『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1069

　オロンテスが言ったようにパン工房では昼食五人分が整えられている、二人は、それらを両の手に持って会議の場に戻ってくる。
　『お～お、ご両人、ごくろう、ごくろう』
　イリオネスが声をかける、微笑む二人、昼食の場を整えた。　
　『おう、酒杯がないな。俺が取ってくる』
　アエネアスが宿舎に取りに行く。
　『これは気ままの男所帯だな』とつぶやきながら、杯を手にして場に立つ、オキテスが一同の酒杯になみなみと葡萄酒を注ぐ。
　統領が声を上げる。
　『一同の健康に乾杯っ！』
　『おうっ！』と唱和して、杯のぶどう酒を飲み干す。
　五人が飲み干した酒杯を突き出す、今度はイリオネスが一同の杯にぶどう酒を注ぐ。
　アエネアスが一同に声をかける。
　『健全なる精神は、健全なる肉体に宿る。健全でなければ健全なる発想が出ないということだ』
　『お～っ！健全である、酒がうまい！』
　緑陰、木漏れ陽、そよっとした風が通る、微笑み交わして、食べ物を口に運ぶ、彼らは食事を楽しむ。
　会話を楽しむ第一投が投じられた。
　『オキテス、あれだ、海戦の模様を語って聞かせろ』
　『それはむつかしい、かんべんです。これはですな、敵と戦った本人でないと語れない。その時どんな決断をしたかです』
　一同と顔を合わせる。彼は場の呼吸を読む。
　『勝利を呼び寄せる意志の力、海戦の場では、これで勝負が決まるのです。この時の私は、海上戦から離脱して、陸上に戦いの場を形成する作戦でしたから。私の目には、おう、やっているわい。よしよし、あの構図なら海戦の勝ちパターンだ、安心安心、この程度です』
　『ほう、そんなものかいな』
　オロンテスが深くうなずく。場にいる五人の中で闘いの場を経験していないのはオロンテスだけなのである。
　オキテスの話を統領が受けて口を開く。
　『そうだな、オキテスの言うことにうなずける。戦いの場でないとわからないことが多々ある。海戦の場合には、なおさらといえる。ギアスを呼んで、話を聞くとしよう』
　パリヌルスが口を開く。
　『海戦で勝利する、これは、海上における陣形とその時の海上での動きで決まります。対戦相手を死の淵に向かわせる。これで当方の勝利が決まります』
　オキテスがうなずいていう。
　『それはそうだな、敵もそうであろうが、当方は戦いのプロだ。敵は襲撃のプロだと考えられるが、当方と敵では戦闘の技術力が違う。敵はそこをなめてかかってきたのではないかと考えられる。我々は勝つべくして勝った。敵は負けるべくして負けたと言えます。敵は出たとこ勝負、こちらは事前に作戦を構築して戦場に臨んでいます』