アボルダージュ!!

文芸及び歴史同好会「碧い馬同人会」主宰で歴史作家・エッセイストの萩尾農が日々の思いや出来事を語ります。

土方歳三さま  遠い春です          萩尾農

2013-02-24 | 幕末関連
立春が過ぎた、とっくに…。
確かに、梅が咲いている。
でも、気温が低い。昨年の冬も気温は低かった。
いや、これが、本当に冬なのかもしれない、その前の数年がとにかく、暖冬続きだったから、それに慣らされて、寒さが身に染みるのか。
それだけではない。
世相も、時代も、この先も、身に染みる寒さは、真夏になっても、心の底に存在するのだろうなぁ。
そんな大和の国になってしまいました、歳三さま。

梅が咲き始め、ほの甘い香りが漂って来ると、殊更、歳さんを思い出す。
「この季節をあの人は、毎年、どんな風に迎えていたのかな」
と。
故郷に在る頃は句帳を片手に、梅咲く中に佇んでいただろうか。
その後、その存在を歴史に大きく遺した新選組の組織者になろうとは思いもしない、多感な、負けず嫌いの、それでも、本当は優しい歳さんは、俳句を詠んだ。
これは、もう、新選組大好きの人々なら、周知の通り。
上洛するに当たって、書き散らしたそれらを一冊に綴じて実家に残していった。
うまいとはいえないそれらを散じないように、閉じた―その行為に、危険な都に上がる心構えを感じると同時に、この人の自己愛の深さを見る。
でも、そんなナルシストの歳さんを愛してやまない私だけど(笑)
そのナルシシズムが、結局は、彼を蝦夷の果てまで戦わせ、遂には、その生命をも奪ったのだけど…。
梅の木の下で、句帳を片手に、発句中の青年の最期が「戦死」であるとは、その時の彼は予想できるはずもない。
そう、人生は、予想もできない事が待ち受けているものだ。
そのなかには、奇跡も存在している。
私も、奇跡に出逢い、決して、相見えることは不可能であったはずの人に逢うこともでき、彼と人としての心の交流も得た。そういう奇跡も存在している。
願わくは、タイムマシンでも完成して、幕末の故郷の梅林に、ヒョイと降り立ちたいものだ。
そこに居る青年歳三さんは目を丸くして空間から目の前に現れた私に驚くだろうけど、何だか、彼なら、その不思議な事実を受け入れることができそうな気がする。
春の桜の満開の華やかで豪華な様とその散りざまの潔さはこの大和の国の人々が特に愛するものだけど、歳さんは、梅を愛でた。
豊玉宗匠(歳三の号)の句は春を詠んだものが圧倒的に多い。
新選組副長のさまざまな噂から考えると、「冬好き」などと思われそうだが、実は、春が好きな彼だ。
春を好きな人は、先に希望を持つ人という。つまり、「決してあきらめない」ということか。
春の中でも梅を詠んだ句が多い。
春の温かな大気の中、空さえも桜色に染めかねない満開の桜花よりも、寒気のなかで、けなげに花開く梅を愛した。
梅が春を呼び込む。梅は春がもうすぐだと告げる為に寒気の中に花開く。
梅が桃を呼び、春がすっかり準備された所に、桜が来る。
厳しい寒さの中でやせ我慢して花咲かせる梅の姿に、歳三青年は、やがて来る自分の未来を重ねたわけではないだろうが、梅ばかりを詠んだ。

そうして、今年も、庭では梅が小さな蕾を付けている。
それでも、大気は冷たく、気温は例年になく低い。
朝など、北国ではない東京で、氷点下になることも何度もあった、この冬は…。

春は遠いです、歳三さま。

そう、かつてあなたが、仲間が、私欲のない人々が、至誠を尽くして守ろうとしたこの国に、春は遠い……です。

春が遠いどころか、世情は、冬が、それも、暗黒の冬、春がこない冬になるかもしれない危険を孕んで、株価があがった、企業の資産価値があがり、業績もあがった―と、浮かれ気分。
その恩恵で賃金があがることもなく、むしろ、生活苦が増した庶民の声は届かず。
多分、庶民は「要らない」と思っているような気さえする、この国のお上(政府)。
昨年、それまで、年3万人を超えていた自殺者が、国の生活再建や支援の政策で、やっと3万人をきり、減った。
でも、政権が変わり、弱者切り捨てとも言える政策が増えて、支援の財政出動が次々と停止、削減された。
例えば、障害者試練の4億円廃止…等々。
今年は、また、自殺者が増えてしまうかもしれない。
電力会社との蜜月復活の自民党政権。
前政権が決めた2030年原発ゼロは白紙に戻す。原発推進内閣となった。原発事故による放射能汚染で故郷に自宅に戻れない人々が。今だ、何万人もいるという現状で、すでに福島の子供たちの中に甲状腺の異常や癌が発見されているという状況、国民の8割が最終的には原発ゼロを望んでいる――それらは無視することにした現政権。
本当に、本当に、春は遠い。

本日の東京新聞「本音のコラム」に「賃上げの方法」と題して、北海道大学教授山口二郎氏が書いている。以下の通り。

『安倍晋三首相が経済界の首脳に、賃金引き上げを要請したことが話題になっている。連合を民主党から引き離すための深謀遠慮があるとも言われている。首相が経営者に要請したくらいで賃金が上がるなら、苦労はない。まさか労働界の幹部はこんな見え透いた演技にだまされるはずはないと思うが。
 首相が本当に賃上げを実現したいと思うなら、確実な方法がある。それは最低賃金を引き上げることである。これは政治で決定できることである。所得の低い層ほど消費性向は高いので、経済界の首脳が経営する大企業で賃上げをするよりも最低賃金を上げる方が消費の拡大に直結する。 
 生活保護基準額が最低賃金金よりも高いのはおかしいという議論もあるが、話は逆である。最低賃金を生活保護基準まで上げることが必要だ。企業は反対するだろうが、賃上げによるコスト増を価格に転嫁すれば、デフレ脱却にもつながる。英国では最低賃金制度の導入が経済活性化に役立ったという研究もある。
 ルールなき競争の結果、労働の世界でも価格破壊が進み、ワーキングプアが発生した。人間らしい労働を守るためには、最後はわれわれすべてが労働に対する正当な対価を払うという覚悟を決める必要がある。普通に週四十時間働いたら生活ができるような社会を取り戻すことが必要である。』

「普通に週40時間働いたら、生活ができる」―そういう最低限の保証もないこの国の現状を、真剣に、命懸けなほど真摯に、何とかしないと、大和の国は、やはり滅ぶ。
憲法9条を改正して、集団的自衛権が行使できるようにするのが安倍首相の長い間の願望らしいが、とんでもない願望を持っている人が首相になったものである。自分は戦争に行かないから平気、そして、富裕層でない庶民は「いらない」から、平気なんだろうなぁ。
株価があがった、万歳!企業の財産が増えた、よかった。景気は上がっている――と目をくらませて、裏では、憲法改正に着々と準備中の現政権に「用心しろ、監視をおこたるな、国民!」と、叫びたい気分だ。

そんな国に、なってしまいました。あの戊辰の戦を経た後のこの国は…。

春は遠い。遠い春を探しにいこうか、歳さん。
探しに行く春は、庶民だけの春にしたい…ねっ!

〈追記〉探しにいく春の為に壁紙を春模様にしたいなぁ、よいのがあるかな?



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