

秋の夜や犬から貰つたり猫に与へたり
落ちたは柿か寝苦しい夜や
何やらきて水飲む音も秋ふかき夜や
春の夜やボタ山の夢を見た
釣瓶漏りの音断続す夜ぞ長き
未整理の簿書裡に没す夜ぞ長き
石に水を、春の夜にする
夜へ咳入る
夜もなく昼もなく地下室の人々
夜も働らく支那の子供よしぐれるな
夜もふけた松があつて蘭の花
歩いて東京へ行く夢も長い夜で
ぎやあとなけばほうとなくふくらうの夜で
冴えかえる夜でようほえる犬で
訪(おとな)へば君ありてしめやかな雨の夜となりし
風の日ねもす春孕む雨の夜となりぬ
ふるさとの夜となれば蛙の合唱
水音しだいにねむれない夜となり
雪かなしく一人の夜となりけり
燈油尽けば心食む夜と五月雨るゝ
似たる夜と妓の懺悔など明け易き
旅の或る夜はお彼岸団子のうまいこと
旅の或る夜はこんなにあつい湯にひたり
誰も来ない夜は遠く転轍の音も
(転轍=車両の向きを変える切り換え装置)
寝られない夜は狐なく
昼はみそさゞい、夜はふくらうの月が出た
ふるさとの夜は蛙の合唱
病む児いだけば夜はしんしんとして恋猫も鳴かず
雪の夜は酒はおだやかに身ぬちをめぐり
夜はしぼむ花いけてひとりぐらし
雨の音も春らしい夜を何か鳴きつづける
風の夜を来て餅くれて風の夜をまた
岐路に堕して激論も夜を長うせり
大地したしう夜を明かしたり波の音
月がまろい夜を逢うて別れた
みほとけのかげ私のかげの夜をまもる
夜をこめておちつけない葦の葉ずれの
夜をこめて落ちる葉は音たてゝ
夜をこめて水が流れる秋の宿
春の夜を落ちたる音の虫
春の夜を夜もすがら音させて虫
音たてて食べる夜が深い
去る音の夜がふかい
ふるさとの夜がふかいふるさとの夢
秋雨の夜がふける犬に話しかける
這うてきて殺された虫の夜がふける
をなごやは夜がまだ明けない葉柳並木
かなかな、かなかな、おまつりの夜があける
日が暮れて夜が明けてそして乞ひはじめる
仲がよくないぢいさんばあさん夜が長く
鳴くかよ山羊もひとりの夜が長いらしく
寝ても覚めても夜が長い瀬の音
ねむれない私とはいれない虫と夜がながいかな
ほんまに夜が長い風が吹く
夜がながい木かげ月かげゆれてばかり
夜が長い谷の瀬音のとほくもちかくも
鍋や茶碗や夜つぴて雨が洗つてくれた
放たれし蛍かや夜すがらともす
松虫鈴虫水の音夜もすがらたえず
あれこれとねむれない夜まはりのとほくちかく
叫ぶ男あり夜潮ゆらめくのみの暗さ
夜汽車の、山鳴りの、竹の葉のそよぎ
夜雨しみしみ熱い茶をすゝる
夜店の金魚すくはるゝときのかゞやき
稲妻する夜どほし温泉(ゆ)を掘つてゐる
しくしく腹のいたみに堪へて風の夜どおし
夜どほしで働らく声の冴えかえる空
夜どほし燃やす火の燃えてさかる音
(製鉄所遠望)
夜どほし浴泉(ゆ)があるのうせんかつら
月がまうへでまんまるい夜なべしまうてゐる
夜なべの音の月かげうつる
夜なべしまへば月がまうへでまんまるい
重いもの負うて夜道を戻つて来た
白うつづいてどこかに月のある夜みち
旅の夜空がはつきりといなびかりする
夜空濃くゆるがぬ青葉しづくしてけり
夜露しつとりねむつてゐた
夜露もしつとり春であります
朝寒夜寒物みななつかし
風鈴も朝寒夜寒のひとり鳴る