先日、今月の歌舞伎座の夜のメイン出し物『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいさめ(←酔いざめのことっす))』を観てきました。満座の場での縁切りで大恥をかかされた佐野次郎左衛門が大詰めで花魁八橋を斬る刀は、徳川に仇する妖刀、という逸話の残る名刀“村正”。Sharp製世界最薄ラップトップの名前にもなった、あの"Muramasa"です。
日本の古典文学には名刀にまつわる逸話がよく出てきます。私の好きな『南総里見八犬伝』も、信乃が父から受け継いだ名刀(妖刀?)“村雨丸”をめぐる物語が脇筋の中でも大きく展開します。村雨丸は抜くとたちまち冷たい水気が走り、冷水を浴びせられたかのように冷たく鋭くしゃーっと切れる、というものですが、こんな話が江戸時代の超ベストセラーに登場するというのは、たたら製鐵法のクオリティの高さが人々に知れわたっていたという証でしょう。
現代人の感覚では、刀で斬られて死ぬなんて、あまりにも痛そうで残酷で背筋がゾッとしますが、名刀と言われるような刀だと、あまりにもスパッといってしまって、案外苦しまなかったのかも知れません。昔、美術の時間に手がすべって、彫刻等で太ももを切った友人がいました。筋肉の繊維の方向にそってタテにスパッと切れたので、意外と本人はへっちゃらな顔で保健室に歩いていきました。
長すぎる前置きはさておき。
前回、このたたら製鐵法によってできる玉鋼は、現代の製鐵工程から得られる鉄鋼とは純度がかなり違う、というお話をしました。この違いは、どうやら燃料の違いから来るもののようです。
現代の製鐵ではコークスを燃料に使って高温で鉄を溶かします。コークスというのは、石炭を焼いてつくる燃料です。石炭を焼いてコークスをつくると、副産物としてコールタールができます。コールタールからはイオウがとれます。・・・ということは、コークスにはイオウ成分がもともと含まれているわけですから、コークスを使って溶かした鉄には、このような成分が不純物として大量にまざってしまいます。
一方のたたら製鐵では、木炭を燃料に使います。こちらはコークスに比べると低い温度でしか発熱しませんが、イオウが含まれていません。もともとイオウが含まれていないうえに、低温ですから、鉄が溶けて液体になるのと冷えて固体になるのとの間ぐらいの微妙な状態で精錬されるという、不純物が混じりにくい工程になっているのだそうです。木炭を燃料としてつくった玉鋼には、不純物であるイオウがほとんど混ざらずに済む二重の理由があったわけです。
こんなビミョ~な工程、たしかに現代の科学技術をもってしても、機械で再現することは難しいでしょう、ということが、こうして色々調べてみるとよく分かります。一千年の歴史を持つ匠の技は、やはり深いですね。
余談;
この間のシンポジウムで聴いたGoogle副社長Cerf氏の講演内容を復習していたら、"Internet Global Statistics"という話のところで、"NUA"という組織名が出てきた。どこのことだろーと思ってググってみたら、ヒットしたのが
「日本ウクレレ協会」
ぜったい違うよねぇ~??
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