むかごの日記Ⅱ

70歳を過ぎてにわかに植物観察に関心を持ち、カメラを提げて、山野を歩いています。新・むかごの日記より引っ越しました。

タチドコロ:立野老(“たちどころ”には区別できないが) 

2015-08-25 16:03:11 | 植物観察記録

神戸市の西端、雄子山のふもとを歩いていると、珍しくタチドコロ:立野老(ヤマノイモ科ヤマノイモ属)がよく目立ちました。
丘陵や山地に生えるつる性の多年草で、単にトコロとも呼ばれるオニドコロに似ていますが、茎がはじめ直立するのでこの名があります。
三角状卵形の葉は、オニドコロに比べて先が鋭くとがること、基部が心形に膨らみふちには細かい波状の鋸歯があることでも区別できますが、決め手の一つは3個の翼がつく果実の中の種子の形です。
雌花は咲き始めから大きな子房に翼のような室があり、果実は長さ1.8~2.2㎝、ごく薄い翼のような3室があり、1室に薄い種子が2個ずつ重なって入ります。トコロの種子は一方にだけひれ(翼)がつくのに対し、タチドコロの種子のひれは全周を取り巻きます。

トコロとは野老と書き、ひげ根を老人の髭に見立てて、海老とともに長寿を祝う正月の飾りに使われたので、野の海老でトコロと読むこの仲間は、ほかにもいくつかあります。

タシロラン:田代蘭(儚なげな白い細身の長身)8月20日

2015-08-20 08:29:02 | 植物観察記録

7月中ごろ、万博公園自然麦秋の森の遊歩道の脇で、全身白く儚げな姿の蘭が花をつけているのを見かけました。葉緑素を持たない腐生植物とわかりましたが初見のこととて名前がわかりませんでした。
あちこち調べているとタシロラン:田代蘭(ラン科トラキチラン属)というのに行き当たりました。
本州(関東地方南部)、四国、九州、琉球に分布し、常緑広葉樹や杉林の湿度の高い林床に生え、緑の葉をもたず全面的に菌に寄生する腐生植物で、高さ15~40㎝、鱗片状の葉をまばらにつけ、全体として透明感のある白黄色を帯びます。
6~7月、茎の上部に5~20個の花が下向きにきます。苞は長さ約8㎜、萼片、側花弁、唇弁ともに長さ8㎜、広卵形で背面が膨れます。
和名は発見者の田代善太郎氏の名をとり、牧野富太郎博士により命名されたといいます。
万博公園も植樹が始まって40年余、ようやく深山の趣も感じられたタシロランの出現でした。

シウリザクラ  (和名はアイヌ語から) 

2015-08-19 18:27:10 | 植物観察記録
8月初めの裏磐梯五色沼の遊歩コースでシウリザクラ(バラ科サクラ属)の果実が色づいていました。
本州中部以北・北海道などなど分布し、川沿いや谷間に多い落葉高木で、高さは10~15mになります。
葉は大きく、基部は心臓形、葉柄の上部に蜜腺がつくことなどから、ウワミズザクラなどとは区別されます。
何年か前に上高地徳澤園で、房状の蕾をつけていたシウリザクラ('10年6月9日記事)に出会って以来で、花にはお目にかかれていませんが、蕾と果実で何とか花を想像することができました。
ミヤマイヌザクラ、シオリザクラなどの別名もあります。和名のシウリまたはシオリはアイヌ名を取ってつけられたといい、学名もPrunus ssiori Fr.Schmとなっています



ルイヨウショウマ:類葉升麻(似ているのではなくそのもの)

2015-08-16 15:48:14 | 植物観察記録
裏磐梯五色沼の散策路で黒い果実を丸い穂状につけた見なれぬ草に出会いました。
果実の形はミヤマウドに似ているようでも草の姿全体は異なり、トチバニンジンを思わせますが色は赤くなく、葉の形も違います。
植物に詳しい知人に、「この果実とショウマに似た葉は一体です」と複数の写真を送って訊ねると、ルイヨウショウマという返事が返ってきました。
ルイヨウショウマ:類葉升麻(キンポウゲ科ルイヨウショウマ属)は、本州、四国、九州に分布、山地の樹下の陰地に生える多年草で高さは60㎝くらい、茎は単一ですこしくの字に曲がります。
花は初夏、花茎の先に短い総状花序をだし、白色の花が集まってつきます。がく片は早落性で、花弁4個は長さ3㎜くらい、おしべは多数で長さ6㎜くらいで、めしべは1個、子房に直接大きな柱頭がつきます。
果実は直径約6㎜程の球形で黒く熟します。
和名の類葉升麻は、葉が升麻に似るということからきているといいますが、同じ類葉の名を持つルイヨウボタンは、葉が牡丹に似るが牡丹ではないというので納得できますが、ルイヨウショウマは葉がショウマに似るのではなく、ショウマそのものですから、この名づけは少し変といえます。


クロヅル:黒蔓(日本海東北が中心) 

2015-08-15 11:57:18 | 植物観察記録
これも月山弥陀ヶ原(1400m)で見かけたクロヅル:黒蔓(ニシキギ科クロヅル属)です。ベニヅルという別名もあり、分布は本州東北地方の福井県までの日本海側、中国地方、紀伊半島、四国、九州などとなっており、ほとんど全国版のように見えますが、月山が初見で見た場所とあれば、メインは東北地方の日本海側ということなのでしょう。
長さ数mに達する落葉つる性木本で、互生する葉の長さ5~15㎝、幅4~10㎝の卵形または楕円形で先は短くとがります。
雌雄同株、両性花と雄花があり、7~8月枝先に円錐花序をだして直径約6㎜の緑白色の花をつけます。花は5数性で、花弁や雄蕊は5個ずつあります。
果実は翼果で、長さ8~12㎜、よく葉3個あり、普通淡緑色、ときに紅色を帯びます。
紀伊半島、市国、九州に分布するものは葉の先は急に細くなり、果実もやや大きいので、これをサイゴケクロヅルとすることもあるといいます。

ミタケスゲ:深岳菅(地味でも目立つ) 

2015-08-13 17:30:01 | 植物観察記録

月山弥陀が原の池塘の縁にミタケスゲ:深岳菅が星形の果胞をつけて揺れていました。
本州中部地方以北、北海道の亜高山帯~高山帯の高層湿原に生える多年草で、茎の高さは20~50㎝,葉巾3~5㎜です。花期は6~7月、小穂は3~5個、頂小穂は雄性で長さ1~1.5㎝の線形、側小穂は雌性で約10個の雌花がつき、鱗片は長さ5~6㎜、果胞は淡緑色で長さ1~1.3㎝の線状被針形で、先は長いくちばし状になります。
もともと地味な菅ですが、高山に生える菅のうちではもっとも果胞が長く、星形に開くので、結構見分けやすい草です。

マルバキンレイカ:丸葉金鈴花(葉が切れないオミナエシの仲間) 

2015-08-12 08:15:51 | 植物観察記録

花が少ないなどとこぼしながら歩いた月山弥陀ヶ原の周遊路脇に一見見慣れたような黄色い花が咲いていました。よく訪ねた蓼科高原で群れ咲いていたコキンレイカ別名ハクサンオミナエシ(‘11年8月29日記事)にそっくりですが、葉の形が異なり、コキンレイカのように深い切れめがありません。
本州の新潟県以北、北海道に分布し、山地の草原、湿原、岩礫地などに生育する多年草でマルバキンレイカ:丸葉金鈴花(オミナエシ科オミナエシ属)でした。
横に伸びる地下茎は太く、茎の高さは30-70cm、葉は茎に対生し、葉身は広卵形で羽状に浅裂します。オミナエシ属の他種の多くが、葉が中裂または全裂するのに対して切れ込みの浅いのが特徴的です。
花期は7-8月、オミナエシに似て、花冠が5裂し径5mm、長さ6.5mmの黄色の小花を集散花序につけます。花冠の基部が短い距になるのがこの仲間の特徴です。



シロバナトウウチソウ:白花唐打草(紅色が目立つ) 

2015-08-11 11:27:51 | 植物観察記録

思ったより花が少ないかった月山弥陀ヶ原で、やや目についたのがシロバナトウウチソウ:白花唐打草(バラ科ワレモコウ属)でした。
本州東北地方の高山帯に生える、茎高30-70cmの多年草で、全体にほとんど毛はなく、根出葉は束生して、長い葉柄があり、その先に5-7対の小葉をもった奇数羽状複葉がつきます。小葉は長さ2.5-5cmになる広卵形から楕円形で、葉軸にややまばらにつき、先端は円頭であるがしばしば少しへこむことがあり、基部は心形になり、縁に鋸歯、裏面は粉白色になります。
花期は8-9月。茎先に穂状花序をつけ、花穂は分枝した枝先に1個ずつつき、円柱形で長さ3-6cmになます。花弁はなく、花弁状の萼片が4個あり、雄蕊は4個は花外に突き出ます。
ここでは白花よりむしろ紅色のもの方が目立ち、別種かとも思いましたが、図鑑では名はシロバナでもときに紅色を帯びるとありますので納得しました。

ちなみに図鑑では花が紅桃色のナンブトウウチソウというのがありますが、こちらは早池峰山に特産する種とのことです。
和名の唐打草は、近縁のカライトソウが、美しい花糸を中国から渡来した絹糸のことになぞらえた名であることに関係があるのかもしれません。

キンコウカ:金黄花(月山弥陀ヶ原を彩る) 

2015-08-10 13:03:21 | 植物観察記録

山形羽黒三山のひとつ月山八合目(標高約1400m)に広がる弥陀ヶ原湿原は、今回の東北ツアー4日間の中で、唯一高山植物を楽しめるところと期待していましたが、行ってみると信州あたりに比べてここは一月ほども季節が早いらしく、夏を代表するニッコウキスゲ、ヨツバシオガマ、コバイケイソウなどは花殻ばかりでがっかりでした。
代わりに目についたのが、あちこちに点在するキンコウカ:金黄花(ユリ科キンコウカ属)の群落でした。鮮やかな黄色の花が咲くのでこの名があり、金光花とも書きます。
本州近畿地方以北、北海道の山地帯~亜高山帯の湿原、湿地や渓流ぞいなどに生える多年草で、しばしば群生します。
葉は根元に2列に並んで互生し、長さ10~30cmの線形で先は剣状にとがります。花をつけない茎と花をつける茎があり、7~8月、花茎の上部に星形に開いた直径2cmほどの6弁の花を総状に10~20個つけます。花が終わると花弁は緑色に変わってそのまま残ります。
寂しい弥陀ヶ原湿原でひとり気を吐いているキンコウカでした。

タマガワホトトギス:玉川杜鵑(霊山に咲く)

2015-08-09 09:16:50 | 植物観察記録

山形県出羽三山の奥宮といわれる湯殿山は「語るなかれ」「聞くなかれ」といわれる、秘められた修験道の霊地です。参拝は裸足のみ、写真撮影も厳禁という秘境への道筋に咲いていたのがタマガワホトトギス:玉川杜鵑(ユリ科ホトトギス属)です。
沢沿いの湿ったところや岩場に生える多年草で、高さは30~100cm、茎や葉にはほとんど毛がなく、葉は長さ8~18㎝の広楕円形で基部は茎を抱きます。
厳しい撮影禁止で欲求不満気味でしたので、撮影禁止地帯を抜けるとすぐに見つかったタマガワホトトギスには、通常以上のやさしさ、うれしさを感じていました。