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ボサノバの歌姫晩年のスタンダード集。なぜか日本企画盤

2016-05-04 22:04:52 | 音盤ノート
Nara Leao "Garota de Ipanema" Philips, 1985.

  ボサノバ。邦題を『イパネマの娘』とする日本企画盤。1985年の来日時の東京録音で、盟友Roberto MenescalとCamerata Cariocaの打楽器奏者のほか、日本人のリズム隊三名が参加している。選曲はボサノバスタンダードばかりで、曲名を挙げると'O Barquinho','Garota De Ipanema','Berimbau','Desafinado','Wave','Corcovado','Aguas De Marco','A Felicidade','Manha De Carnaval','Chega De Saudade','Meditation','One Note Samba','Agua De Beber','Voce E Eu','Samba Do Aviao','O Que Sera'となる。最後の曲だけ比較的新しくてChico Buarqueの1976年の曲。

  ナラ・レオンのボサノバ集と言えば"Dez Anos Depois"(邦題『美しきボサノヴァのミューズ』Philips, 1971)が代表的である。ただ、あれは亡命者が故郷を思いながら内省するという、張りつめた空気のある重い作品で、気軽に聞き流せるようなものではない。一方本作は、旅先の日本人に請われたので、短時間で知っているレパートリーを演奏しましたというやっつけ仕事である。リラックスしているのが明らかだし、なにより声が優しい("Dez Anos Depois"よりトーンが高い)。傑作という感じではないし、仕事用のBGMに使ってしまいたくなるような押しの弱い作品なのだが、暖かみのあるボーカルが静かに心に沁み込んでくる作品である。

  彼女はこの後も日本企画盤を二枚録音し、1989年に47歳の若さで脳腫瘍のため亡くなってしまう。晩年は注文に応じて作品を仕上げる職人音楽家になってしまったが、若い頃は反体制派だった人である。本作の変哲の無い穏やかさも、彼女のキャリアを知ればとても愛おしいものに聴こえる。肯定的に捉えたい、日本のバブルの遺産である。
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