「エトピリカ」を手にしてから、約一ヶ月経過してやっと読破した。(勿論、時々に)
三十一の章に分けて記載してあるが、各作品とエトピリカの関連も薄く、章の名も特に関連はない。従って、歌は一首で完結するのが原則(連作、題詠は別として)、であるから、巻頭から読みながら氣になる作品を順に評していくつもり。
*まひるまのひかりひとすじ連翹をくぐりて金の蜂となりたり
晩春の昼間、連翹の花の間を飛び回る黄金色の蜂、蜂となったのは作者。
*羽音のみじいんと聞こえ蜂見えず連翹われのししむらのなか
実は連翹が作者であった。蜂の黄金色まで取り込んで、さぞや光り輝く花々であることよ。
*朝のミルクこつくり白し晩春の身は奔放に在りてしづけし
晩春の気だるい朝の気持ち、逸る身をどうしようもなく持て余している心境がほのかなエロチシズムを漂わせ魅力的な一首ではないか。
*戦死者かもしれぬ誰かの憂鬱がかぶさりてくるバター塗る手に
*バターナイフ、バターに曇りいくらかは軽んじられて戦後派の夏
恐らく作者在米中の作。まがうなき戦後派の作者だが、普段、sれは意識にはない。はからずも米国でのメモリアル・デイの華やかなお祭り騒ぎを体験して、この歌々が作られたのであろう。
*蝶ふたつ日蔭にしづみ のちしばし腋下(えきか)のごとし夏草原は
こういう歌に私は弱い。作者独特のエロチシズムにしばし酔おう。
*みづならを大みづならを仰ぎつつじりじりとわが脚が根になる
大木のもと、微動だにせず佇立している作者。まるで根が生えたように・・。
どんな感慨に耽つているのか、所詮他者には解からない。ただその雰囲気はおのづから伝わって来る。
*母であることは途中でやめられず毎朝五時に弁当作る
*中一の直子このごろやさしくて藤色の英和中辞典もつ
真面目な、真剣に子育てに精進する姿が垣間みえ、作者の一面を如実に歌ってさわやか。
*すべるがに加速するときハイウエイをうぃーんうぃーんと夜が流れる
オノマトベが良く効いている。車が走るのではなく夜が流れるのが有効。
*ハイウエイの左右に街は見えながら時間はつねに真後ろへ過ぐ
ここでも静止している街を置いて、時間がぐんぐん後ろ(過去)へと走り去ると
詠む心境。一入の感慨を覚える。
*パセリ食む口ざわざわと嵐して諾ひがたし壮年の死を
嵐する とは思いがけぬ表現。でもこの一言で歌が平凡な哀歌を、見事な挽歌にした才能。脱帽。
*生きて四十三度目の夏 いちにんの友の死を呑むくちなはわれは
自身を蛇とした意図、いろいろ考えたが上手く理解出来ない、これは読者の責任か作者のそれか、解からない。
*茎ながき野蒜の空の広すぎて夏の帽子をもうかぶらうか
野蒜の一本立ちの向こうに青空が、夏の灼熱を伴って広がってきた。鍔広の夏帽子がそろそろ欲しい頃。
*わだつみのやうにからだはゆれながら泡盛を呑む苦瓜を食む
沖縄旅行詠。どうやら上戸の作者とお見受けした。
*泣き顔の美しからぬ齢(よはひ)きてサボテンに夏のひかり込み合ふ
*中年ばかりで遊ぶ青葉の大公園ああうれしくてブランコに乗る
作者も齢四十を越えそろそろ容貌の衰へが氣になってきたのかも。
しかし毅然として作者は思う。
*汗拭ふハンカチをたたみなほしつつ決(け)して女は疲れてはならず
と、覚悟を決める。
*もの言はぬわが眼のなかのどしやぶりを君は見るなり眼を見る君は
眼のなかのどしゃぶり は謂いえて妙。見方はいろいろあろうが・・。
*夕立にたちまち濡れて喉元へあふれくるなりわたしの海が
一首から立ち上る得もいわれぬアトモスフエアに、一瞬眩暈しそう。海が喉元へ溢れ来るとは。しかも 私の海がである。
*地下鉄の出口に近くむかし海であつたにほひの向かひ風吹く
築地あたりのメトロの出口か。確かにあのあたりは海の香が漂っている。
*燃えながら透きとほる火の女ありもみぢの踵(かかと)土を踏む見ゆ
象徴的な一首。ただ燃えながら透き通る火の女がどうしても想像出来ない。読者の無力はそのままにして詠むのも悪くはないが、少し淋しい。
*後ろには時間、前には空間あり 一分間の信号待ちす
信号待ちのひととき、うまい捕捉である。瞬時、後ろの時間に繰り込まれる一分間、なんと懐かしい一分間であることよ。
八月十二日 以下記入
*萩の花タフタのやうに冷たくて膝に触れふくらはぎにも触れる
タフタとは光沢ある薄い琥珀織の絹布で、西欧では婦人の衣服の素地。その冷たさが果たして萩の花と同様かは主観の問題、このまま素直に受け取ろう。
*空中歩行あらば真冬の木のやうに鳴るだらうかぜのなかの人体
珍しく下の句に句跨りが見られ、すこし調子が狂うが意見の分かれる所。わたしはこれで良いと思う。
*大根足であること気にもせずなりてこのごろうまく大根を煮る
いえいえ御謙遜でしょう。かつてお見受けした御み足、決して大根足などではなく、結構魅力的でしたよ。
*そらみつヤマトシジミは宍道湖の水より来たりきゆるきゆると鳴く
そらみつヤマト・・の古い枕詞と、きゅるきゅる の擬音語の新しさの対比に惹かれた。
*能古島(のこのしま)へわたる釣船まれに見えつばらつばらに冬波は照る
此処でも つばらつばら なる万葉語を殊更に使用してある。音の響きが気に入ったのかな(多分)。つばらつばら は、まんべんなくの意。
*裸木が空へ突ツ立つ冬の日は風もひかりもましぐらに来る
突っ立つ裸木が風を受け、冬の陽光がまるで驀進するかのごとく作者に向かってくると感じたのかも。殺風景な冬の日のさまが突っ立つ裸木に象徴され、具体が他にないが、言わんとする所はよく理解できる。
*白梅(はくばい)にはじめの白き花が咲き白一輪の天に谺す
白い花が咲いた音が天にこだまするほど大きく感じたということか、ちょっと理解に苦しむが、一首としては奇麗に纏まっている。これも才能でしょう。
*三月の雨降る夜の水に濡れこんにゃくも生身わが手も生身
一読非常にわかり易い歌。なにかあるのかと一所懸命考えたがそれなりに理解するしかないと思った。私の浅見か。
*こんにゃくはなにゆゑかものを思はしむたとへば見えぬたましひのこと
ここに種明かしがあった。この二首を併読すれば作者がこんにゃくを見ながら魂(なんの?誰の?)へ思いを遣っていると解かった。なまなましく濡れて艶めくこんにゃくと、それを掴もうとしているわが手とを。
八月十五日 以下記入
*家その他もたねば無事に日が暮れてげえらげえらと蟇蛙鳴く
オノマトベが此処でも巧み。家その他を持つと何故無事に日が暮れないのか、ちょっと説明不足か。でも蟇蛙に免じて眼を瞑ろう。
*雪、春の都市の夜空をうるほして黒鳥一羽づつねむる窓
当然、単なる叙景歌ではない。雪と黒鳥の対比が見事。その暗示するものも考えさせられる。
*朝焼けのまだ濁らざるくれなゐを眼の力とし今日を働く
なにかある決意のようなものが窺える。今日も としたいところが 今日を と、この助詞一つで歌がしっかり締まった。
*出刃包丁しづめるごとく淡水のひえびえとして鯉の桶あり
鯉の運命を思うと不気味。作者は鯉が捌けるのだろうか。
*夕風が鰭ふるやうに路地を抜け金魚を飼つてしまふ夏来る
毎年夏が来ると金魚を飼う習慣らしい。ただ、一年こっきりで死なせてしまうのは管理に問題ありそう。
*卵黄のかがやき出でて七月はひかりも黄金(きん)の肉体を持つ
黄金の体を七月は持っているという感覚、解かる気がする。
−−また折を見て続けます。とりあえず一時休憩ーー
三十一の章に分けて記載してあるが、各作品とエトピリカの関連も薄く、章の名も特に関連はない。従って、歌は一首で完結するのが原則(連作、題詠は別として)、であるから、巻頭から読みながら氣になる作品を順に評していくつもり。
*まひるまのひかりひとすじ連翹をくぐりて金の蜂となりたり
晩春の昼間、連翹の花の間を飛び回る黄金色の蜂、蜂となったのは作者。
*羽音のみじいんと聞こえ蜂見えず連翹われのししむらのなか
実は連翹が作者であった。蜂の黄金色まで取り込んで、さぞや光り輝く花々であることよ。
*朝のミルクこつくり白し晩春の身は奔放に在りてしづけし
晩春の気だるい朝の気持ち、逸る身をどうしようもなく持て余している心境がほのかなエロチシズムを漂わせ魅力的な一首ではないか。
*戦死者かもしれぬ誰かの憂鬱がかぶさりてくるバター塗る手に
*バターナイフ、バターに曇りいくらかは軽んじられて戦後派の夏
恐らく作者在米中の作。まがうなき戦後派の作者だが、普段、sれは意識にはない。はからずも米国でのメモリアル・デイの華やかなお祭り騒ぎを体験して、この歌々が作られたのであろう。
*蝶ふたつ日蔭にしづみ のちしばし腋下(えきか)のごとし夏草原は
こういう歌に私は弱い。作者独特のエロチシズムにしばし酔おう。
*みづならを大みづならを仰ぎつつじりじりとわが脚が根になる
大木のもと、微動だにせず佇立している作者。まるで根が生えたように・・。
どんな感慨に耽つているのか、所詮他者には解からない。ただその雰囲気はおのづから伝わって来る。
*母であることは途中でやめられず毎朝五時に弁当作る
*中一の直子このごろやさしくて藤色の英和中辞典もつ
真面目な、真剣に子育てに精進する姿が垣間みえ、作者の一面を如実に歌ってさわやか。
*すべるがに加速するときハイウエイをうぃーんうぃーんと夜が流れる
オノマトベが良く効いている。車が走るのではなく夜が流れるのが有効。
*ハイウエイの左右に街は見えながら時間はつねに真後ろへ過ぐ
ここでも静止している街を置いて、時間がぐんぐん後ろ(過去)へと走り去ると
詠む心境。一入の感慨を覚える。
*パセリ食む口ざわざわと嵐して諾ひがたし壮年の死を
嵐する とは思いがけぬ表現。でもこの一言で歌が平凡な哀歌を、見事な挽歌にした才能。脱帽。
*生きて四十三度目の夏 いちにんの友の死を呑むくちなはわれは
自身を蛇とした意図、いろいろ考えたが上手く理解出来ない、これは読者の責任か作者のそれか、解からない。
*茎ながき野蒜の空の広すぎて夏の帽子をもうかぶらうか
野蒜の一本立ちの向こうに青空が、夏の灼熱を伴って広がってきた。鍔広の夏帽子がそろそろ欲しい頃。
*わだつみのやうにからだはゆれながら泡盛を呑む苦瓜を食む
沖縄旅行詠。どうやら上戸の作者とお見受けした。
*泣き顔の美しからぬ齢(よはひ)きてサボテンに夏のひかり込み合ふ
*中年ばかりで遊ぶ青葉の大公園ああうれしくてブランコに乗る
作者も齢四十を越えそろそろ容貌の衰へが氣になってきたのかも。
しかし毅然として作者は思う。
*汗拭ふハンカチをたたみなほしつつ決(け)して女は疲れてはならず
と、覚悟を決める。
*もの言はぬわが眼のなかのどしやぶりを君は見るなり眼を見る君は
眼のなかのどしゃぶり は謂いえて妙。見方はいろいろあろうが・・。
*夕立にたちまち濡れて喉元へあふれくるなりわたしの海が
一首から立ち上る得もいわれぬアトモスフエアに、一瞬眩暈しそう。海が喉元へ溢れ来るとは。しかも 私の海がである。
*地下鉄の出口に近くむかし海であつたにほひの向かひ風吹く
築地あたりのメトロの出口か。確かにあのあたりは海の香が漂っている。
*燃えながら透きとほる火の女ありもみぢの踵(かかと)土を踏む見ゆ
象徴的な一首。ただ燃えながら透き通る火の女がどうしても想像出来ない。読者の無力はそのままにして詠むのも悪くはないが、少し淋しい。
*後ろには時間、前には空間あり 一分間の信号待ちす
信号待ちのひととき、うまい捕捉である。瞬時、後ろの時間に繰り込まれる一分間、なんと懐かしい一分間であることよ。
八月十二日 以下記入
*萩の花タフタのやうに冷たくて膝に触れふくらはぎにも触れる
タフタとは光沢ある薄い琥珀織の絹布で、西欧では婦人の衣服の素地。その冷たさが果たして萩の花と同様かは主観の問題、このまま素直に受け取ろう。
*空中歩行あらば真冬の木のやうに鳴るだらうかぜのなかの人体
珍しく下の句に句跨りが見られ、すこし調子が狂うが意見の分かれる所。わたしはこれで良いと思う。
*大根足であること気にもせずなりてこのごろうまく大根を煮る
いえいえ御謙遜でしょう。かつてお見受けした御み足、決して大根足などではなく、結構魅力的でしたよ。
*そらみつヤマトシジミは宍道湖の水より来たりきゆるきゆると鳴く
そらみつヤマト・・の古い枕詞と、きゅるきゅる の擬音語の新しさの対比に惹かれた。
*能古島(のこのしま)へわたる釣船まれに見えつばらつばらに冬波は照る
此処でも つばらつばら なる万葉語を殊更に使用してある。音の響きが気に入ったのかな(多分)。つばらつばら は、まんべんなくの意。
*裸木が空へ突ツ立つ冬の日は風もひかりもましぐらに来る
突っ立つ裸木が風を受け、冬の陽光がまるで驀進するかのごとく作者に向かってくると感じたのかも。殺風景な冬の日のさまが突っ立つ裸木に象徴され、具体が他にないが、言わんとする所はよく理解できる。
*白梅(はくばい)にはじめの白き花が咲き白一輪の天に谺す
白い花が咲いた音が天にこだまするほど大きく感じたということか、ちょっと理解に苦しむが、一首としては奇麗に纏まっている。これも才能でしょう。
*三月の雨降る夜の水に濡れこんにゃくも生身わが手も生身
一読非常にわかり易い歌。なにかあるのかと一所懸命考えたがそれなりに理解するしかないと思った。私の浅見か。
*こんにゃくはなにゆゑかものを思はしむたとへば見えぬたましひのこと
ここに種明かしがあった。この二首を併読すれば作者がこんにゃくを見ながら魂(なんの?誰の?)へ思いを遣っていると解かった。なまなましく濡れて艶めくこんにゃくと、それを掴もうとしているわが手とを。
八月十五日 以下記入
*家その他もたねば無事に日が暮れてげえらげえらと蟇蛙鳴く
オノマトベが此処でも巧み。家その他を持つと何故無事に日が暮れないのか、ちょっと説明不足か。でも蟇蛙に免じて眼を瞑ろう。
*雪、春の都市の夜空をうるほして黒鳥一羽づつねむる窓
当然、単なる叙景歌ではない。雪と黒鳥の対比が見事。その暗示するものも考えさせられる。
*朝焼けのまだ濁らざるくれなゐを眼の力とし今日を働く
なにかある決意のようなものが窺える。今日も としたいところが 今日を と、この助詞一つで歌がしっかり締まった。
*出刃包丁しづめるごとく淡水のひえびえとして鯉の桶あり
鯉の運命を思うと不気味。作者は鯉が捌けるのだろうか。
*夕風が鰭ふるやうに路地を抜け金魚を飼つてしまふ夏来る
毎年夏が来ると金魚を飼う習慣らしい。ただ、一年こっきりで死なせてしまうのは管理に問題ありそう。
*卵黄のかがやき出でて七月はひかりも黄金(きん)の肉体を持つ
黄金の体を七月は持っているという感覚、解かる気がする。
−−また折を見て続けます。とりあえず一時休憩ーー
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