つれづれなるままに弁護士(ネクスト法律事務所)

それは、普段なかなか聞けない、弁護士の本音の独り言

民事弁護~沖縄編(第9回)~「悪魔の証明」(副題:もうすぐドラクエⅪ発売記念)

2017-04-24 13:58:08 | 弁護士のお仕事

「ないことの証明」は「悪魔の証明」だ。

安部首相が国会の答弁でよく口にしているとおり、「存在したこと」「言ったこと」「行動したこと」は証明できるけど、「存在しなかったこと」「言わなかったこと」「行動しなかったこと」は証明できない。

 

O氏は、

「平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室で、Kさんから『FX取引で絶対儲けさせる』等と言われた」

と主張している。

O氏が証明すべきは、

「平成17年5月25日午後2時に、KさんとO氏が東京のWTK社の会議室にいたこと

と、

「KさんがO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等と言ったこと

である。

 

その証拠は、

「(O氏がKさんからもらった)Kさんの名刺」

に加えて、

「前の裁判で『平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室でO氏と会った際、Kさんが同席していたこと』を認めたT社長の証言」

そして

「平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室で、KさんがO氏に対して『FX取引で絶対儲けさせる』等と言ったことを『真実』と認定した前の裁判の勝訴判決」

 

3つ合わせれば決定打に近い。

こっちは雑魚キャラ・スライムなのに、同時にベギラマとイオラとバギクロスの呪文を唱えられたようなもんだな(ドラクエを知らない方、わかりにくい比喩ですいません。適当に読み飛ばしてください。)。

 

スライム(Kさん)側としては、

「平成17年5月25日午後2時に、Kさんは東京のWTK社の会議室にはいなかったこと

か、

「KさんはO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等とは言っていないこと

を証明しなくちゃならない。

 

どちらも「悪魔の証明」だ。

 

でも。

「平成17年5月25日午後2時に、Kさんは東京のWTK社の会議室ではない別の場所にいたこと

なら証明可能じゃないか? それさえ証明できれば、

「平成17年5月25日午後2時に、東京のWTK社の会議室でO氏に『FX取引で絶対儲けさせる』等と言うことはKさんには不可能だった

ということになる(Kさんがルーラの呪文を唱えでもしない限り。)。

 

Kさんは8月3日に那覇空港で私と別れて以来ずっと、「3年前の平成17年5月25日午後2時に、自分が東京のWTK社の会議室以外の別の場所にいたこと」の証拠を探し続けている。

キアリーの呪文を唱えようとしているスライムみたいだ。

 

証拠(復活の呪文)探しをKさん一人に任せておくわけにはいかない。

藁(わら)にもすがる思いでシャナクと唱えてみることに・・・じゃなかった、JALとANAに連絡してみることにした。

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民事弁護~沖縄編(第8回)~「証拠はないか」

2017-04-17 11:56:58 | 弁護士のお仕事

第1回口頭弁論期日は答弁書だけ提出して欠席することにした。

第1回口頭弁論期日なら被告側は答弁書を事前に提出しておけば、期日に欠席しても答弁書に書いた内容を法廷で主張した扱いにしてもらえる(「擬制陳述」(ぎせいちんじゅつ)という。)。

ただでさえ経済的に余裕がないKさんに、東京・名古屋間の新幹線代を請求することすら心が痛む。

 

とはいえ、次の期日はすぐにやってくる。

 

O氏の主張を「そんなこと知らない!」と否認したり、「そうじゃなくて本当はこうだろ!」と反論するだけでは足りぬ。

Kさんの記憶が正しく、O氏が重要な部分について嘘を言っている、という決定的な証拠が欲しい。

 

(言うまでもなく)裁判官は神様じゃないから、「裁判」(判決)を通じて裁判官に認定されるのも「この世の真実」じゃない。

裁判で認定されるのは、「証拠から判断すると『真実らしい』と思われる事実」だけだ。

たとえ本当のことを説明しても、証拠がなければ「嘘だ」と切り捨てられるし、たとえ嘘八百を並べ立てても、それらしき「証拠」があれば「そのとおり」と認定されてしまう(こともある)。

世間の信頼を踏みにじるようで申し訳ないが、「裁判」なんて所詮、その程度の手続・制度だ。

 

もちろん、原告(あるいは被告)の矛盾した主張や行動の異常性から、「たしかに証拠はあるけど、それでもその主張は信じられない。」と判断してくれる理性的な裁判官もいるだろう。

「認定するのは『この世の真実』ではないけれど、少しでも『この世の真実』に近い認定をしたい。」という矜持(きょうじ)をもって裁判に取り組んでいる裁判官もきっといるはずだ(と信じなければ弁護士なんて仕事、やってられるか!)。

でも、Kさんの裁判を担当する裁判官が「矜持をもっているかどうか」は、それこそ証拠がない。

証拠に基づかない希望を僕らは博打(ばくち)と呼ぶ。

 

結局、俺には、O氏の主張の矛盾点やその行動の異常性を指摘することしかできないのか?

第2回期日までにKさんの主張を証明する証拠を手に入れられるか?

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民事弁護~沖縄編(第7回)~「徒手空拳」

2017-04-10 13:15:00 | 弁護士のお仕事

平成20年8月3日夜。

懐かしい国際通り脇の琉球居酒屋「黒うさぎ」でKさんに事情を(厳しく)訊く。

事務所の仕事に穴を空けるわけにはいかないので、明日の朝一便で東京に戻らなければならぬ。

 

Kさんの自宅を仮差押する2年前の平成18年、O氏はT社長に対して全く同じ内容で名古屋地方裁判所に訴訟を起こし、全面勝訴の判決をもらっている(控訴審の名古屋高等裁判所で確定。紛らわしいので、「前の裁判」ということにする。)。

つまり、今回の裁判でO氏が主張している事実は、前の裁判で名古屋地裁・名古屋高裁の裁判官(もちろん、今回の裁判を担当する裁判官とは別の裁判官だ。)に「真実」と認定された「事実」だ。

前の裁判で勝訴したものの、O氏は破産同然のT社長からはほとんどお金を回収できなかった。

そこで、前の裁判の勝訴判決を疎明資料(仮差押の申し立てを裁判官に認めてもらうための資料。証拠と違って、「いちおう確からしいね。」と裁判官に思ってもらえる程度の資料でいいことになっている。)として、今回、Kさんの那覇の自宅を仮差押してきた。

 

実際のところどうなんだ?

O氏に、「FX取引で絶対儲けさせる」と言ってしまったのか?

Kさん、お願いだから俺にだけは本当のことを話してくれ。

 

以下、Kさんの説明。

1)確かにO氏とは会ったことがある。その際、自分の名刺もお渡しした。ただ、それは東京のWTK社の会議室ではなく、平成17年12月にT社長が逮捕されたという報道に驚いたO氏が那覇のWWT社に押し掛けてきた時のことだったと思う。O氏とはその時、初めて会った。

2)東京のWTK社はWWT社の東京支社と同じビルの同じフロアーに入居していた。T社長はWWT社の東京支社の社長室でFX取引への出資者と面談していた。その場に自分が呼ばれたこともある。ただ、その時、誰に、何を話したかまでは正直覚えていない。

3)T社長が逮捕され、平岩先生に諭されるまでは、確かに自分自身も「T社長のFX取引の才能は凄い」と信じ込んでいた。

4)T社長にヘッドハンティングされる前は生命保険会社に長年勤めていた。だから、お客様を勧誘する際に「絶対に大丈夫」とか「必ず儲かる」などと言ってはいけないことは、常識として知っていた。

5)当時、那覇と東京を概(おおむ)ね1週間おきに行き来していた。家内は病弱だったし、娘も中学生で、一家で東京に引っ越すということも、家内と娘を那覇に残して自分だけが東京に単身赴任するということもできなかったから。

 

Kさんの記憶はこの程度。

しかもそれが真実であることを証明する証拠は何一つない。

Kさんの父上に大見得(おおみえ)切ったものの、現実は仲間やアイテムを探し出す前にいきなりラスボスに遭遇した主人公の気分だ。

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民事弁護~沖縄編(第6回)~「那覇に飛ぶ」

2017-04-03 12:00:00 | 弁護士のお仕事

平成20年8月3日。KNちゃんからメールをもらった翌々日。

那覇に飛ぶ。

自腹である。しかもトップシーズンの週末。

航空券代が痛いことこの上ない。

 

Kさんのご実家2階の和室(私も何度か泊めて頂いたことがある。)。Kさんご夫婦、Kさんのご両親の4人と話し合う。

テーブルの上にはKさんの奥さんとKさんのお母様が作ってくれた山盛りの琉球料理と泡盛。

島らっきょうと泡盛(古酒)が旨い。

 

「お父さんのお気持ちもよく分かります。

もしかしたら、本当にKさんはO氏を騙すようなことを言ってしまったのかもしれません。

でも私は、KNちゃんのKさんに対する気持ちを大切にしてあげたいです。

たとえ負け戦でも、裁判所に出頭もせず、言うべきことも言わずに事件に幕を下ろすのは卑怯だと思います。

K家の人間の中で、たった一人、まだ子どものKNちゃんだけが正しいことを言っているんじゃないでしょうか。

何一つ反論しないで、一方的にKさんが悪かったのだと裁判所に認定されてしまったら、お金や家以上に大切なものを失います。

KNちゃんのお父さんに対する信頼やKNちゃんのわれわれ大人に対する信頼、それにKNちゃんの世の中に対する信頼です。

Kさんが本当のところは何をしたのか、O氏に何を喋(しゃべ)ったのか、今の段階では私にも分かりません。

でも、

今回のことでKNちゃんが傷つかなければならない理由はどこにもない。

KNちゃんのために、裁判で闘(たたか)わせてもらえませんか?

それにKNちゃんと同様、私もKさんが人を騙(だま)すような人間とはどうしても思えないのです。」

 

Kさんが泣き、奥さんが泣き、Kさんのお母様が泣いた。

Kさんの父上はしばらく黙って考え込んでいた後で、こう言ってくれた。

「わかりました。先生、私が間違っていました。

KNのためにも、裁判で闘ってやってください。

先生にお支払する着手金は私がなんとかします。」

 

第1回口頭弁論期日が迫っていた。

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民事弁護~沖縄編(第5回)~「KNちゃんからのメール」

2017-03-27 12:00:00 | 弁護士のお仕事

Kさんから裁判断念の連絡が届いた翌日。

Kさんの娘のKNちゃんからメールが届いた。

タイムスタンプは「2008/8/1/10:30:50」

以下、当時、高校3年生だったKNちゃんからのメール(全文)である。

 

「お忙しいのにメールしてしまってすみません。

でもどうしたらいいのかわからなくてご連絡しました。

これは本当に自分のわがままですが、この家がなくなってしまうのは嫌です。

でも一番は父が裁判を欠席することが嫌です。

そうしたら父まで悪いことをしたと認めてしまうようで納得がいきません。

 

これが一番良い方法なのでしょうか?

自分はまだ子供だし、裁判のことも全然わからないので、とても不安です。

 

生意気なこといってすみません。

でもどうしたら良いのかわからなくて、いてもたってもいられませんでした。

 

こんなに父や私達のことを考えて下さってる平岩先生にご迷惑ばかりかけて、本当に申し訳ないです。

平岩先生にはいつもいつも感謝の気持ちでいっぱいです。

本当にありがとうございます。

 

こんなに長々と意味の分からないメールを読んで下さってありがとうございました。」

 

このメールを読んで動かない人間を、私は弁護士と認めない。

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