「希望の樹」第7章 牙をむく本性 その２０

　しかし、なぁ。
「うー、ゲホンゲホン！」
大丈夫か、ケンタロウ君？サカタニさんの介助でお食事中、ドロドロのミキサー食が気管に入ったんだ。
「ゲホン！ゲホン！」
相当苦しそう。
　サカタニさん、凄くまじめで一生懸命な人なんだけど、やり方がきついんだよね。スプーンでぐいぐい押しこまれて、苦しいだろうな、食べさせてもらってる子からしたら。
「はい、もうちょっと！」
残さず食べさせるのにこだわるから、最後の方になると横から見てても気の毒で。
　こういう世界は、気持ちの優しい人がいいと思う。多少の不完全も許容できるぐらいの寛大さもないと。予定通り思う通り動いてくれない人を相手にしていくわけだし。

この間、ここで出たおかず作ってみたの
美味しかったわ！
本当？！

「余計な私語だと思います！謹んでください！」
突然声を荒げたサカキさん。あんたのそのキツイ一言の方が、よっぽど空気壊してるよ！全く！ものが言えない利用者さんだって、スタッフの話を聞いて楽しんでるのに。
　後から聞いたんだけど、サカキさん。この発言に関しては、この日の終わりのミーティングの時にタカモリさんに指摘され、素直に謝ったらしい。
　で、何よりの問題は所長。正直に言うと、経営者としては全く頼りない。仕事を教えてくれたのも、ここをまとめてるのも、正直ヨシナガさんだし。それと、自分の後継者はどうするつもりなのかな？自分の代だけでこの施設を終わらせるつもりなのか。
　そう考えると、ツリーハウスも安泰どころか、留まったら危険という事になる。だけど・・・
『タマキさん！』
『タマキちゃん！』
私、受け入れられている。皆から認められている。何処へ行っても、どれだけ望んでも得られなかった、仲間がここにいる。
『良く助けてくれるし、ありがたいわ。』
私の働きを、認めてくれる人がいる。
　・・・やっぱり私は、ツリーハウスにいたいんだろうか？