髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

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天使の吐息 #13

2009-06-29 22:36:26 | 天使の吐息(詩)
10歳の少年がいました。

学校から下校しようと玄関までやってきた所です。

「くそっ!傘を持って無いのに雨が降っていやがるんだ!」

朝、雨が降ると天気予報で言っていたのに忘れてしまったのです。

「みんなして傘を持ってきやがって・・・こんなにあるのなら一本ぐらいパクったって構いやしないだろう」

いざ、選ぶとなるとどれにしようか迷ってしまいます。

「どれにしようかな~。どれでもいいって思うとちょっと楽しくなってきたぞ。これにし~よっと!」

良くある一本の紺色の傘です。

ヒュウ

「ううぅ・・・何かトイレに行きたくなったぞ。家まで遠いししていこう」

トイレに来て用を足しました。

「ふ~。さて、帰るぞ」

また玄関に戻ってきたときに気付きました。

「あ、パクッた傘忘れた。何、やってんだ~俺」

そんな事をしていると傘立ての前で駆け回っている気の弱そうな少年がいました。

「ない!ない!ない!ない!」

「どうしたんだよ」

「ぼ、僕の傘がないんだよ~!」

「傘がない?どんなのだ?」

「紺色の傘なんだけど・・・」

『まさか・・・』

「昨日、買ってもらった傘なのに、お母さんに怒られる~」

「良く探せよ。紺色なんて沢山あるんだからよ」

「うん」

気の弱そうな少年は必死に探しています。

『便所に忘れてきて良かったぜ。今、持っていたら完全にアウトだった。でも、どうする?便所に置いたままにして今ここで別の傘をパクッて帰っちまうか?』

でも、さすがに、二本目の傘を盗むのは気が引けました。それよりも今にも泣きそうな顔をしていました。

「酷い事をする奴もいるもんだな。雨の日に傘をパクッたら誰かが必ず困るってのによ~」

「うん」

「・・・。あ、俺、忘れ物しちまったよ!」

すぐにトイレに戻って、傘を手に取りました。

「しかし、どうやって戻す?やっぱり無視して帰るべきか?いや、そういう訳にはいかねぇ・・・あ!良い手を考えた」

少年が後ろを向いて探している所に傘を入れました。

「見つかったか?」

「ないよ~。やっぱりないよ~」

「お前そそっかしいからな。別のクラスのに置いておいたんじゃないのか?」

「そんな事ないよ」

「本当にそういえるのか?」

「うう~ん・・・そうだね。探してみる」

「あった!あったよ!コレだ!」

「ほら、だから言っただろ?」

「うん!ありがとう!君が言ってくれなかったらぼくずっと探していたよ」

「そうか・・・良かったな。それじゃ、俺帰るわ」

「あれ?傘は?」

「ああ・・・傘、忘れたんだよ。全く雨が降るってのにドジなんだよな~俺」

「じゃぁ・・・一緒に帰らない?」

そのように言われた少年はビクリと震えました。

「バカが!男と一緒に傘で帰れるか!それに俺は急いでいるんだよ!友達と約束しているからな。じゃぁな!」

そう言い終わる前に、玄関を飛び出していました。

不思議なぐらい雨が冷たく感じられました。

「雨が降っていて良かった」

そんな少年の目の端に雨粒が溜まっていました。


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