WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

デュクレテのズート

2006年12月17日 | 今日の一枚(Y-Z)

●今日の一枚 102●

"Zoot" Sims

Watercolors_2  ズート・シムズがフランスのレーベル「デュクレテ・トムソン」からだした1956年録音盤。ズートの最高傑作のひとつに間違いなく入るといわれる作品だ。

 ズートのテナーは、いつものことながら、歌心に溢れ、よどむことなくながれる。温かい音色はわれわれをリラックスさせてくれ、安心して聴くことができる。私はズートが好きで、実際結構多くの作品を所有している。けれども、なぜだが、気が狂ったようにハマッタことがない。トレーンやペッパーやゲッツのように、本当に寝食を忘れてのめり込んだことがないのだ。

 ジャズに造詣が深く、自らもジャズ喫茶を経営していたことのある作家、村上春樹さんは、ズートのこの作品を絶賛した後で次のように続ける。

《 しかしこのレコードを聴いていると、ズート・シムズという人は本当に良くも悪くも性格の良さが出てしまう人だなと思う。スタン・ゲッツみたいな、いったい腹の底で何を考えているんだかというような、ひやっとした不気味さはかけらもない。》《 これほどの才能のある人が結局最後までジャンル小説的予定調和の世界の中ですらっと完結してしまったのは、惜しいという気がしないでもない。》 (ビル・クロウ『さよならバードランド』新潮文庫の私的レコード・ガイド)

 ズートの音楽は、我々に安らぎを与えを安心させてくれるが、突然どこか知らない場所へ連れて行ってくれるようなものではないようだ。結局、我々は音楽の中に、音楽以外の過剰な何かを求めてしまうということだろうか。

 そうは思いながらも、私はこれからも、家族の寝静まった夜、ウイスキー・グラスを片手に、ズート・シムズの音楽をときどき取り出してみるに違いない。

[Zoot Sims に関する記事]

Soprano Sax

If I'm Lucky


今日の一枚リスト(1-100)

2006年12月17日 | 今日の一枚INDEX

「今日の一枚」が100までいったので、1-100のリストをつくってみました。クリックするとジャンプします。

<colgroup><col width="43" style="WIDTH: 32pt; mso-width-source: userset; mso-width-alt: 1376" /><col width="416" style="WIDTH: 312pt; mso-width-source: userset; mso-width-alt: 13312" /></colgroup>
1 Joao Gilberto     Joao voz e violao
2 Lee Jung Sik         In New York
3 Madeleine Peyroux      careless love
4 Gerry Mulligan       What Is There To Say ?
5 NEWYORK TRIO      LOVE YOU MADLY
6

ALBERT AYLER      
    NUTS DE LA FONDATION MAEGHT 1970

7 板橋文夫   一月三舟
8 BILL EVANS       QUINTESSENCE
9 Grady Tate    All Love Grady Tate Sings
10 ERIC GALE           TOUCH OF SILK
11 Stan Getz = Kenny Barron   People Time
12 MILES DAVIS        WORKIN'
13 Ferenc Snetberger   NOMAD
14 Keith Jarrett   The Melody At Night With You
15 Blossom Dearie   My Gentleman Friend
16 Blossom Dearie  Once Upon A Summertime
17 Jos Van Beest Trio     Because Of You
18 Stanley Turrentine     Sugar
19 John Coltrane       A Love Supreme
20 Big Brother & Holding company  Cheap Thrills
21 Pablo casals   A Concert At The White House
22 Richie Beirach Trio   Romantic Rhapsody
23 Cannonball Adderley  Cannonball 's Bossa Nova
24 Ike Quebec   Bossa Nova Soul Samba
25 Grant Green        Idle Moments
26 John coltrane      My Favorite Things
27 Bill Evans    You Must Believe In Spring
28 King Crimson    In The Court Of Crimson King
29 The Great Jazz Trio    At The Village Vanguard
30 Johnny Griffin     The Kerry Dancers
31 Sonny Criss     Go Man !
32 Bill Evans     Explorations
33 Holly Cole Trio     Yesterday & Today
34 Roland Kirk     Domino
35 Art Blakey' Jazz Messengers     Olympia concert

ドン・フリードマンのサークル・ワルツ

2006年12月17日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 101●

Don Friedman     Circle Waltz

Scan10012_4 かつて、スノビッシュなジャズファンの間で、「ブラインド」という遊びがあったらしい。あまり知られていないレコードをかけて、このピアノは誰、ベースは誰、テナーは誰というようにあてていくのだという。

 このアルバムで「ブラインド」遊びをしたら、結構多くの人がビル・エヴァンスと間違えるかも知れない。それぐらい、雰囲気がエヴァンスに似ている。結構、名手だと思うのだが、あまりにエヴァンスに似た雰囲気なので、専門家の間ではオリジナリティーがいまいちということになり、積極的な評価を受けてこなかったのではないか。

 わたしは好きである。エヴァンスに似ていようがいまいが、演奏がすばらしければどうでもよいのである。それによく聴くと、エヴァンスよりも音が伸びやかであり、明快だ。曲によっては、彼のほうがよくあう場合も多いのではないか。やはり、① Circle Waltz はリリカルな名曲・名演である。「いーぐる」の後藤雅洋さんは、この曲について「ドビュッシーを思わせるような絵画的描写」とわかるようなわからないような言い方をしているが、いい演奏であることにはかわりない。

 私としては、「ビル・エヴァンスの系列につならるピアニスト」で片付けて欲しくない。

(付記)なお、わが国で結構売れた近年の彼のいくつかの作品は、エヴァン系とは異なるオリジナリティーが強く打ち出されており、たいへん興味深い。


ブリジット・フォンテーヌのラジオのように

2006年12月17日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 100●

Brigitte Fontaine    

Comme a' la radio

Scan10014_2  今日(きのう)届いたCDである。フランスの前衛的シャンソン歌手ブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」。バックの演奏は何と、Art Ensemble Of Cicagoである。

 一曲目からリズムがチャンネルの左右を行ったり来たり、Art Ensemble Of Cicagoの独特のサウンドを背景に、フォンテーヌは歌ったり、語ったりだ。60年代フランス的前衛音楽とでもいおうか。日本における寺山修司的実験アートと近いものがある。寺山修司の映画はちょっと気持ち悪いが、フォンテーヌのこの作品はどこか気持ちよい。何か不思議な世界に連れて行かれて、見慣れないものを見せられ、ちょっと面食らった気分だが、どこか気持ちよく、興味深い音楽だ。

 どこか意味ありげな詩を、歌詞カードで追いながら、音楽を聴くのも久々のことだ。明日も聴こう。そして、今度はもう少しちゃんと、歌詞を読み込もう。

 Art Ensemble Of Cicagoは、これまで積極的に聴いたことはなかったが、俄然興味が出てきた。もう数枚購入してみようか。