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「熱い思い」を貫く至誠 ~深田熱処理工業(株)・深田社長を訪ねて~

2014年09月08日 | 経営に学ぶ

「熱い」会社があります。その名も「深田熱処理工業株式会社」。金属熱処理加工技術に携わって50年、その高い技術を評価され、まさに「熱処理技術で世界を支える」企業なのです。さらに最近では、前回訪問した(株)高林製作所が中心となって進めている航空機部品の一貫共同生産へも、パートナーとして参加。新しい事業分野への挑戦も積極的に進めています。今回は、その深田熱処理工業(株)を訪問、「熱い思い」を静かに語深田健社長にお話を伺いました。

 


さて、さまざまな工業部品に使われている「」。実際には金属元素である鉄(Fe)以外にも炭素やそのほかいろいろな成分を含んでいて、正しくは「鉄鋼」として分類されている合金です。「鋼(はがね)」とも呼ばれるように、古くは刃物に使用するために鍛え上げた鉄(刃金)という意味で「鍛鉄」とも呼ばれました。



        「号:大保昌」(重要文化財)。東京国立博物館
        出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

 

さて、ここで深田熱処理工業(株)のホームページを開いてみましょう。そこには次のような『熱処理まめ知識』が載っています。

(鉄鋼)はその多くが機械加工や熱処理などが施され、大きさや形、強度など様々な性質をもった機械部品として、私たちの生活のあらゆる部分で役立っています。『鋼(はがね)』と呼ぶと強そうですが、ただそれだけでは硬くも強くもありません。 硬くしたり強くしたり、必要な性質にする為には、焼入れなどに代表される・・・“熱処理”を行なわなくてはいけません。
「熱処理」とは、鋼を赤めたり(=加熱し)冷やしたり(=冷却する)する熱の操作のことで、鋼の性質を様々に変化させる技術です。『金属熱処理』と呼ばれています。

このホームページには、このほかにもいろんな楽しい『まめ知識』が掲載されています。ぜひ一度ご覧下さい。
http://www.fukada-net.co.jp/blog/tips

 
          深田熱処理工業(株)のホームページから


さて、訪問した当日も深田健社長は来客への対応中。そんなお忙しい中でもお時間を作ってくださった社長は、他の経営者の方々から「健さん」「健ちゃん」と親しみを込めて呼ばれているように、シリアスな映画俳優的風貌でありながら、とても気さくな方です。

 
           映画俳優のような風貌の「健さん」です

 

深田社長は、同社の専門である「熱処理加工」について、「熱処理加工はさまざまな事業分野で必要。そのため、当社はそれぞれの業種で必要な品質管理の認証を持っています」と、同社の技術水準の高さを話してくださいました。それでも、航空機分野は最もハードルが高いそうです。

 

前回の(株)高林製作所高林健一社長へのインタビュー記事にも書きましたが、深田熱処理工業(株)は、現在、(株)高林製作所、浅下鍍金(株)と力を合わせ、航空機部品の一貫共同生産に取り組んでいます。

 

この一連の工程の中で、同社はその高い技術を生かした「熱処理加工」を担当しているのですが、「最もハードルが高い」という航空機分野に乗り出していくに当たっては、かなりの決意が必要だったことでしょう。この点について、深田社長は次のように語っておられます。

平成19(2007)年にリーマンショックがあり、当社も大きく業績が落ち込みました。そんな時、20年来のお付き合いをいただいている高林社長から、航空機分野への参入について声をかけていただいたのです。


高林社長は北陸鉄工協同組合の前理事長でもあり、鉄工業界の発展に長年ご尽力されてきた方です。深田社長も、そのご縁とご恩の深さに感謝しておられました。


             人の「縁」の大切さを語る深田社長


そんなご縁を大切にする深田社長が、「自分のモノづくりの原点がある」と言っておられるのは、九州・佐賀県唐津市にそのルーツを持つ(株)唐津鐵工所。明治42(1909)年の創業以来、100年を超える歴史と伝統を持つ工作機械メーカーです。

唐津鐵工所のホームページ
http://www.karats.co.jp/


深田社長は若いころ、同社との取引を熱望し、足掛け3年唐津まで通われたとのこと。まさに「熱い男」健さんですが、当時の社長は竹尾彦己氏(故人)。唐津鐵工所の創業者・竹内明太郎(吉田茂元首相の兄)は、(株)小松製作所の創業者としても知られています。そのご縁もあって、竹尾社長は遠いところから若者がはるばる訪ねてくれたことを喜んでくれたそうです。

そして、その竹尾彦己社長が大切にされていたという言葉が「至誠」でした。同社の応接室には、竹尾社長の縁戚にあたるという鈴木貫太郎元首相の「至誠」という書がかかっていたそうです。


この「至誠一貫」という言葉は、「真心をもって何事にも立ち向かう」、あるいは「最後まで誠意を貫き通す」といった意味ですが、太平洋戦争の惨禍から日本を終戦に導いた鈴木貫太郎元首相が愛し、またたびたび揮ごうした言葉でもあります。その精神は縁戚の竹尾社長にも伝えられ、また竹尾社長の人格に感銘を受けた深田社長にも受け継がれているのです。

 
           深田熱処理工業(株)のホームページより
 

      深田社長の座右の銘は「至誠一貫」


こうした「熱い思い」を至誠の精神で貫き、航空機分野という極めて高いハードルを持った事業分野に挑んでいる深田社長。当然、参入にあたっては迷いもあったそうですが、その高いハードルを越えることで競合他社に比べて圧倒的なアドバンテージを得ることができ、また信用・信頼性も格段に高まると、強い決意を語ってくださいました。

 
  高いハードルだからこそ、アドバンテージになると語る深田社長


          Nadcap(特殊工程管理の国際規格)認定証

 
     応接室には、他にもさまざまな特殊技術の認定証が・・・


 

さて、インタビューに続いては、深田社長ご自身が工場を案内してくださいました。今回ご案内いただいたのは、航空宇宙産業部品専用の熱処理ラインとして稼働している「真空炉」という設備で、真空状態で製品を加熱し焼入れを行うというシステムです。これからの、同社の発展を担う中心設備になるかもしれませんね。

 
                 「真空炉」と深田社長
 

         航空宇宙産業部品専用の熱処理ラインです
 


     実際の加工品(同社のホームページから)


ところで、ここで作業していたのは四十万(しじま)さんという女性。なんと、世界水準の熱処理加工を支えている担当者が、一見ごく普通の穏やかな女性に見える(失礼!)この四十万さんなのです。こうした点でも、日本のモノづくりを支えている中小企業で働く皆さんの、技術の高さを感じますね。


         深田社長(左)とオペレーターの四十万さん(右)


そして、世界水準にある同社の品質管理を支えているのが、管理統括部長の嶋田さんです。前回お訪ねした(株)高林製作所では、高林専務と豊岡部長のお二人が高林社長を支える両腕でした。同じように、今回お訪ねした深田熱処理工業(株)でも、嶋田部長が深田社長の右腕として、同社の徹底した品質管理を支えておられるのです。

 
     品質管理のプロフェッショナル・嶋田管理統括部長(右)


さて、高いハードルは超えるのも大変ですが、いったん超えた後もそれらの維持やレベルアップのために、より一層の努力を必要とします。その点でも、同社ではトレーサビリティーを従来よりも格段に強化したそうです。


※「トレーサビリティー」
製品の製造履歴、技術データの採取履歴をたどる(追跡調査する)ことができること。製造履歴、データ採取履歴には、どの測定器を使ったかが記入されています。


それについては、先日もNadcap(特殊工程管理の国際規格)の監査があったそうですが、来日した監査委員が、「日本のモノづくりはNo1。製品をより良くしていこうという姿勢が素晴らしい!」と高く評価してくれたとのこと。日本のモノづくりを支える中小企業の皆さんにとっては、本当にうれしいお話ですね。


こうして、深田社長への「熱いインタビュー」は無事終了。この日、深田社長がおっしゃったお言葉が心に残っています。それは、「航空機事業は、次の世代のために、石川県の地場産業として根付かせていかなければならない」という強い思いが込められたお言葉。自社の利益だけを追い求めるのではなく、私たちの子供たちの世代にまで心を砕いてモノづくりを考える・・・深田社長の「至誠一貫」の熱い思いに、大きな感動をいただいた訪問でした。


 

最後になりましたが、今回の取材にご協力いただいた深田社長。そして社員の皆さん。本当にありがとうございました。大空にはばたく皆さんの夢を、心から応援しています。


            深田社長、ありがとうございました!

 

エピローグ

後日、深田社長から力強い筆跡のお手紙をいただきました。深田社長は「礼状は手書きを大切にしいる」そうです。ご自身がこれまで出した礼状も、写しを取ってあるそうですが、ご縁のあった方から頂いたお手紙も、すべて丁寧に整理して保存されていました。こうした細かいお心づかいにも、深田社長の「至誠一貫」が感じられますね。


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