言葉の散歩 【歌舞伎・能・クラシック等を巡って】

日本の伝統芸能や音楽を中心に、感じたことを書かせていただきます。

 辿り着いたところに   ・・・ 小鼓の会

2017年10月12日 | 歌舞伎・能など
澄んだ空気、秋の雲、金木犀の香りを運ぶ風。
10月になり、すっかり秋らしくなりました。
4日は、雲の切れ間に、皓々たる仲秋の名月を楽しまれた方も多かったのではないかと思います。
9月末、そんな季節にぴったりの謡を聞くことができました。
小鼓を習っている先輩二人が出演する発表会でのことです。

この日の発表会は、能舞台ではなく、新橋の料亭の広間で行われました。


   


畳の上に椅子が並べられ、腰かけて鑑賞できました。
中央に発表会の主役の小鼓、向かって右側に、謡の能楽師の方が一名もしくは二名座ります。
鼓をなさる方は、謡も稽古していることが多く、その方の習っている流儀の能楽師の方が謡を勤めます。



   


先輩は、一人は「野宮(ののみや)」、もう一人は「山姥(やまうば)」を、無事立派に打たれました。

その他にも何番か聞かせていただいた中、お若い女性もいらっしゃいました。
合戦の場にあっても風流の心を忘れない源氏の武将・梶原源太景季(かじわらのげんたかげすえ)を主人公とした「箙(えびら)」の一部、裂帛の掛け声と力強い鼓に、謡にも力が入って、能の世界を楽しませていただきました。

謡の言葉を楽しんだのは、「小督(こごう)」です。
高倉天皇に寵愛された美しい女性の名前が題名になっていますが、源仲国(みなもとのなかくに)という武士が主役の能です。

平清盛により宮中から追放された小督局(こごうのつぼね)を、天皇の命で探しに行くというストーリー。
片折戸(かたおりど。片開きの戸)があり、琴の音が聞こえる家。
手掛かりはこの二つです。

 嵯峨野の方(かた)の秋の空
 さこそ心も澄み渡る
 片折戸をしるべにて
 明月に鞭をあげて
 駒を早め急がん

(この嵯峨野の辺りに来てみると、秋の空が美しい。その景色のように心も澄み渡るようだ。片折戸を道しるべとして、美しい月の下、鞭を当てて馬を急がせ、早く探そう。)

 もしやと思ひ
 ここかしこに駒を駆け寄せかけよせて
 控へ控へ聞けども
 琴弾く人はなかりけり
 月にやあくがれ出で給ふと
 法輪に参れば
 琴こそ聞え来にけれ
 峯の嵐か松風か
 それかあらぬか尋ぬる人の琴の音か
 楽は何ぞと聞きたれば
 夫を想ひて恋ふる名の想夫恋(そうぶれん)なるぞ嬉しき

(もしかしてここかと思い、あちらこちらに馬を駆け寄せては止まって聞いても、琴を弾く人はいない。美しい月に誘われて、お出かけになったかと法輪寺に参ってみると、なんと琴の音が聞こえてきた。吹き下ろしてくる強い風か、松を鳴らす風か、それとも探していた方の琴の音か。何の曲かと聞いてみると、夫のことを想い慕うという名の曲「想夫恋」であることが大変嬉しい。)

現代語にすると、何だか味気なくなってしまいますが、この謡を聞き、くっきりと白く輝く月の下、一人の武士が、天皇の思われ人を尋ねあるき、そしてようやく聞こえてくる琴の音。
なにか絵巻物のように、秋の夜の情景が浮かんできました。
そうさせてくれる鼓と謡だったのだと思います。


家に帰り、「小督」の謡本をめくっていましたら、はらりと小さい紙が落ちました。
見ると、かつて能楽堂でこのお能を観た時のチラシです。

昭和59年10月14日、33年前の宝生会月並能。

 「小督」當山孝道
 「葛城」佐野萌
 「殺生石」近藤乾之助

とあります。
惜しくも亡くなられた佐野萌さん、近藤乾之助さんのお名前に、懐かしさでいっぱいになりました。
そしてこの時に観た「小督」の記憶も、一層蘇りました。


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