歌舞伎芝居日記

10年の歌舞伎芝居を振り返るタイムスリップ日記。

Y076 澤村宗十郎(紀伊国屋)

2010-09-24 00:09:07 | 日記
一番狂言「慙紅葉汗顔見勢 弾正妹八汐」
最期の狂言となった「蘭蝶」桜川蘭蝶実は翅蝶三郎・蘭蝶女房お宮を観たものは誰もが忘れられないだろう。この狂言の持つ雰囲気、20世紀と言う時代、そして宗十郎と言う稀代の役者が消え去ろうとする瞬間を目にしたからである。宗十郎の痛々しさ、しかし決して力むことなく、どこかふわふわと超然とした演技で歌舞伎座の舞台から去っていった。思い出される役々の中でまずは表題の役。二代目鴈治郎を彷彿とさせる濃厚な八汐。今、八汐にはまる役者が仁左衛門しか見当たらない。しかも仁左衛門には無い濃厚さを持っていただけに生きていたならと思う限りである。「盲長屋梅加賀鳶」女按摩お兼も同様であった。すでに自らの会で悪婆物にも取り組んでいただけに、十二分な出来。これも現在の歌舞伎界に適任がいないだけにもったいなかった。さらに「本朝廿四孝」腰元濡衣も雀右衛門と相対して決して劣ることなく、色を感じさせる役になっていた。この役も適任が見当たらないのである。考えると現在の歌舞伎界に適任の無い役の多くが宗十郎に期待できた役なのだ。それらの役々を早々に持っていってしまうとは。誰に任せれば良いのか。
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Y075 坂東吉弥(大和屋)

2010-09-23 01:05:58 | 日記
一番狂言「三人吉三巴白浪 八百屋久兵衛」
今も普通に舞台で見ている様な錯覚さえ覚える。あの声が耳に残っている。それほど急に逝ってしまった。亡くなった後に見たシネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」辻番人與惣兵衛、一生懸命に動く姿が懐かしく悲しく思い出された。過日の再演でも同様であった。そして表題の役、前にも言ったがあれだけ大事にわかりやすく科白を話せる役者が他にいただろうか。だからこそ「三人吉三巴白浪」の入り込んだ関係が上手く解きほぐされていくのである。老役としても数々の貴重な役で重要な地位を占めつつあった。「義経千本桜」鮓屋弥左衛門 の気骨さ、「梶原平三誉石切」青貝師六郎太夫の暖かさ、「桂川連理柵」弟儀兵衛の憎たらしいほどの意地の悪さ、そして「封印切」丹波屋八右衛門の少しひねた苦み走ったボンボン。どれもが坂東吉弥その人でないと表現できない個性を持っていた。そしてわかりやすかった。しかしただ単純と言う意味のわかりやすさではなく、人物を丁寧に作り込んだ上でのわかりやすさであった。若手が大いに見本にすべき演技術であろう。それにしてもこれからの人であった。美声にさえ聞こえたあの悪声が、今も耳に残る。
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Y074 嵐徳三郎(葉村屋)

2010-09-22 08:51:20 | 日記
一番狂言「十六夜清心 白蓮女房お藤」
忘れられない役者である。見た役の中で選ぶとなれば表題の役の存在感に尽きるだろ。正直黙阿弥狂言の感触とは違うのだが、引いて余りあるぼってりとした大きさであった。ここまで厚みのある役者も珍しいかもしれない。そして何度も書いたが「封印切」井筒屋おえんのVTRだ。とにかく色を商売とする人間の色気と冷酷さ。それを包み込む器。人生の苦い部分を知ってるおえんであった。秀太郎、竹三郎ももちろん良いのだが、それとはまた違う雰囲気がある。何度も言うがこのあたりの感覚は当代上村吉弥がきっちりと受け継いでほしい。最後に「本朝廿四孝・筍掘り」母越路で当てた様に、生きていれば時代物の老けが一手独占になったかもしれない。来月秀太郎がやる「盛綱陣屋」母微妙など絶対見てみたかった。大きさと格で圧巻だったろう。あと「近松心中物語」で魅せた丹波屋八右衛門など「封印切」でも見たかった。きっと面白い敵役になったはずであろう。返す返すも残念である、徳三郎は政岡、戸無瀬、玉手御前が出来た。上村吉弥には特に望むが、真ん中をはれるだけの力を付けた上で、最高の脇役になって欲しい。それが必要なのだ。
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歌舞伎閑話休題12

2010-09-21 00:19:47 | 日記
そう言えば書いていなかったので書いておきたいのが三越劇場花形新派公演「滝の白糸」である。春猿が白糸を演じるのが大変面白い。春猿は歌舞伎でも特殊な雰囲気を持っている役者であり、鏡花作品などで個性を発揮しているだけに新派狂言にさぞや合うだろうと感じることが出来る。元々新派にも女形の芸があったが、英太郎を最後に途絶えようとしている。その命脈を歌舞伎を通じて残すことは大事かもしれない。ただし勘三郎が女形で出演した時は、決しい悪くは無かったのだが正直新派が飲み込まれてしまった印象を受けた。もう少し共存できる形で歌舞伎の女形芸と交わることは重要ではないか。それにしても猿弥の南京の寅が楽しみで仕方が無い。絶対に良いに決まっていると想像が付く。あと新派若手の井上恭太、瀬戸摩純、川上彌生、皆とても新派の雰囲気が出てきているので是非とも楽しみにご覧頂きたい。
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Y073 市村羽左衛門(橘屋)

2010-09-20 22:14:23 | 日記
一番狂言「賀の祝 白太夫」
今考えるともっと見る機会があったのだが、価値が理解しきれていなかった気がしている。例えば表題の役など典型的だろう。確かに義太夫味の薄い人であることは間違いと思うが、それでも今現在の役者と比較すると段階が違う印象がある。そして年功を重ねてきた役者だけが得ることができる滋味など比類の無いものであった。だからこそ今、賀の祝など中々観る気持ちが起きないのである。おそらく今で言えば段四郎になるのだろうが、それ以降ちょっと思いつかないのが現実である。同じ様な意味であるが、出てきただけでピタリとはまっていたのが、「与話情浮名横櫛」和泉屋多左衛門など大店の雰囲気がスッと出る人である。これとは別に晩年には線の太い役も意図的におそらく見本を見せるという意味合いで魅せていた。よくやっている役では「菊畑」吉岡鬼一法眼、「本朝廿四孝」長尾謙信は大きさ、風格、特に堅い雰囲気が富十郎とはまた違う味わいである。また意外なところでは「伽羅先代萩」荒獅子男之助が面白かった。決して声の通りは良くなかったが、形が決まる所は流石である。やはり羽左衛門の晩年でも見られたことは誇りとすべき記憶である。
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