WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

シティー・エレガンス

2007年01月16日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 115●

Micheal Franks     Burchfield Nines

Watercolors0002_2  マイケル・フランクスは、ずっと昔から好きでしたね。だから、CDもけっこうな枚数をもっているのだけれど、どれが一番好きかといわれると困ります。長い間、フォローし続けているアーティストの作品には、それぞれに「想い」という過剰で困ったものがまとわりついてしまうわけです。

 けれど、この1978年作品、『シティー・エレガンス』は、間違いなく最も好きなものの1つに入る作品ですね。軽い孤独感と温かい優しさが好きです。何というか、癒されるのですね。そこにはAORとか、ソフト・アンド・メローとかいう、当時流行したカテゴリーには収まらない何ものかがあるような気がするわけです。

 それにしても今振り返ると、『シティー・エレガンス』という日本タイトルはいただけませんね。なぜ、そのまま『バーチフィールド・ナインズ』にしなかったのでしょうかね。今考えると、その方がずっと良かったのにね。AORの推進者マイケル・フランクスをお洒落な都会派ということで売り出そうとする意図が、あまりにみえみえになってしまいました。『シティー・エレガンス』という言葉は、作品の文脈になんら関係なく、お洒落で都会的な雰囲気を演出する以外に何ら意味を持っていないのですから。残念ながら、今となっては、恥ずかしささえ感じてしまう程です。 

 長い年月の風雪に耐えうることばとは、なかなかに難しいものです。

 最近読んだ村上春樹訳・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』の「訳者あとがき」の中で、村上氏は翻訳という行為について次のように語っています。

 「賞味期限のない文学作品は数多くあるが、賞味期限のない翻訳というのはまず存在しない。翻訳というのはつまるところ言語技術の問題であり、技術は細部から古びていくものだからだ。不朽の名作というものはあっても、不朽の名訳というものは原理的に存在しない。どのような翻訳も時代の推移とともに、辞書が古びていくのと同じように、程度の差こそあれ古びていくものである。」

 示唆的な言葉ですね。 

 『バーチフィールド・ナインズ』とは、アメリカの画家チャールズ・バーチフィールド(1893-1967)の描いた絵からきています。