神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

滝本北谷上流部(2回目)

2010年06月01日 | 滝・渓谷



滝本北谷には、どうしても見ておきたい滝が一つあった。
初めて訪れて部屋滝まで行ったときにも、それが心残りで前回の上流部探索に繋がったのだが、それも雨のために行けずじまい。
というわけで、前回から約一ヵ月後、また上流部から滝本北谷を下ることにした。
今回は、夜に地蔵茶屋に到着して車中泊し、朝一番から谷に入った。



林道付近はほぼ植林されているし、もともと南紀は常緑樹の多いところであるから、そんなに風景は変わっていないだろうと思っていたのに、谷に降りてみて一ヶ月前との違いに驚く。
朝の色合いと相俟って、緑が滴るようだ。







前回と重なる部分は撮影も簡単に済ませようと思っていたのに、なかなか歩みは進まない。
前回より水量も多く、歩きにくくもある。



やっと急流の場所まで来る。
緑の中に白い帯が鮮やかだ。
前日の雨で岩が濡れており、二度目の今回の方が怖い思いをしながら下る。





比丘尼滝も緑が深くなって、より潤いある姿になっていた。



前回は何も感じず通り過ぎた場所に、今回はとても惹かれたりもする。
ここは殺風景に思えたのに、今は山の気に満ちている。



岩に生えた木も、逞しく緑を芽吹いて谷を彩る。



ここは、本来手前の岩の部分がナメ滝で、向こうに見えている水溜りが滝壺だったと思われる場所だ。
今は流路が変わって、流れはずっと左の方を流れている。
ちょっと庭園のような趣のあるところだ。



ゴーロ帯手前の河原だ。
もう緑いっぱいで嬉しくなってくる。



ここで朝日が顔を出し、谷間にも日の光が届きだす。



苔生した木の根元を流れが洗う。



その木の苔の中に、ヒメレンゲが咲いている。
本来、沢沿いの岩の上に多い植物で、周辺にも沢山咲いていたが、一株だけこんなところで芽吹いてしまい寂しそうでもある。



さて、ここから前回引き返したゴーロ帯になる。
見た目には特に難しそうにも思えないけれど、とにかく手間がかかる。
風景的にもつまらなくなるし、予想外に時間も食う。



やっとのことでゴーロ帯を抜けると、流れは岩床の上を迸るようになり、爽快な沢歩きとなる。
ただ、直射光が降り注ぎだし、コントラストが強くなって撮影にはツライ条件だ。











この辺りは、滝本北谷を遡行する人が「素晴らしい」と絶賛するところで、まるでコンクリートの水路のような岩の上を水が流れる。
当然コンクリートのような味気ないものとは違い、自然の造形の妙にただただ感心するばかりだ。



岩ばかりではあっても、それを苔が覆い、更にそれをヒメレンゲの花と、ツツジやフジの花びらが彩り、そして木漏れ日も降り注ぐ。



これはシャクナゲの花だ。
シャクナゲは比較的高い山に多いと思われがちだが、南紀では低地にも多く見られる。









本当は曇り空で撮りたいと思っていたけれど、コントラストの強いこんな風景も悪くないかな、と思えてきた。
何より、水の中をザブザブと行くので、太陽の光がとても心地いい。



やがて亀壷の滝。
ここは正面から光を浴びて、滝が真っ白状態。
まともに写真が撮れる状況ではなかったが、手前の木のシルエットが、白いスクリーンに描かれた影絵のようだ。



高速シャッターで写し止めると、まるで洗剤の泡のよう。



滝の名前の由来は、この深い滝壺なのだろう。
深さ6mほどあるのだとか。

この亀壷の滝のすぐ下流で、更に大きな滝が落ちている。
左岸をぐるりと回りこむように下っていくのだが、この二つの滝が連なる険しい場所のすぐ横に、驚くほど穏やかな地形が広がっている。
恐らく、遥か昔はここが流路だったのだと思う。
その穏やかな場所で小休止していると、二人組の遡行者に出会う。
大学生くらいのカップルで、本格的な沢登りの出で立ちだ。
尤も、ここではそれが当然で、リュックは担いでいるものの普段着姿の私に彼等は驚く。
挨拶と沢の状況、今後のルートなどを話して別れる。
とても爽やかで気持ちの良いカップルだ。

そして、私が一番見たかった滝が全容を現す。


先ほどのカップルの姿が滝上に見えるので、滝の大きさがよく判るのではないかと思う。
その向こうには亀壷の滝が見えている。
というか、つい先ほど私も通った場所だけれど、傍から見ているとえらく危険で恐ろしく感じる。









ものすごく均整のとれた姿でありながら、それでいて単純でなく、表情は多彩だ。
ここは一般的には屏風滝と呼ばれている。
しかし、とある書籍や現地の立札では溜ノ湾殿滝とされており、ここの下流にある滝を屏風滝としている。
ネット上ではここを屏風滝とする意見が優勢で、その根拠がこの形なのだが、一瞬、なるほどと思うものの、いや、これは屏風ではないだろう、とも思う。
本来、屏風とは折り畳める間仕切りで、その形状から各地にある屏風岩と称される場所は殆どが柱状節理である筈だ。然るにこの滝は、屏風ではなく「壁」である。
とはいえ、溜ノ湾殿滝という名称も意味不明で、納得のいく答えなど出せないのだが。



しかしまあ、それはともかく予想以上に美しい滝だったので、名前のことは気にせず見入ることにする。
滝の水勢は凄まじく、数十メートル離れていても水飛沫が飛んでくる。



まるで天然の砂防ダムのようだ。









高速とスローを織り交ぜながら、光と影と水の表情の変化を楽しんで撮る。





全体像も高速とスローで。





谷間を流れる水煙が、虹色の帯になった。







どんな表情も美しかったが、この日の水量、光線加減を考えると、やはり高速シャッターの方が向いているかも知れない。
ダイナミックで迫力ある姿を見せてくれた。

私は今まで100以上の滝を見てきたけれど、ここは最も好きな滝の一つになった。
優美でありながらも豪快、繊細でありながらも明快、そんな、あらゆる要素を併せ持っている。



滝のすぐ下流の流れ。






穏やかな流れは僅かな距離で、また険しい道を下って次の滝の前へ。
先ほども少し触れたが、ここは立札では屏風滝となっている。
一般的にはケヤキ原の滝とされているが、この滝の左右高みにある岩壁は柱状節理ではある。
滝本北谷の盟主とも言われているが、正直、私は先ほどの滝で完全に満足してしまい、この滝はついでになってしまった。
もう少し離れた位置から見た方が美しいのだろうけど、もはや体力も気力も限界に近く、僅かでも余分に動きたくないといった感じで、この滝の良さは写せなかった。

以前に下流から遡行した時の部屋滝までは、まだ少し距離があるが、当初からここまでの予定をしており、やや中途半端ではあるが引き返すことにする。
帰りは相当ツライ道のりで、足を引きずるようにして地蔵茶屋まで戻る。



地蔵茶屋から麓へ降りる途中にある那智高原公園の駐車場に立ち寄る。
ここはよく車中泊をする場所で、いつも美しい夕日と星空を見せてくれる場所でもある。
今回は雲が広がってしまったが、それでも夕焼け空が広がってくれた。
一眠りして、満天の星空を見てから家路へと就く。


撮影日時 100522


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18 コメント

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Unknown (幽黙)
2010-06-01 17:00:54
今度はちゃんとした人が
写っていて安心しました(笑)

というのは別にして
これまでもhiro1jzさんの
水の画像には
恐れ入るばかりだったのですが
今回の画像は
どれもこれも
hiro1jzさんが
水と一緒になって
時に跳ね踊り
時に緩やかに滑り
時に深く溜まり
そんな心象をも写し込んだようで
こちらもその躍動と静謐に
身を委ねるような感覚になりました

どれがお気に入り
というわけではないですが
心動かされたショットとしては
比丘尼滝の次からヒメレンゲまでの
全カット
亀壷の滝のふたつ前の
中央が瑪瑙のような深みを持つ流れのカット
亀壷の洗剤の泡のカット

屏風滝のカットはどれも素晴らしいのですが
その次の滝の滝口のカットが息をのみます

爆やんさんの滝サイトでは
途中のご指摘のように
溜ノ湾殿滝とされているようですね
屏風滝がその下の滝とのことのようで…

この川凄過ぎます
Unknown (幽黙)
2010-06-01 17:51:20
溜ノ湾殿滝

人によって
溜湾殿滝
とか
溜湾どの滝
とか
書かれていて
ちんぷんかんぷんでしたが
溜(たまり)
湾処(わんど)
という二つの淵を示す
地形用語の並び
ということはないですかね?(^ ^;←素人考え
Unknown (hiro1jz)
2010-06-01 17:57:56
そんなふうに言っていただけると、少し照れくさいですが、
おっしゃるように、私の気持ちとしては、
水と一緒になって
時に跳ね踊り
時に緩やかに滑り
時に深く溜まり
という表現そのままでした。
無心になって、水と戯れて
その自然のままの風景を
撮らせてもらった、という感じです。

屏風滝は滝そのものは素晴らしいですし、
テント泊でもしない限り朝の表情も見られないので
もっと他の表情もあるのでしょうが、
比丘尼滝からゴーロ帯までの間が、
この谷で最も安らいだ気分になれるところでもあり、
私自身、その区間で撮った写真は
いちばん落ち着いていい表情が撮れたかな、と思っています。
瑪瑙のような深みを持つ場所は、
谷のあちこちにありまして、もっと撮りたかったのですが、
なかなかあの色合いを出す光に出逢えず、意外と難しかったです。
洗剤の泡は、ちょっと面白い表情ですよね。
最後の滝は、他のサイトを見ると、もっといい構図がいっぱいあって、
やっぱり後悔が大きいです。

この谷に行くにあたっては、10以上のサイトに目を通しましたが、
瀑やんさんのサイトは特に参考にさせてもらいました。
ここを見ると、ちょっと水量が少なすぎるようですが、
やっぱり曇りで撮りたかったなぁ、と思ってしまいます。

紀伊半島の谷は変化に富んでスケールも大きいので、
ハマってしまうと他の地方の谷が疎かになってしまいがちで・・・。
Unknown (hiro1jz)
2010-06-01 18:06:28
それに近いことを私も思ってました!
溜まりはもちろんですが、
淀川にあるワンドをまず連想し、
ワンドの語源をみてみると、はっきりしないものの
川の淀みや淵などをワンドと呼ぶ地方があるとのことなので、
おっしゃるように淵をさす地形用語が二つ並んだもの、
と考えていいような気がします。
が、現地の地形を見てみますと、
果たして的確かどうかは微妙で・・・。
Unknown (Jun)
2010-06-01 22:03:24
感想を一言で書きます。

この滝好きです。
Unknown (hiro1jz)
2010-06-02 08:18:25
この滝、いいですよね。
Junさんにも気に入ってもらえて幸いです。
気軽に、ぜひ行ってみてください、
と言えないのが残念です。
Unknown (くまったろう)
2010-06-02 21:02:32
流れはけっこう速いんですか?

緩急の差が伝わってきますね。

これからの暑い季節、
自然の涼しさが嬉しいです。
Unknown (hiro1jz)
2010-06-03 06:55:01
滑るように流れる場所が多いですが、
静と動が入り乱れていて、まさに緩急の差が大きい、
といった感じです。

いちおう神社メインのブログのはずなんですが、
私も涼を求めて渓谷ばかり目がいってしまいます・・・。
あああ (era)
2010-06-03 22:55:30
凄いですぅ。どの写真も凄い。水が生き物みたい
だ~。
体調悪いので後日きますぅ。
ラストの夕焼けが沁みるぅ~。
はじめまして。 (mousike)
2010-06-04 14:48:16
最近こちらをちょくちょく拝見しております。

写真から、清清しさや温度、空気の匂いまで感じられるようで小さな旅をしたような気分にさせてもらっています。ありがとうございます。

これからも楽しみにしています。

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