髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

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天使の吐息 #35

2009-11-30 21:33:51 | 天使の吐息(詩)
女子高生が公園で焚き火をしていました。

じっと炎を見つめていました。

「みんな燃やしてやる・・・」

彼女は、長年、親友だった子と喧嘩別れをしてしまい、交流していた手紙などを全部、公園の落ち葉を集めて被せて焼こうとしていました。

彼女は、几帳面な性格で今までやり取りしていた手紙などを全部取って置いたのでかなりの量があって箱の中に沢山、溜まっています。

「お嬢さん。公園で焚き火はいけないな~」

おじいさんが彼女を見かけて声をかけてきました。箱を茂みの中に隠しました。

「バケツがあるんだからいいでしょ」

睨みを利かせ、キツイ口調で言いました。

彼女が言うとおり、バケツに水を汲んで置いておいてます。

彼女はご老人が嫌いでした。

その理由は単純明快老人特有の臭いが嫌いだからです。

彼女の祖父母に対しては、お年玉やお小遣いをもらうときだけいい顔をしてもらった途端、あからさまに邪険にするような態度を取っていました。

ですから、見知らぬ老人など拒絶の対象です。

「そうかい・・・でも、ぬくい。ぬくい」

老人は火に当たり始めました。

『もう!どこか行ってよ』

「焚き火をしているのなら芋でも持って来た方がいいかな?ちょっと待ってな」

おじいさんは立ち去りました。

『ええ~。また来るのぉ?もう水をかけて帰っちゃおうかなぁ?』

ヒュウ

急に風が吹いて、手紙を入れていた箱から手紙が何枚か舞いました。

「ああ!」

茂みの奥に入ってしまい、取るのに苦労しました。

「おう!戻ってきたよ~」

『早っ!しかも何人かいるし!』

彼女が言うとおり、近所の老人を集めたようで3人もいます。

『はぁ~・・・』

これで帰りにくくなりました。

「さて、芋を入れるか・・・」

最初に来たおじいさんはアルミ箔でつつんだ芋を焚き火の中に入れました。

「せんべいを持ってきたんだけど食べるかい?」

新しく来たおじいさんはお菓子を持っていました。

「アタシは魔法瓶の中にお茶を入れてきたけど飲むかい?」

もう一人のおばあさんは大きめの水筒を持っていました。

「いいですから・・・別に欲しくないので・・・」

彼女は断りました。

「遠慮しなさんさ。若いんだから」

新しく来たおじいさんは結構、食い下がる性格のようです。

「嫌がっているんだからおよしよ。若い女の子を見ると誰彼構わず~」

新しく来たおばあさんがおじいさんをたしなめます。

「何を言うか。誰彼構わない訳じゃないぞ!俺だってかわいい子にしか声をかけんわ」

「だったら私にも声をかけてもいいんじゃないかい?」

「どこがだ!どうからどう見ても鬼婆じゃないか!娘さん。そうは思わんかい?」

「そんな事ないと思いますよ」

「ほら~。そう言ってくれているじゃないかい。私は可愛いんだよ」

「娘さん。本当の事を言った方がいいよ~。お世辞を言うとこの婆は付け上がるから」

「何を言っているんだい!見る目のない糞爺が!」

「まぁまぁ。お二人とも、若い子にあんまり見苦しい姿を見せるもんじゃないよ。娘さん。気にしないでくれ~。いつもの事だから」

「そうそう。こんな癇癪爺の事を聞いていたって仕方ないよ」

「何を言うか!この偏屈婆が!」

「ま~た始まった」

『もう帰りたい・・・』

何でこんな事に巻き込まれているのか悲しくなってきました。

「お、芋が温まったみたいだな」

おじいさんが言いました。

「お!食べるぞ~」

「私ももらうよ~」

殆ど同時に言って、1本の芋を割ると、大きさに違いが出来ました。

「どっちを食べるかい?」

「私は小さいのでいいよ。そっちの大きいのを食べなよ」

「俺も小さい方でよいんだよ。アンタ食い意地が張っているんだから食べればいいじゃないか?」

「何だってぇ?アンタ食が細くなりすぎて、痩せておっちんでまうで」

「そんな事をしていると芋が冷めるよ」

芋を持ってきたじいさんによってまた喧嘩は収まりました。

「そうだな。じゃぁ俺は大きいのを食べよう。アンタは小さいのでいいな」

「いいよ」

芋を渡して食べ始めました。

「一人で一本は食えんから、お嬢さんも食べてくれると嬉しいんだが」

「では、少しもらいます」

彼女は、1/3ぐらいのお芋をもらって食べました。

ホクホクして自然な甘みが口いっぱいに広がります。

「美味しい」

「ああ~。そりゃ良かった。良かった」

最初のおじいさんもホッと一安心という様子でした。

「ゴホッ!ゴホッ!」

「はい」

おじいさんが芋を食べてむせている所におばあさんが絶妙なタイミングでお茶を差し出してホッしていました。

「死ぬかと思った~」

「そのまま逝ってくれるとこっちも助かるのにね~」

また始まったのを見て彼女はちょっと羨ましく思い、微笑ましく見て、そして一つの答えを導き出しました。

『手紙燃やすのやめようっと』


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