ひの・かわら版

    
      Alima

春山 花子

2012年02月04日 18時00分00秒 | かわら版

 「名前は何と言うのですか?」

 「ハルヤマです」

 「いや、あの・・・」

 「・・・あぁ、ハナコです」 

 朝、8時。JRの駅を降りて、少し歩くと細長い公園がある。そこを通り過ぎて、右に曲がり高架をくぐり線路に沿った歩道をさらに歩く。職場はまだまだ先だ。

 途中、廃屋になった工場がある。手入れされなくなった木々にまじってフェンスから飛び出した葉っぱの先に真冬なのにセミの抜け殻がくっついていた。

 たった今、羽化したばかりに見える姿に驚いてしゃがんでながめていた。

 「この辺りは、夏、セミがいっぱいいますよ」

 突然、背後から声をかけられた。それがハルヤマさんだった。 

 「川向うの小学校で教師をしています」

 おおざっぱな自己紹介をしてほんの短い時間、立ち話をした。 

 「名前は何と言うのですか?」 

 ハルヤマさんは勘違いをしていた。それで、飼い主も犬も名前がわかった。ハナコは柴犬よりもひとまわり大きく、スマートな体つきをしている。

 おはようございますと挨拶をかわし、お互いのことをほんの少しさらけただけで、とたんに親しい間柄になったような気がした。

 ハルヤマさんは丹波篠山で猟師をしていたそうだ。どう、めぐり巡ってここへやってきたのだろう。 

 ハルヤマさんが猟師なら「晴山」でも「治山」でもない。きっと「春山」だ。春の山に咲く花、そんなたわいもない発想から、ハナコはカタカナやひらがなのではなく漢字で「花子」の方が何となくふさわしいと思う。

 春山さんと花子は公園の方へ行くらしい。ふたたび西へ歩き始めると、轟々とけたたましい音を立てながら高架を電車が走って行った。

 

 

 

昔のじじぃ〜!

2012年01月22日 18時05分17秒 | かわら版

 

 

 

 いつものようにはる君がパソコン室へやってきた。

 はる君は彼の担当の先生から、一日一時間だけここへ来ることを許されている。パソコンをずっとしたがるのでルールを決めたのだ。

 今日はパソコンを使って算数の勉強をすると自分から進んで、一の段の掛け算を始めた。

 まだ、掛け算は習っていないが、他の子がしているの見ていたらしい。一の段なら彼にもできる。二の段になると途端にわからなくなって、もっともなことだが、もうやめると簡単に降参してしまった。

 「な〜先生、『犬ゲー』って入れて」

 少しだけれど勉強をしようとしたし、今日は花まるを2つももらっている。それで、検索の細長い枠に 「inuge」 と入力してあげた。

 NHKの 「ビットワールド」 や明治おかしランドの 「ゲームコースター」 のように 「犬ゲー」 はTeijinの企業サイトにある、宣伝を兼ねた子ども用のゲームだ。「犬ゲー」 は正式には 「フレキシブル大冒犬」 という。

 

 

 『遠い未来のどこかの星。

 人々は、布麗岸(ふれきし)博士によって生み出された、透明導電性フィルムでできた顔を持つフレキシブルドックと共に、ベンリかつ平和に暮らしていました。

 しかし、ある日のこと。フレキシブルドッグを生み出すためのフィルムマシンがカタブツ魔王に奪われてしまったから、さぁ大変!

 マシンを取り戻すため、博士の娘、ナゲヨが立ちあがったのでした。』

 こんな設定で、いろいろなフレキシブルドッグを集めて4つのステージをクリアーしていくのだ。ボールを投げていろいろなアイテムを集める単純なゲームだが、結構奥が深い。

 「りくステージ」、「そらステージ」 も終わり 「うみステージ」 まで進んできた。ホットドッグ、ホールインワン、お茶ワン、ワンダ、野球犬、それにアキレス犬もとった。

 今までゲットしたことがない、フレキシブルドッグをゲットして、はる君はこちらをみてにっこりと笑った。

 「この犬、先生みたい」

 画面をみると、セント・バーコード犬だった。

 さらにおやじギャグのような名前の銭湯バーナード犬、来々犬、たくワンなどのフレキシブルドッグをたくさん集め、とうとう 「うちゅうステージ」 までやってきた。しばらくして、チャイムが鳴った。

 

 

 「もう終わりや!」

 ここまでくると、エンディングが見たいだろう。それに、まだ誰も 「うちゅうステージ」 をクリアーしたものはいないのだ。

 「もうちょっといい・・・?」と、はる君は言った。

 しかし、ルールはルールだ。

 「だめ、もう終わりなさい」

 しぶしぶはる君は電源を切った。パソコンの終わり方は今まで何度も 「スタート」 を押して終わるのだと手とり足とり教えていた。

 残念なのか悔しいのか、はる君はパソコンの本体の丸い電源ボタンを人差し指で押していた。プツンと音がして画面が黒くなった。

 「そこを押したら、あかんていつもゆうてるやろ!」

 

 「・・・昔のじじぃ〜!」

 ばたんとドアを閉め、はる君はそう叫んで出ていってしまった。

 

 嫌いな先生から怒られると腹が立つ。好きな先生から叱られると悲しい。

 はる君はどっちだったのだろう。

 

 

※ Teijin 「フレキシブル大冒犬」 より

遠くのレストラン

2012年01月08日 17時20分35秒 | かわら版

 

 「いつか会えるといいね」 

 慎ちゃんへそう書いて年賀状を出しました。

 転校してから、もう3年。

 

 午前中の20分休みや、給食の後の休憩時間、二人で東の山をいつも眺めていました。

 山の頂上付近に教会のように屋根がとがった建物がありました。

 「先生、あれなんやろ?」

 「レストラン」

 遠くのことだかから適当に想像していっただけなのに、そう言うと慎ちゃんは信じてしまいました。

 

 週末の2日間の休みをはさみ、月曜日がやってきた。お昼休みは日がぽかぽかと差していましたが、山は少しかすんで見えました。

  「お父さんと、あそこへいってきた」

 山の上にあるレストランへ行きたいと父親にせがんだのだろう。いい加減なことを言ってしまった後悔よりも、慎ちゃんの実際にあの建物を見たいという気持ちと、その行動力に驚いてしまいました。

 「ゴルフ場の建物やった」

 

 それからも、運動場から二人で眺めるときだけは、あの遠くの小さな建物はレストラン。それもぷんぷんとタレのいい匂いがただよってくる焼き肉レストラン。 

 

 慎ちゃんから年賀状が届きました。

 「元気です」

 

 

E しゃん

2012年01月04日 10時13分32秒 | かわら版

  

 「せんせ〜、先生を見つけたよ〜!」 

 朝学校に着くと、教室と職員室の間にある下足場の前であおいちゃんが手を振っている。何のことだろうと思ったが、手を振りかえした。

 左わきには本を抱えている。人差し指を栞がわりに挟んでいたので、さっと13ページを開けてそのページを見せてくれた。

  

 フーは長女。天然ボケで突拍子もない言動が多い。ニックネームは “おっぺけぺ”。

 スー、次女。赤ん坊のころは夜泣きもせず手のかからない子だった。長女に振り回されていた最悪期に母親は “菩薩” と呼んでいた。

 三女、チー。わがままで食いしん坊。食に対する執着心が強い。ニックネームは “まんま小僧”。

 3人の娘たちの育児と日常のことを漫画と文章で綴ったエッセイコミック。それが 「うちの3姉妹」 で16巻続いている。

 そのうちの6巻の関西旅行記に “Eさん”  は初めて登場する。Eさんは出版社の人で仕事を兼ねた旅行を一家と共にすることになる。

 けれど幼い3姉妹に、あやしいおじさんと思われて警戒をされてしまう。とくに三女は警戒心むき出しだ。時間がたつにつれ、Eさんの努力と忍耐のかいもあって少しずつ3人は心を開きはじめる。

 

 

 世の中には自分と似た人が三人いるという。他人の空似ともいうが、やはり自分に似た人はどこかにいるのだろう。

 わたしの場合、あおいちゃんがこの世に三人いるうちの一人を見つけてくれた。ところかまわずあたりにいる先生達に13ページを見せていたが、一応に 「似てる〜ッ!」 と言って笑うのだ。

 

 

 

 すっかりEさんになじんだ三女は、坊主めくりをしているときに坊主が出てくると 「Eしゃん」 とか言っている。

 その後、あおいちゃんは7巻と特別版のハワイ旅行記でもわたしを、いやEさんを発見している。

 

 この場合少し違うような気もするが、心理学ではドッペルゲンガー現象というものがある。これは自分の姿をほかの人が違う場所で見る、あるいは自分自身が違う自分をみることだ。

 ドッペルゲンガーで現れる人物は周囲の人と話をしないそうだ。その不思議さから、このことを題材にした映画や小説も多い。世にも怪奇な物語の 「影を殺した男」 や東野圭吾の 「分身」、浅田次郎の 「虫篝」 (むしかがり)がそうである。

 わたしと瓜二つの人は架空の世界にだけに存在しているのではない。漫画の世界に描かれているが、れっきとした実在の人物なのだ。

 いつか、Eさんとお会いしてみたいものだ。

  

 

 

※ 参考書籍 「うちの3姉妹」 6・7巻 松本ぷりっつ著 主婦の友社

12年目のドラゴン

2012年01月03日 11時50分27秒 | その他

 

 冬のよく晴れた日、平安神宮から大鳥居をくぐり南へのんびりと歩いていました。東西にはしる仁王門通りを横切り、神宮道はずっと先の三条通りまでのびています。

 通りに呉服店がありました。ガラス戸の前に、端切れの布を入れたワゴンが置いてあります。くるくると絵巻物のようにまかれたさまざまな模様と色とりどりの布切れにまじって、人形がひとつぽんと投げ入れたように寝転んでいました。

 着物の端切れで手作りしたのでしょう、ひょうきんな表情に惹かれドラゴン人形を持ってお店の中に入りました。

 「どんな人がこの人形を買ってくれるのかなと思っていました」

 包装をしながら店員さんはそう言いました。

 「想像どおりの人でしたか?」

 「・・・ええ」

 この人が端切れを利用してドラゴンをつくったのに違いない。だから、誰が買っていくのか少しばかり気にしていたのだろう。

 あの店員さんがどんな人だったか、もう忘れてしまった。ただ、そんなやり取りをした言葉だけは耳の奥に残っている。そんな会話とともに、ドラゴンがわたしの元へやってきて12年たつ。

 わたしは想像通りの人ではなく、予想外の人だったのだと思う。