「思想」のめばえ
丁稚奉公に入った蟠桃の毎日はつらかった。甘える親もない。
暗いうちから店の拭き掃除や道路の水まき、たばこ盆の片づけをし、台所から声がかかれば使いに走らねばならない。
店の仕事が終わると、夕方からは手習いと算盤の修業が待っていた。
だが、主人の平右門は驚いた。播州の田舎からやってきた子どもが、いい年をしたまわりの手代よりよく字を知っているし、算盤も群を抜いてできた。
『論語』を空で言えた。
55歳の平右衛門は早くに嫡男を亡くし、いま次女しか、残っていなかった。
いずれ、婿養子をと考えているのだが、升屋をしっかりと支えていくためには、できのいい番頭の存在がかせない。
そこで平右衛門は、新しく丁稚に入ったばかりの蟠桃に目をつけた。
平右衛門は、新入りの丁稚を懐徳堂(かいとくどう)で学ばせることにした。
蟠桃の運は、ここから開けていった。(no3415)
*『蟠桃の夢(木村剛久著)』(トランスビュー)より
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