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協力行動をもたらすものとしての「虚構」

2017-01-03 19:07:06 | 読書ノート
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』柴田裕之訳, 河出書房, 2016.

  人類史。イスラエル人歴史学者による2014年のベストセラーSapiens: A brief history of humankind (Harper)の邦訳。歴史の本ではあるが、王朝の交代や個別の戦争などの細かい話はない。現生人類の認知能力が他の動物──ネアンデルタール人も含む──とどう異なっていて、その能力をどう使ってきたかを跡付ける内容である。

  著者が強調する現生人類特有の能力は、宗教や民族、法制度、貨幣(の背後にある信用)といった目の前には存在しない「虚構」を信じることができることだという。昔ながらのマルクス主義者ならば「そういう上部構造の批判がかつてあったな」と思い出すところだろう。が、マルクス主義者にとっては抑圧と疎外のシステムだった「虚構」の数々が、人類の協力行動を可能にしたのだと著者はその価値を反転させてみる。そうした虚構が、顔も知らない相手に対する同朋意識を育ませ、地球上の生物のみならず動員力の劣る他の文化までを征服することを可能にしたというのだ。

  後半では、より効率的な帝国の支配を可能にする点で、宗教よりも科学を優位におく。無知の自覚こそが征服の原動力となったという。加えて、世界は「統一」に向かっているという。弱い文化は滅びてきた。こういった点からわかるように、本書はあまり文化相対主義的ではないのが特徴で、近年ではかなり珍しいかもしれない。ダンバー数や農業革命による栄養摂取量の低下など、言及されているトピック自体はそれほど目新しくはない。しかし、それらをパーツとして大きな歴史に取り込んでゆく手つきは見事である。

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