うちのカイシャは、某大学のメインの校舎とは別棟のビルにある。
ここは大学発ベンチャーが入居しているフロアなので、
カイシャ宛てに届く郵便物は、大学の職員さんが各ラボに届けてくれる。
ここ何カ月か、決まってお昼過ぎに郵便物を持ってきてくれる女性は、
ラボの入り口をノックしてからちょこっとだけ開けて、
「郵便でーす、置いときまーす」
と、ぺっ、と郵便の束を置いてそそくさと去って行っていた。
年恰好のわりに、イマドキの、“ごあいさつがニガテ”タイプかな〜って気はしてたけど、
いちおう職責は果たしてくれているので、ま、別にいいけどさ、と思っていた。
そのカノジョが、今日は封書を一通だけ胸のあたりにたずさえて、
息せき切ってやって来て、
「あの、ヒイラギさん、いらっしゃいますか?」
スタッフに仕事の指示をしている手を止めて振り向くと、
すたすたとこちらにやってきて、郵便です、と両手で封書を差し出した。
これまでにない、絵に描いたようなご丁寧で確実な手渡し。
はい、ありがとう、と受け取ったら、
「失礼します!」って一礼して事務室に駆け戻って行った。
なにゆえにカノジョのあの態度?と、目の前にいたスタッフも、きょと〜ん。

渡された封書を見ると、非常勤をやってる国立大の封筒で、差出人は人事課。
しかも、書留でも、速達でも、なんでもない、ただの普通郵便。
なんだろな。
もしかして、よもやヒイラギが国立大学で教えてる人だとは夢にも思わんかった、みたいなことか。
零細ベンチャーの事務アルバイトか、先生の秘書の人だと思ってましたすいません、みたいなことか。
たしかに、どこのロシア人だ、みたいなカッコで出勤しとるけれども。
(だって、先生にも「その毛皮の帽子、似合ってるね
」って言われてるし♪)
たしかに、毎朝、湯沸しポットにお湯くんだり、帰る前に自分でマグカップ洗ったりしとるけれども。
ま、福祉分野の事例研究なんかしてる身としては、
必要以上に人様に威圧感を与えるよりは、
ナメられてるぐらいのほうがいい仕事ができるんじゃないかと、自分では思っている。

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