あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

カルチャーショック

2016-10-20 | 
家の近く、わりとよく通る道に気になるレストランがあった。
看板にはアフガニスタンと書いてある。
アフガニスタン料理?聞いたことがないな。
たぶんイスラム系の食べ物なんだろうなという想像はできた。
この店がぱっとしない外観で、あまり目立つわけでもない。
それでも町の中の幹線道路沿いに何年も前から存在し続けるということはそれなりに人気があるのかなどと、そこを通る度に考えていた。
「あそこのレストラン、美味しいらしいよ」
という情報をどこからともなく女房が持ってきて、それならいつかテイクアウェイでもしてみるか、と思って数ヶ月。
冬の忙しい最中、僕も女房も仕事で帰りが遅く晩飯を作るのが面倒くさいという時に、娘と二人でその店に行ってみた。

週末の夕方とあって店内はけっこうな賑わいぶりで、テーブルも何席かあるのだが半分ぐらいは埋まっている。
入り口にはテイクアウェイの人が何人か待っている様子。
カウンターの中ではイスラム系のオヤジが一人で忙しそうに働いている。
他に店員は見当たらない。
しばらく待たされそうだな、これは。
「なあ、あきらめて別の店に行こうか」と僕。
「きっと美味しいよ。ちょっと待っても買っていこうよ」と娘。
「そうか、そうだな」
老いては子に従え、ではないが娘の言うとおりに待つことにした。
店の入り口には立て看板にメニューが10ぐらい、チキンだのラムだのが書いてある。
良く分からないのだが娘と相談して、3つその中から適当に選んで順番を待った。
そうしているうちに、僕らの後ろからも行列が出来て、さらに店内で食べる人も来てテーブルも満席になった。
これだけ混雑しているのに、相変わらずオヤジが一人でバタバタと働いている。
オヤジが僕らに聞いた。
「ハウメニ ピーポー」
「え?俺たちは二人だけど、注文したいのはこのメニューの4番と5番と8番で・・・」
ということを言ったのだが親父はもう一度
「ハウメニ ピーポー」
「だから4番と5番と8番を注文したい」
親父は首を横に振ると僕の後ろの人に聞いた。
「ハウメニ ピーポー」
後ろの人はツーとかスリーとかワンとか言い、親父は僕らを無視して調理を続けた。
なんなんだここは一体?
近くで待っていた常連らしきインド人が笑顔で言った。
「ここはそういう店じゃないから」
「そういう店じゃないって?」
「まあまあ大丈夫だから、待ってみなよ」
相変わらず親父は忙しそうに働いている。
焼き物のコーナーでは大串に刺された鳥とラムが時折炎を上げながら焼かれている。
その面倒を見ながら、ライス、サラダ、カレーを盛り付けて、テーブルの客を呼ぶ。
客の方も心得たもので、アフガニスタン語か何か分からない言葉でやり取りをしながら、それを受け取り自分のテーブルへ運ぶ。
そして、その客が他のテーブルに座った白人の客にも料理を運んだりしている。
どうやらここはメニューは一種類。
ラムとチキンの串焼き、チキンのオーブン焼き、サラダ、ライス、カレー。
これを人数分に出すようだ。
料金は一人一律20ドル。
テイクアウェイとしては高いが、とにかく量が多い。
そうか、そういうことか、なるほどな。
親父は僕らの方は全く見ないで、てきぱきと働き続ける。
雰囲気は頑固親父で「うちは一見さんはお断りだよ、全く分け分からんヤツが来やがって」そんなオーラさえ出てると思うのは考えすぎか。
このまま無視され続けたらどうしよう、と心配になる頃、やっと僕らの方を見て言った。
「ハウメニ ピーポー」
「お忙しい所、誠に恐れ入りますが、3人分包んでいただけませんでしょうか?」
とは言わないがそんな気持ちで「スリー」と言った。
親父はニヤっと笑い「ラム、チキン、オーケー?」
「オーケー、オーケー」
てきぱきと3人分包み料金は60ドル。
現金を無造作にジーンズの尻ポケットに突っ込むと、笑顔でサンキューと言い握手をした。
ふう、こんな店があるんだなあ。



家に帰ってから、さあ晩飯だ。
まずは鳥肉の焼き物、強火で焙るように焼いた鳥肉はスパイスが効きすぎず、シンプルに美味い。
ラムも同じく、羊臭さをあまり感じさせず、かといってスパイスが強すぎもせず美味い。
ご飯はインド料理のそれより長細いヤツだが、ふっくらと炊けていて、しかもスープで炊いてあるんだろう、うっすらと味がついている。
そしてもう一つの鳥の焼き物はオーブン焼きなのだが、これまたジューシーで表面は香ばしく絶品。
インドのタンドリチキンにちょっと似ている。
さらにカレーもついていて、このカレーがインド風のカレーとも違い、シンプルに美味い。
このカレーとご飯の組み合わせも最高。
とにかく全てが美味いのだ。
味を文で表現するのは難しいのだが、インドと中近東の間ぐらいの香辛料の具合か。
地理的にもたぶんその辺りに位置するのだろう。
中央アジアと言うんだろうな。
昔、中国を旅した時にシルクロードを奥へ奥へ行き、たどりついたのがパキスタンとの国境にある街だった。
そこは政治的には中国なのだが、地域も社会も文化もイスラムのそれで、ここが中国と言うことの方がおかしい、そんな印象を持った。
ふとそんな中央アジアを思い出させるような、そんな味がした。

その晩は3人分を頼んだのだが、とても3人では食いきらない量である。
日本だったら6人分だろうな、きっと。
我が家は大食いの類だが、お腹がペコペコだったのに食いきれず次の日に残った。
これで一人20ドルは決して高くない。
この味でこの量、なるほどな、パッとしない外観の店がつぶれずに繁盛しているわけだ。
それよりなにより、店の入り口にあるメニューの意味は一体・・・。
「うちはそういう店じゃないから、文句があるなら他所へ行きな」
なんてことは言わないだろうが、メニューはあれど客に選択の余地無し。
アメリカでは客により多く選択を与えるのが良いサービスと言う考えがあるそうな。
確かにサブウェイでサンドイッチを買うと良く分かる。
サンドイッチの中身を選んで、パンの種類を選んで、チーズの種類を選んで、それを焼くか焼かないか選んで、サラダの中身を選んで、ドレッシングを選んで、最後に塩コショウをふるかどうか選ぶ。
僕も今でこそ慣れたが、最初は慣れなかったし、僕の周りにはどうやって買えばいいのか分からないので買ったことが無いという人がいる。
選択恐怖症というものがあるのかないのか分からないけど、そういう人は買えない。
まあサブウェイを食べなくても日常生活には全く支障をきたさないからどうでもいいんだけど、その面倒くさいシステムがアメリカっぽいとも言える。
その考えと全く正反対、客に選択の余地を与えず、「これが美味いんだから黙ってこれを食え!」というノリのこの店。
なんか日本の頑固親父に共通するものがあるようで、僕は大いに好きになってしまった。
これで不味ければ話にもならないのだが、美味いのだから文句もない。
ニュージーランドは西洋の社会に入るのだが、その中でアメリカ資本主義への反骨精神。
そういえばアフガニスタンはアメリカと旧ソ連の間でボロボロにされた国だな。
そういったこと全て含めて、僕にはカルチャーショックだった。
自分が昔住んでいた家から歩いて5分ぐらいの場所に、そんな店があったなんて。
こういう発見があるから人生は楽しい。
ついでに言えば、このブログのために写真を撮ったのだが、この看板。
真ん中のピラミッドやらスフィンクスやらって・・・エジプトだよな。
それにこのAFGHANの文字だけ字体が違うぞ。
もともとエジプト料理で、そこだけ後から書き替えたのかも。
そのいい加減なノリも美味けりゃOK。
何はともあれこのお店、クライストチャーチに来た折にはぜひとも行って、4番と5番と8番を注文していただきたい。



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