『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 ６６７

　『はじめまして、私はこの艇を預かっているギアスです。本日の試乗、誠にありがとうございます。今日は、いい風が来ると思います。これより沖に出て航走いたします。艇の走りを吟味してください』
　櫂は海を泡立てる、ヘルメスは船溜まりを離岸していく、キドニアの沖へ向けて波を割った。
　キドニアの街区が小さく見える、かなり沖に出たようである。
　風を読むギアス、方向転換点を探った。いい西風が来ている、風風感知器を手に取る、ギアスは演出する、いい風力、風向きを読み取り、海上を見渡した。
　一拍の間をとって、方向転換の指示を発する、操舵担当がギアスの指示する方向へと確実に舵を操作をする。
　『中央帆柱、展帆！』
　三角形と思しき台形の帆が一本のロープ操作で展がる、続けて次の指示が飛ぶ。
　『艇尾、展帆！』
　艇尾の三角帆が展がる。
　『櫂操作停止！櫂を上げ！』
　ヘルメスが帆走する、波を割る、飛沫が飛ぶ、艇持ち前の安定性のある快走になっていく。
　試乗している者たちも海の男である、艇の走りを敏感に感じ取っている様子がうかがえた。ギアスが一同に告げる。
　『進行方向を少しばかり変えます。中央の帆は、操作せずとも風向きに順応します。帆の風ハラミを注意して見てください』
　『艇尾帆操作せよ！』
　中央の帆は、進行方向に対して、やや斜め後方からの風を確実にはらんで艇は走っている、艇尾の帆によって艇の進行方向が維持されている、帆走でヘルメスは海上を駆けた。
　ギアスは、ヘルメスの航走について、三角帆と四角帆の風ハラミによる航走効果の差を感じ取ってもらえるように操艇を心がけた。艇上の者たちはヘルメスの快走を体感している。
　ギアスはふと考えた、『彼らがこの艇を買い取っての使用用途は何だろう？何を目的に船選びをするのだろうか』と頭をひねった。それによって試乗の演出をしなければと考えた。
　今のギアスの考えでは、移動手段に使用することを目的に試乗の演出をしている。海上を疾駆する艇としての機能に優れていることを強調して試乗会の催行をしていた。