宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

松井彰彦(1962-)『不自由な経済』第2部(31)-(41)、日本経済新聞出版社、2011年

2017-05-09 09:21:19 | Weblog
(31)長期脳死の子どもと生活を続ける家族に対し、臓器提供が望ましいと価値観を押し付けてはならない(2011年)
①長期脳死の子どもと生活を続ける家族にとって、「心臓移植を待つ日本の子どもを見殺しにするのか」との訴えは、残酷である。
②改正臓器移植法(2009年7月)が成立したからといって、臓器の公共性をふりかざし、倫理的に臓器提供が望ましいと、価値観を押し付けてはならない。

(32)公共心の低下が、「強欲資本主義」を生んだ:「経済・政治・倫理」の複合体を理論モデルとせよ(2009年)
①リーマンショックと資本主義批判。
①-2 個々人の利益が市場を通じて全体の利益につながるとのアダム・スミスの思想への批判。
②実体(ファンダメンタルズ)は、直接観察できないため、市場価格と実体(ファンダメンタルズ)の乖離を抑える規制や介入と言っても、果たして乖離があるのかどうか自体が不分明。
②-2 病気でないのに、副作用のある薬を投与するようなものとなる。
③不正に社会保障給付を受け取ることが平気な社会では、失業保険が充実しない。市場の円滑な機能のためには、公共心が必要である。
③-2 公共心が低下し、不正な公共サービスの利用が始まると、政府の規制が強化され、市場が機能しなくなる。
④市場原理主義が公共心を一掃してしまったのでない。
④-2 公共心の低下が、「強欲資本主義」を生んだ。
④-3 アダム・スミス自身、利己心がうまく全体に調和をもたらす場合と、公共心が必要な場合を、区別していた。
⑤「経済・政治・倫理」の複合体を考え、公共心・規制の問題を考えるべきである。邪な心の人ばかりなら、市場は邪な取引の場として、使われてしまう。

(33)子ども手当現金給付の問題:現金給付は最良の政策でない(2009年)
①民主党政権成立(2009/9-2012/12)といっても、経済原理・原則を無視はできない。
①-2 子ども手当や農家への所得補償など現金給付は、問題である。財政破たんへの道を歩む可能性。すでに800兆円の国の借金。
②子ども一人に年間30万円の子ども手当を現金給付するより、公立小中児童一人当たり予算年間76万円を増額した方がよい。
③高齢者介護でも、現金給付でなく、サービス給付が必要。排せつ介助の場合、「現金をあげるからあとはご自由に」でなく、必要な介助サービスの保障が重要。
④子ども手当のようなものを恒久化したいなら、財源確保の議論が不可欠。
④-2 財源の確保なしに個別の歳出増加を認めない「ペイゴー原則」、予算のばらまきへの歯止めなどが重要。
《感想》
 自民党政権(2012/12-)も、アベノミクスのもとすでに、1000兆円超の国の借金である。財政破たんへの道をすでに歩んでいる。(2017年)

(34)民主党政権と「脱官僚」公約:しかし官僚との連携は必要(2009年)
①民主党の政策決定は、情報を持つ官僚の話を聞かず、思いつきの政策をメディアに華々しく宣言し、具体策は官僚へ丸投げする。
②日本の官僚機構は日本最大のシンクタンクであり、政策に関する情報を一手に握っている。学者・評論家など有識者も、官僚からの情報なしに、物事の検討すらできない。
②-2長年にわたって自民党を支えた最大の政治的資源である道路。民主党は国土交通省を「脱官僚」のターゲットにする可能性あり。
②-3 しかし、いずれにせよ官僚との連携は不可欠。
③「官僚は政体より長生きする。」(内田樹)(a)征服者を正装して出迎えた中国の官僚層。(b)ナチス傀儡政権下で入れ替えがなかったフランス官僚層。粛々とユダヤ人をガス室に送った。戦後は民主化に尽力した。
④民主党の政策方針は、長期的マクロ的政策が見えす、「約束(マニフェスト)」に固執するだけ。

(35)財政破たんを避けるには増税論議が不可欠(2009年)
⑤財政破たんを避けるには、増税と社会保障制度改革が不可欠。行政刷新会議のムダ排除だけでは焼け石に水!
⑤-2 増税の手段としては消費増税。これに対し、法人税は景気に左右される。所得税は、資産課税されず、労働意欲も減退させる。
⑤-3 格差解消の手段としては、(a)「給付付き税額控除」および(b)所得税の累進度を高めること。
⑥「給付付き税額控除」とは、ある所得額を境に、税を納めず給付を受ける。境界値200万円、給付率30%とすると、基準値以下では収入が1万円減少すると3000円、給付を受ける。収入100万円なら+給付30万円。収入0円なら+給付100万円。
⑥-2 これは、「負の所得税」構想、あるいは「ベイシックインカム」制度と類似である。
⑦鳩山首相は、(a)「給付付き税額控除」の検討を命じた。
⑦-2 しかし、(b) 所得税の累進度を高めることは封印、また(c)消費増税も封印している。小泉政権と同じ。

(36)少子化による経済縮小に対応するため移民を受け入れるべきだ(2009年)
①日本経済の最大の課題は少子化による経済の縮小。
② ファースト・リテーリング会長兼社長・柳井正氏:縮小均衡はあり得ない。縮めば、衰退あるいは病気になるだけ。若い人が現状変革の意欲を持つ必要がある。教育が重要。
②-2 大阪府教委特別顧問・藤原和博氏:家庭に恵まれない子供が1割いる。そこに注力すべきだ。
③少子化対策として移民受け入れが必要である。
③-2 技術移転と貿易自由化が進めば、賃金も世界的に同じ額に収斂する:「要素価格均等化定理」(ポール・サミュエルソン)。
③-3 移民を制限しても、企業が日本人を雇うわけでない。企業が海外進出するだけ。中小企業は没落し、国内経済は空洞化するだけ。
③-4 最近の実証研究によると、外国人労働者が多い地域で、日本人労働者の雇用が奪われているわけでない。
③-5 移民は消費者でもあり、移民が増えれば、地域経済が活性化する。
④低廉な労働力確保のための移民政策は誤り。移民を日本人同様に扱わないと。真の少子化対策にならない。さらに母国に帰った知日派が日本に学生・労働者を送るなど、「循環移民」が成立する必要がある。(井口泰)
⑤グローバルな世界で生きるには、日本人の子どもたちにとって、異文化交流が重要。

(37)鳩山政権にはビジョンがない:税収および財政支出のビジョンが必要である(2010年)
①税収のビジョン:日本の財政赤字の原因は、政府の規模が大きいことでなく、税収が少ないこと!(大竹文雄)
②財政支出のビジョン:(a)科学技術への投資。日本は学術研究をおろそかにしている。「食べていけるか、容易にできるか」で研究テーマを選び「情けない」とノーベル賞受賞者・下村脩氏。(b)雇用の受け皿として医療・介護など新規産業の育成。(c)子どもの貧困率を下げる施策。
③社会発展の原動力は、企業者の「経済的騎士道」という利他的精神である。(経済学者マーシャル)

(38)日本人は、自分たちの潜在力に目を向けよ!(2010年)
①日本国債のデフォルト・リスクが、中国国債を一時上回った。(2010年)
①-2 2011年度予算は、税収が財政の4割しかない。
②しかし、最も重要なのは経済成長の実現。財政や国債は二義的な問題とも言える。
③日本の潜在的成長率は3%も可能。(脇田成氏)
③-2 労働市場の競争性が一気に高まったのに、セーフティーネットが充実されないので、消費低迷・格差拡大が起きた。政府によるセーフティーネットの充実が、経済成長にとって重要。
④「もう成長しなくてよい」という考え方もある。確かに、内需喚起の構造改革は重要。
④-2 しかし急成長するアジアなど外需との連携も、重要。
⑤日本人は、自分たちの潜在力に目を向ける必要がある。私たちは「醜いアヒルの子」でなく「白鳥」となりうる。(下村治氏の敗戦直後の言葉)
⑤-2 今、日本人は自国にまったく自信が持てなくなっている。

(39)日本は「脱近代化」を目指せ!(「西洋化」の終り!):中国との差異化を求めないと日本は敗退する&高等教育・科学技術予算を重視せよ(2010年)
①中国の国内総生産が、日本を追い抜き(2010年)、近代化のチャンピオンの地位は、中国に奪われた。
②中国との差異化を求めないと、日本は敗退する。
②-2 単なる中国進出だけでは、各国の競争が激しくなり、超過利潤はなくなる。
③「近代化」は、先進国へのキャッチアップの過程。「脱近代化」は、キャッチアップした後に、いかに他国と差をつけていくかの過程。
③-2 日本は「脱近代化」を目指さねばならない。世界の最先端の知識にキャッチアップするだけでなく、研究開発によって新しい知識そのものを作り出さねばならない。
③-2 その際、高等教育が重要だが、日本は、他の先進国と異なり、高等教育や科学技術の予算を削っている。
④日本は、いまだに過去の成功体験に縛られている。

(40)障害者を活かすゲーム理論:「社会的事実」は変えることが出来る(2010年)
①福祉と経済は、水と油で対立するものでない。
②現代の経済学は、「費用対効果」の視点を保ちつつも、ゲーム理論を取り入れ大きく変貌した。
②-2 ゲーム理論は、「互いに相手の行動を考えた上で、人々が行動する」との観点から、人間行動を分析する。
②-3 費用対効果を考えた時、車椅子ユーザーの就労が1人なら、通勤経路と職場のバリアフリー化は、効果に比し費用が莫大すぎる。しかし100人が就労すれば、同じ費用で効果は100倍になる。
③「社会的事実」は、物理的事実と異なり、人々の意見で作られる側面がある。このことも、ゲーム理論が明らかにした。
③-2 通勤できない障害者が定職に就けないという「社会的事実」は、みんなの考えに基づいている。みんなの考えが社会的事実となる。Ex. みんながそう思っていれば誰も障害者を面接しない。本人も面接してもらえると思わないから職探ししない。
③-3 ゲーム理論は、「社会的事実」は変えることが出来ると教える。
③-4 例えば、障害者の、在宅就労制度は、費用対効果が高い。
④「自立」と言っても、そもそも商品生産社会では、初めから互いに支え合うことを前提した上で、自立が語られる。
⑤経済学の第一原則は「自分のことは自分で決める」である。
⑤-2 これは国連障害者権利条約の「わたしたち抜きに、わたしたちのことを決めないで」という理念と響き合う。障害者は福祉の「対象」でなく、物事を決める「主体」である。
⑥障害者、長期疾病者、子育てで仕事を辞めざるを得ない母親、増加する高齢者を、資源ととらえるべきである。

(41)「盛年労働市場」を構築せよ!&政府が雇用流動化に範を示せ=官民を渡り歩く盛年労働市場を作れ!(1999年)
①ゲーム理論の「ゲーム」とは、「複数の個体が互いに相手に影響を及ぼし合っている状況一般」をさす。Ex. 寡占競争、国家間の戦略的関係は、ゲームである。
①-2 ゲーム理論は、政府や官僚も、一プレーヤーとして捉える。政府は、多くの雇用者をかかえる経済最大の事業主である。
②政府は、効果がない裁量的な財政・金融政策に、汲々とすべきでな。
③政府は、働き盛りの(ホワイトカラー)労働者のための市場(「盛年労働市場」)を積極的に創出すべきだ。
③-2 高度経済成長期なら、長期雇用制・年功制が可能。
③-3 企業は、自社だけ長期雇用をやめると、新卒の優秀な学生はみな他の企業に行ってしまうので、長期雇用をやめられない。
③-4 キャリアの途中で職を探す労働者が少ないので、「盛年労働市場」は発展しない。
③-5 盛年労働市場が未発達なため、大企業の従業員も、離職した時の不安が大きい。
④政府が民間の人材を、働き盛りに登用すべきだ!
④-2 また官僚も、働き盛りに、民間に出ていく。
④-3 さしあたり官と民との出向制度を量的・質的に拡充すべきだ。
④-4 民間で実績をあげたものが、再び事務次官など政府の枢要な職に就けるようにする。
④-6 外資系企業間の市場から、有能な民間の労働者を一本釣りで雇う。
④-7「動くやつは、はみ出し者」から「動くやつは、できるやつ」と評価が変わる必要がある。
⑤政府は「百年の計」をたて、年功制の変革をおこなえ。10-20年かかる。この変革は、世代交代が必要だろう。
⑤-2 働き盛りが終わって、官から民に移る天下りとは異なる。
⑤-3 官民癒着を防ぐには、情報公開が重要。
⑥政府も官僚も、市場のプレーヤーだ。
⑦また官民を渡り歩いたものは、敵を知り己を知る人材となる。一国の統治は、そうした優秀な人材に委ねられるべきだ。
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