駅前から買い物の帰り、雨に濡れた。その夜も 激しい雨と雷。良いことは何もない一日が、過ぎた。それでも、「許せる」。今なら。 あなたは「許せる」だろうか? 今なら。 t. A
駅前から買い物の帰り、雨に濡れた。その夜も 激しい雨と雷。良いことは何もない一日が、過ぎた。それでも、「許せる」。今なら。 あなたは「許せる」だろうか? 今なら。 t. A
もう全ては終わろうとしているのかもしれませんが、低空飛行を必死で回避した飛行機のパイロットのように脂汗がじりじりと脇の下や額から出てくるのです。ただ、メモ帳に書く毎朝の日付を見るだけなのに。あまりに、一日一日が早く過ぎていきます。会いたくても会えない日々を過ごしていますと、きのうはベランダの花に水やりをしただけで一日が終わってしまったのだなと、毎朝、メモ帳の新しい日付を書きながら思うのです。花のように成長していくものと、すすきのように朽ちていくものと。ぼくらの生きた証はどこにあるのだろう。東雲色をしたきれいな夕焼けをながめながら「生きていればそれだけでいい」と、思うとしても。 t. A
あの頃、確かに、あなたはぼくの未来と決別をした。ぼくの知らないうちに。あなたの黒鳶の髪が、いつしか、白花色をした髪になって、美しい人になったのを。ぼくは知らない。 t. A
先生! ぼくはいつの日か、刺すような痛みで身も心もぼろぼろになっていました。こすってもこすっても、弦はギイーギイーと薄竹色の悲鳴をあげるばかりです。どうすれば、美しい音は奏でられるというのでしょう。どうすれば、この苦しみから解放されるというのでしょう。 t. A
ガラス戸の向こうの空は灰色の雲だらけ。今にも雨が降りそうだった。しばらくすると、ぽつぽつと雨が降ってきた。こんな日に外に出るのは億劫だったが、買い物に行くことにした。ゆるやかな坂道を上ったり下ったりしながら、雨に濡れた道を歩いていると、いい香りが漂ってきた。それは、地味で少し濃い目の黄赤色の小さな花、金木犀。あそこにも、ほらここにもと傘を差して歩く人は、指で匂いの在りかを教えてくれる。かすかな香りを嗅ぎながら、何度となく歩いた道なのに、いつの間にか不思議な世界を歩いている。あの日の雨上がりと金木犀と白花色の手の人と。 t. A