young men are struggling & what we can do about it (2016)となっている。正確には後者は前者を改訂したものらしい。なお、出版社のHPに、付録と参考文献をまとめらたpdfファイルがある1)

  その内容はネットポルノとネットゲームによって若い男性が駄目になっていると主張するものである。男性の脳は、女性のそれに比べてポルノやゲームにはまりやすい。インターネットの登場によって無料で(あるいは安価に)四六時中それらに浸ることができるようになった。そして、トレーニングを要する現実のコミュニケーションを面倒くさがった男性たちがネットに逃避するようになった。その結果、夫婦関係やカップル形成が阻害されるか、または破壊されるかし、また実家にひきこもった息子のために親子関係も危機に瀕している。こうした男たちの存在は社会の損失であり、彼らがシャバに出てくるよう、政府・地域・親・女性・男性自身が一丸となって対処しなければならない、と。

  このほか、先進国から多くの工場労働(=男性向けの仕事)が消えてしまったという経済の変化や、女性の社会進出などの社会の雰囲気の変化、福祉の害や崩壊家庭についも言及されている。残念ながらそうした視野の広さは、逆に本書を論点拡散気味のまとまらない本としてしまっている。通して読むと、悪とされているネットが原因なのか結果なのかがよくわからなくなる。また処方箋についても疑問だ。稼ぎの少ない・もてない男性にとって現実の世界はとても辛く厳しい(らしい)。ならば、心地のよいネットの世界から引きずり出されて、実世界で生きるトレーニングを受けなければならない理由はいったいなんだろうか。彼らにとってそうするメリットなど無いように見える。

  というわけで、何が問題なのかがよくわからない。実社会における「ゲーム」を降りた一部男性たちは、旧来の「男性」的性役割から解放された男たちということになるのではないだろうか。大人しく彼らをひきこもらせるゲームとポルノは、治安などの社会問題の解決策としてむしろ賞賛されるべきものだろう。結局、挙げられている問題とは、配偶者にふさわしい男性のプールが縮小しているという、女性側の嘆きにしか見えない。しかし、それは女性の境遇が以前よりも改善された帰結だ。なんか、成功した高齢男性と仕事のできる女性が、「君たちの味方だよ」と言いつつ若い男を棒で殴っているような印象だった。僕としては「ほっといてあげて」と言いたい。

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1) 晶文社 / 男子劣化社会 http://www.shobunsha.co.jp/?p=4348
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