トロイからの落人  Fugitives from Troy

トロイを脱出して7年。約400年後のローマ帝国発祥の杭を、テベレ河河口の地に打ち込んだ男がいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  890

2016-10-17 05:15:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『心得た。テカリオン、ようそこまで、この俺に言ってくれた、ありがとう。礼を言う』
 『パリヌルス、礼などはいい。俺を儲けさせてくれればそれでいい。俺が生きていく領域は、それくらいと見極めている。その領域でいかにして充実して生きるか。それがエーゲ海を舞台にして生きる俺の課題だ。国を興すなどということは、初めから、そのスケールの土壌にスタンスしていなければ、為しえないことなのだ。『建国をする』それはアヱネアスの持っている運命の大事なのだ。と俺の認識を言葉にしてみたのだ。聞いてくれたか』
 『おう、充分に聞いた、納得もした。お前は大した奴だ。俺の一命をお前にやっていいくらいだ』
 『お前を生かすことのできるのは、アヱネアス統領をおいてほかに誰もいない。こうして話し合えるのもお前と俺の一期一会の命を懸けての話しあいだ。お前と俺、話す言葉に託しているのは互いの魂塊だ、その質量は想像を絶するくらいにでっかくて重いのだ』
 二人の感情は激している、立ちあがる、ガキッと互いの肩を抱いた。見つめあう二人の目が涙で潤んでいた。
 テカリオンの心に去来したのは、
 『こいつとの別離の場には、おそらく俺はいないであろう』
 彼は話し合う宵の一時、一期一会の心をかみしめていた。
 『パリヌルス、夜も更けた。今夜は俺の船で寝ていけ』
 『おう、そうする』
 二人は話し終えた。船室に二人の寝息が重奏した。

 新艇第一号の納入の朝となる。頭上の空に星がまたたいている、海の遥か彼方、水平線上の明るさが増してくる、星が眠りについていく、浜が目覚めた。
 朝まだきの海、彼らの朝行事が海面を泡立てる、朝の挨拶言葉が飛び交う。
 アヱネアス、イリオネスの顔が見える、朝行事を終えた面々が顔をそろえる、アヱネアスを中心に円陣を組む。 
 『一同、出航の準備に取り掛かってくれ!整い次第、キドニアに向けて出航する』
 『おうッ!』返事が返る。
 彼らは役務遂行に散開する、ドックスの叱咤声が朝のしじまを裂いて飛ぶ、ギアスが新艇曳航の綱を結ぶ、セレストスが祝いの品を新艇に積み込む、アヱネアス、オキテス、オロンテスがイリオネス、パリヌルスと打ち合わせを終える、テカリオンが挨拶に顔を出す、水平線を離れた太陽が輝きを増した、出航の時が訪れた。
 浜にいる者一同が列を整えて並ぶ、ヘルメス艇上のアヱネアスが出航の指示をする、ギアスが令を下す、新艇を曳いてヘルメスが波を割る、テカリオンの船が後続する、凪いでいる海面に航跡を引いて、二艇一船がキドニアへと向かった。
ジャンル:
小説
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