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ユダヤ民族主義を装うも音はアンビエントで心地よい

2016-07-13 07:52:25 | 音盤ノート
New Zion Trio "Fight Against Babylon" Veal, 2011.

  ジャズ。'Zion'をわざわざトリオ名で名乗り、バビロン捕囚に対抗するこのアルバム名。内ジャケットにはダビデの星。リーダーのJamie SaftはJohn Zorn組。これらの情報からは、ユダヤ人アイデンティティ全開のMasadaなクレズマー・ジャズが展開されるのだろうと予想させられる。だが実際に聴いてみると、レゲエを採り入れた美麗なピアノトリオで、まったく殺気立っていない。日本ではそこそこヒットしたみたいで、2013年に二枚組デラックス盤CDがCAPOTEなる国内のレーベルから発行されている。そのボーナスディスクには未発表曲やライブ、リミックスが収録されている。オリジナルの一枚もので十分だと思うが、品切れのようだ。

  メンバーはピアノとエレピを弾くジェイミー・サフトに、ドラムにCraig Santiago、ベースにLarry Grenadierという布陣。ドラマーについてはよく知らない(彼がプロデュースし、ジャケットのイラストも描いている)。リズム隊は基本ゆったりとした反復パターンを守るだけのお仕事で、ラリー・グレナディアのような一流を配する必要があったのかどうか疑問だ。ただし、レゲエ(というかダブだが)をジャズ的に消化する試みはかなり上手くいっており、ダブ特有の催眠的な感覚が演奏からしっかり感じ取れる。ピアノは単線的にメロディを辿るのではなく、心地の良い和音をゆっくり重ねて空間を作るような演奏をする。特にエレピを使ったtrack 5 'Hear I Jah'はとてもドリーミーな仕上がりで、Pharoah Sandersの'Astral Traveling'を想起させる名曲だ。

  レゲエを採り入れた、そこそこ著名なミュージシャンによるジャズ・アルバムというのはあまり思い浮かばない。Art Ensemble of Chicagoが"Nice Guys"(ECM, 1978)で、Jack Dejohnette's Special Editionが何かのアルバムでレゲエを演っていた記憶があるが、いずれも収録中の一曲で散発的な試みだった。相性の悪いこの二つのジャンルを違和感を感じさせない程度に昇華してみせた本作は、なかなかエポックメイキングな作品であると思う。

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