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懐古趣味には聞こえない1980年代の真正サイケデリック・ロック

2016-04-25 17:43:47 | 音盤ノート
Prince & The Revolution "Around the World in a Day" Paisley Park, 1985.

  今年4月21日に亡くなったプリンスの追悼で。若い人のために記しておくと、プリンスは1980年代のMTV全盛期を象徴するポップスターだったが、日本では同じくMTVスターのマドンナやマイケル・ジャクソンほど人気が無かったかもしれない。変態的なイメージも売りもの(かつ普及の妨げ)になっていて、"Lovesexy"(1988)のジャケットを持ってレジに行くには勇気がいったものだ。けれども、黒人音楽の概念の枠を広げた革新的音楽家として、その評価は非常に高かったし、今も高い。

  ファンクと言うにはベース音が薄めで、英国のニューウェーブのバンドのようにシンセを用い、音階付きの打込みドラムでグルーヴを作るというのが彼の基本的なスタイル。1980年に流行したドラムサウンドと言えば、「ドカッ」という、ゲイト・リバーブによる派手で強烈な打撃音だった。一方、プリンスの場合、リンドラムを使ったリムショット風連打のループや「パクッ」という音を多用するのが特徴で、とても奇矯かつ軟弱な印象だった。普通なら軽薄に聴こえるから使わないだろうって音をわざわざ選択してしつこく繰り返すので、最初はなんだか笑えたのだけれども、それに聴きなれてしまい自然になってしまう。実際、当時このドラムサウンドはよく模倣された。

  本作はそのドラムサウンドの上物として60年代風サイケデリックロックをのせるという試みである。直接の参照先は、1980年代前半のロサンジェルスにおけるポストパンク・ムーブメント「ペイズリー・アンダーグラウンド」── The Three O'ClockやThe Banglesなどを輩出したフォークロック・リバイバル──で、レコードレーベル名や曲名で'Paisley'が連呼されているところからそれが分かる。しかし、一応1960年代なメロディの味付けがあるけれども、シンセサイザーと特徴的なドラムサウンドのおかげで、1960年代との連続性はあまり感じない。1980年代に数多存在したサイケデリックロック懐古の白人ロックグループとは全然異なる、当時最先端のプリンスらしい音になっている。

  個人的には熱心なファンではなかったが、洋楽聞き始めの小学生の頃に耳にしたミュージシャンとして印象深い。一応"Graffiti Bridge"(1991)あたりまでは聴いたが、彼を聴いたことのない人に薦められるのは全盛期のアルバム"Purple Rain"(1984)、本作、"Parade"(1986)の三作である。"Purple Rain"は入門編として代表曲の数々を、"Parade"はスカスカのようでありながら音密度の濃い密室的なスタジオワークを楽しめる。著作権管理が厳しようでYoutubeでオリジナル音源を聞けないようだが、人類の遺産として音源を買って聴いても損はしないと思う。
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