『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  257

2014-04-23 07:36:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ガリダの手の若者は、浜に沿った道を馬で駆けている。彼の行く手のやや小高い場所に群れて建っている集落の一群が見えていた。集落にとって初めて迎える馬に乗った客である。集落の東の入り口あたりと思われるところに二人の男が張り番をしている。二人はかけてくる馬上の若者を認めて緊張した。
 『あの馬で駆けてくる奴は何者だ』
 二人は、両の手を広げて、通り抜けをさえぎった。若者は馬を止めて地上に降り立った。張り番の一人が声をかけた。
 『おいっ!お前は何者だ。如何なる用件でここへ来た?それを言え』
 若者の身なりは、きちんとしている、短めであるが帯剣もしている。彼は息を弾ませている、話す言葉はたどたどしいがギリシア語であった。
 『俺の事を聞いたのか。俺はガリダの息子のザッカスという。イリオネス殿に伝える大事な言伝をもってここに来た。取り次いでくれ、急ぎの用件だ』
 これを耳にした張り番の二人は頭を傾げた。
 『なんだと!イリオネスは判る、お前の名前のザッカスもわかる、ガリダが判らん。言伝の内容は何だ』
 『何っ!ガリダが判らん。判らんとは何事だ!』若者の声が大きく怒声となった。
 『ガリダは我らが頭領の名前だ。言伝の内容だと!イリオネス殿に直々に伝える言伝だ。ことは急いでいる、早く取り次げ!』
 二人は言葉を交わした。一人が案内することになった。
 『よしっ!俺について来い』
 張り番の一人が歩き始めた。ザッカスは馬を引いて歩を運んだ。10分余り歩いてイリオネスの宿舎の前に着いた。軒からさがっている木板を叩いた。戸口にイリオネスが姿を見せた。
 『軍団長、客です。ザッカスと名乗っています。急ぎの言伝があるそうです。引見ください』
 『判った。ご苦労』
 イリオネスは前に立っている若者に目を移した。
 『この俺に急ぎの言伝。聞こう』
 『私は、ガリダの息子のザッカスと言います。言伝の内容は、樹木調査隊の事です』
 たどたどしいギリシア語である。
 『何っ!樹木調査隊!それがどうした?』
 『一昨日の事です。その調査隊の一団が、我らが砦の前を通りました。我らが頭領のガリダがその調査隊の用件を質しました。そのうえで案内の者を一人を付けました。彼らの帰ってくるのが予定より大きく遅れて昨晩の夜中に帰ってきました。いま、我らが砦で身体を休ませています。以上です』


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