29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

バランスの取れた論理的文章作成本。理系限定にしてはもったいない

2016-05-02 08:05:03 | 読書ノート
成清弘和『理系のための論理が伝わる文章術:実例で学ぶ読解・作成の手順』ブルーバックス, 講談社, 2016.

  論理的な文章の読み取り方、書き方を教える内容。「理系のための」と銘打っているが、これは木下是雄の名著『理科系の作文技術』(中央公論, 1981)の向うを張ったというぐらいのニュアンスだと考えたほうがよい。実のところ著者は歴史研究者であり、例文も社会科学系のものが多く、文系も含めた大学生一般向けの内容となっている。『理科系の作文技術』にあった冗長な部分を廃して、レポートや論文といった論理が求められる文書一般に使える表現法に焦点を絞ったところがウリだろう。

  最初の例文が小林秀雄で、続く説明でいきなりディスられる。本書も近年のビジネス文書作成術の本と同様、起承転結を嫌って結論を冒頭に提示する型の構成を勧める。加えてトピック・センテンスとパラグラフ・ライティングである。率直に言って新しいことが書いてあるという印象はないのだが、トピック間のバランスがとても良い点を評価したい。前半では、事実と意見の違いや接続詞などの読解の際の注意点を、後半では、修飾語の付け方から段落の並べ方までをポイントを挙げながら説明してくれる。特定のトピックの説明が粗いまたは細かいといったことがなく、一文における語の配列から文書全体の構成までこれ一冊で一通りチェックできるようになっている。

  大学の初年次教育で教科書として使いたくなる本である。おそらく近い将来そう使われるだろう。本書のまえがきにあるように、高校までの国語教育においては論理表現の作文術が採り入れられていない。このため、新入生にレポートの書き方を教えるのにどこの大学も苦労している。中高の国語教師が文学部出身者で、その文学部の教育が論理志向でないということが原因なんだろうな。理系出身とは言わずとも、社会科学系学部出身者が国語教師に採用されれば事態がかなり改善されると考える学者もいる(稲葉振一郎とか)。文学部の教員としては何とかしたいところなのだが、実のところ論理的に書けないという文学部教員も実際いて、改善は見込めないかもしれない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 経済学以前というか単なる思... | トップ | ボサノバの歌姫晩年のスタン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事