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実験の設計は本当に見事

2011-07-25 08:33:28 | 読書ノート
ダン・アリエリー『不合理だからすべてがうまくいく:行動経済学で「人を動かす」』櫻井祐子訳, 早川書房, 2010.

  行動経済学の一般向け書籍。著者としては『予想通りに不合理』(参考)に続く二作目。今作では、その研究についてだけでなく、イスラエル生まれの著者の過去にも立ち入った言及がある。若かりし頃、軍役で全身の大やけどをし、数年にわたる治療をすることになってかなりの苦労をしたそうだ。その経験が、その後の視点や動機に結びついているという。

  全体は雑多なトピックの集合である。報酬が高すぎると認知能力が鈍って適切な判断ができなくなるという話に始まって、人間には自分で作ったものに対しては高い評価を与えるというバイアスがあること、大きな幸せまたは不幸にもいずれ慣れてしまって幸福感は以前とあまり変わらなくなること、その時の気分で決定したことがその後の参照点になって後々の意思決定にも影響を及ぼすこと、などのことが明らかにされている。

  こう要約してみるとそっけない印象だが、出色なのは著者の実験デザインである。例えば、報酬の高さによって仕事の成果がどれだけ変わるかについての実験。同じ課題を解かせて、賞金を平均賃金の半年分、二週間分、一日分とした場合の、それぞれ三つのグループを比較したい。これを米国でやるには資金的に困難である。だが、レートの低いインドの大学に外注してやってしまうのである。その他、実にクリエイティブな方法で、人間の隠れたバイアスを検証している。読むかぎりでは、おそらくサンプル数は小さく、信頼性の問題は残るだろう。けれども、この閃きの素晴らしさには感心せざるをえない。

  人間の不合理性あるいは行動経済学に興味がなくても、「仮説を立てて実験する」という研究活動の面白さを伝えている。
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