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倫理感からくる躊躇を回避すべく情動を制御された兵士の物語

2017-02-08 11:42:27 | 映像ノート
映画『虐殺器官』村瀬修功監督, 東宝, 2017.

  アニメ。SFアクション。ただし暴力シーン満載のためR15+指定となっている。原作は伊藤計劃による2007年の同タイトルのSF小説。映画は場面によって少々設定の変更があるものの、基本的なストーリーは原作を踏襲している。伊藤計劃作品としては『ハーモニー』『屍者の帝国』もアニメ映画化されているが、いずれも僕は観ていない。

  アニメ映画にはあまりくわしくないのだが、凝った作画に思弁的な会話が続くという点で、押井守系統の演出であると感じた。ただし会話の中身はかなり重要で、これが理解できないと登場人物の行動がよくわからなくなる可能性もある。「かつて先進国ではテロが盛んだったが今はなくなった──一方で後進国ではジェノサイドが頻発している」という設定を頭に入れておくのは最低限。原作を読んでから見に行ったほうがいいと思う。そうすると、主人公の歩みとともに謎解きをする醍醐味が失われてしまうというデメリットもあるのだが。

  原作では、主人公の夢に母親を登場させることで、主人公に内面や人間性があることを示唆していた。映画ではこうした部分はカットされていて、医療技術の力によって情動を抑えられた主人公は、戦闘局面を冷静に分析しながら、たとえ兵士が子どもであっても躊躇なく殺すことができるという、完全な殺人マシーンであるかのように描かれている。だが、主人公の人間性を示す描写は、映画でも採り入れたほうが良かったように思える。最終的にヒロインに寄せる感情のため主人公の行動が任務から逸脱してしまう。この感情を説明する伏線となる情報が無かったからである。まあ微妙なところではあり、無くても違和感はないと言われればそうかもしれない。

  原作は超のつく傑作だが、映画はそこまでいかず「出来のよい作品」の部類だろう。謎解きのストーリーもよくできているし、ドンパチを眺めているだけでも盛り上がる。しかしながら、作品全体のメッセージは重くて暗澹たる気にさせるもので、スッキリ気持ちのよい映画というわけではない。家族向けでもカップル向けでもないので、個人的には久々に一人で映画を観ることになった。こういう経験は久々だったな。
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